長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
前原金一 副代表幹事・専務理事
記者の質問に答える形で、長谷川代表幹事より、(1)電気料金値上げ・今冬の節電、(2)日本銀行の追加金融緩和および政府の緊急経済対策、(3)経済・景気動向、(4)原子力規制委員会の放射性物質の拡散予測データ、(5)石原慎太郎東京都知事の辞職と国政復帰、(6)前原誠司国家戦略担当相の事務所費問題、(7)米大統領選挙の展望、(8)2013年度税制改正、(9)解散・総選挙の時期、について発言があった。
その後、長谷川代表幹事より、(1)国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書、(2)総選挙に向けたマニフェスト作成、について発言があった。
Q: 昨日、関西電力が電気料金値上げの検討を始めたと発表し、他の電力会社も追随すると見られる。電気料金の値上げについて、産業界に与える影響等を含め、受け止めを伺いたい。
長谷川: 産業界、あるいは家庭の需要という意味での一般国民の立場からすれば、値上げがないことが望ましいのは申し述べるまでもない。一方で、現在、原発再稼動の目処が立たない中、それを補う形で火力発電を総動員して必要な電力を供給しており、総発電量の8割程度が火力発電になっていると思う。その燃料は、輸入による化石燃料であり、原発が稼働していた時期と比べると、年間約3兆円を超える追加コスト増となる状況である。(原発再稼働の)目処がつかない状況で、このまま(電力会社が)赤字(経営)を続けることは、事業運営上難しいため、大筋としてはやむを得ない。一方で、電力会社には、消費者に(値上げという形で)負担を求めるのであれば、どれだけのコストダウンをしたかについても併せて開示されることを期待したい。
Q: 電気料金値上げの際に、それにリンクする形で(電力会社が)社員の給料を引き下げることを検討しているとの報道があるが、このような手法について所感を伺いたい。
長谷川: 各々の電力会社の経営者の判断であり、(労働)組合員にまで(給与引き下げが)およぶとすれば組合との話し合いの結果によるものだろう。消費者あるいは電力利用者に、値上げに対する理解を得るメッセージの一つとして、経営の判断で(給料引き下げを)実行し、従業員が納得するのであればやむを得ない。そのこと(給料引き下げ)自体は、対消費者との関係において、多少は値上げに対する抵抗感の緩和になるのではないかと思う。
Q: 報道によると、政府はこの冬、北海道電力管内に7%程度の節電目標を要請する方向で調整に入っているようである。夏のピーク時間帯といった対応ではなく、冬は終日需要が高い地域で、他の地域より影響が大きいと思うが、北海道の冬の節電要請について所感を伺いたい。
長谷川: 節電目標や要請はないに越したことはない。しかし、泊原発について、原子力規制委員会や原子力規制庁はできたが、早急に安全性の確認ができ、再稼動に進められるような状況にはない。なおかつ、津軽海峡を越えての送電の容量も大きくない中では、限られた電力量しか供給できない。結果として、ある程度の節電目標や要請がないと、次のステップである計画停電にいかざるを得ない。(北海道の)冬場の状況を考えれば(節電は)容易ではないだろうが、他に選択肢がない中では、政府としても遺憾に思っていると思うが、節電を要請せざるを得ないのではないか。
Q: 日銀が本日の政策決定会合で追加金融緩和を決定する見込みである。発表前だが、タイミングと効果について、所感を伺いたい。
長谷川: タイミングについては、(政策決定会合は)定期的に開催されているので(日程に対する)コメントは特にない。外部環境との比較においては、景気の腰折れがますます懸念され、いくつかの経済指標にも(景気の)悪化が見られる中で、景気刺激のためのあらゆる施策が総動員される必要があり、日銀の政策決定にも注目している。(基金の)総額を10兆円増額して90兆円に上げることについては、マーケットはすでに織り込み済みなので、その発表があっても新たなポジティブなインパクトはないと判断せざるを得ない。
<会見終了後、政策決定会合の結果を受けて、以下の追加コメントを公表>
基金増額(11兆円)について: 予想されていた10兆円を超え、前進した部分はあるが、市場に対するメッセージ性については、織り込み済み範囲を大きく超えるものではなく、大きなインパクトは期待できない。
「資金供給の枠組みの創設」および「政府・日銀の連名文書」について: 従来の枠組みを超えた新たな取り組みとして、姿勢を評価したい。
Q: 前原誠司国家戦略担当相が政府の立場で日銀の政策決定会合に参加すること自体については、どのように考えるか。
長谷川: (日本銀行法において)大臣の権利として(政策決定会合への参加が)認められている。過去、竹中平蔵経済財政担当相は何度も出席していたと聞いており、参加すること自体は、とやかく言う問題ではない。
Q: 以前であれば、仕組み上はそうである(大臣が出席できる)が、目に見えないプレッシャーとして日銀の独立性を脅かすという議論が高まっていたと思う。その観点からはどうか。
長谷川: 金融政策だけでなく、一部ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)、国債の買い取りなど、(政府・)財務省が本来行うべき(財政政策の)部分とのグレーゾーンに入っているので、政府と日銀が申し合わせをした上で、お互いが協力しながらやるべきことをやるという形が望ましいと思う。
Q: 先日の政府の緊急経済対策・第一弾については「十分な規模であるとは言い難い」との厳しいコメントを出したが、本日の日銀の金融政策との相乗効果は期待できるか。
長谷川: 今回の政府の緊急経済対策(第一弾)は、(今年度予算の)予備費の使用である。本来、政局が正常に動いていれば補正予算を組むべきところ、それができない局面での可能な範囲の対策というのが実態であろう。
私の一番の懸念は、(消費税増税実施への悪影響である。)来年の今頃には、2014年4月の消費税率3%増(実施)の決定をしなければいけない。(増税実施の判断には、経済環境の急変時に増税を見合わせる)景気条項が盛り込まれており、来年の4-6月期や7‐9月期がマイナス成長になれば、増税(実施)に大きなマイナスの影響を与える。このような背景もあり、今は切れ目のない景気刺激策を講じることによって、腰折れになりつつある景気を安定的に成長させることを、何としても実施する必要があると考えている。これまで採られた景気刺激策の中でエコカー補助金は既に切れており、さらには電気料金値上げ、社会保障・税一体改革における年金保険料の引き上げ、中国のリスクが与えるマイナスの影響など、さまざまなネガティブな要因があり、景気の腰折れを懸念する中で、早め早めに施策を講じていただきたいと考えている。
Q: 本日、厚生労働省が(9月の)有効求人倍率を発表し、3年2ヶ月ぶりに悪化という結果であった。雇用に景気悪化の影響が出ているものと考えるか。
長谷川: 今回の結果が、部分的・局所的なものか、景気の腰折れを反映したものかは、少し見極める必要があるが、今の景気動向が影響していると推測できるのではないか。
Q: 赤字国債発行法案の成立の見通しが立たない中、政府は11月分の地方交付税の配分見送りを決めた。各自治体からは反発する声も上がっているが、この影響をどのように考えるか。
長谷川: 景気の足取りにマイナスの影響を与えることは間違いない。一日も早く特例公債法案を成立させ、予算の執行ができないことによる景気へのネガティブな影響は、今の段階では何としても避けてほしいというのが、政府に対する要望である。
Q: 成立させるためには与野党の合意が不可欠だが、現状で政治に求めることを伺いたい。
長谷川: 昨日公表した緊急意見書「臨時国会開会を機に『決断し、実行する政治』への転換を」でも述べた。特にここ20年近く(歳出が歳入を大幅に上回り)赤字国債を出さないと予算がまかなえないという状況の中で、予算案が承認されても、その予算執行に必要な特例公債法案の承認を人質にとり、執行を妨げ、政局に持ち込むことは、本来の政治の在り方とかけ離れていると感じる。日本アカデメイア有志でも提言したが、予算と執行とを同時に通す仕組みを作ってほしい。今年度はまだその仕組みがないので、(特例公債)法案の迅速な成立を求めたい。それでなくても弱っている地方の経済にさらにネガティブな影響を与えることは、何としても避けてほしい。
Q: 本日、経済産業省が発表した製造工業生産予測調査では、10月が前月比マイナス、11月はプラスに持ち直すと出ている。冬場に生産が戻るような実感はあるか。実感がないとすれば、どういうリスクが排除されば、生産を持ち直すことができるか。
長谷川: エコカー補助金が切れたことによる自動車産業への反動、電気料金値上げ、中国への輸出大幅減が続いていることなど、すべてが影響していると思う。新たな刺激策を打たないと、早急にそれらが改善されるとは考えにくい。
Q: 企業の決算に中国・反日デモの影響が出ているが、これについて所感を伺いたい。
長谷川: 極めて遺憾で残念な状況で、企業にとっては極めて痛みを伴うものである。それ(日中関係の悪化)を早急に解決する手段があればやるだろうが、残念ながら今の段階では即効性のある施策を打てるとは考えにくい。次第に状況が落ち着いて、できるだけ早く、中国の市場や消費者が気分的にも以前の状態に戻ることを待つしかない。同時に、更なるデモや反発を惹起することは避けて欲しい。
Q: 先週、原子力規制委員会が原発事故時の放射性物質拡散予測を発表した。予測された拡散範囲内に生産拠点を持つ企業も多いと思うが、対策をどのように考えるか。
長谷川: 今回のような発表がされた場合、万一に備えて対策をとるのが筋ではあるが、ハード面での具体的対策は極めて難しい。当面の対策としては、万一事故が起きた時に、どうやって迅速に避難をするかが一つ。また、そこで行っている事業活動について、営業拠点であれば営業所を移転できるし、生産拠点であれば代替の生産を行うところを用意しておく、さらに中期的には生産拠点の移転も考えざるを得ない。経営者の観点からはそのような対策が考えられる。
前原: 中国や韓国の原発についても、偏西風があるので(同様に事故発生時の放射性物質拡散の)シミュレーションを考える必要がある。
Q: 先週、石原慎太郎東京都知事が任期半ばでの辞任を表明した。日本最大のパワーを持つ自治体のトップが期半ばで辞任することと、国政参加を表明していることの2点について、所感を伺いたい。
長谷川: 前半(任期半ばでの辞任)については、石原都知事が熟慮に熟慮を重ねて判断されたことと想像する。ただ、昨年の選挙前のいきさつ、(石原氏は知事を)辞める意向を宣言していたにも関わらず、様々な事情や周囲の説得によって再度出馬を決めたようなことを考えれば、1年半余りで辞めることは少しいかがなものかと思うし、出馬したからには任期をまっとうするのが筋と考える。
国政(参加)については、どのような理念や政策を掲げ、どういう人たちを糾合し、選挙の洗礼を経てどれだけの勢力を作るかが、国政への影響力の源泉であるので、冷静に見守り、成果を見たい。
Q: 石原都知事は、米倉弘昌日本経済団体連合会会長を名指しし「タヌキみたいなおっさん」や「あれ」などと表現した。独特のパフォーマンスについてはどう考えるか。
長谷川: 好ましい表現ではない。都知事の立場での発言であるが、国政に戻ったらもう少し品の良い言葉を使われることが望ましい。
Q: 石原都知事が最近の尖閣問題のきっかけを作ったと言われているが、景気への影響や中国との経済関係に対して、(国政への)復帰はどのような影響を与えると考えるか。
長谷川: 例えば、米大統領選でもよく、「ロムニー氏は大統領になったら、真っ先に中国を為替操作国家として認定し糾弾する」などと言われているが、実際に(大統領に)なってそれを実行されるかは分からない。石原氏も、国政の責任ある立場に就かれたら、都知事時代と同じ態度というわけにはいかないだろう。国家全体の今の利益や状況を考えた発言に少し変えていただけるのではないか。
Q: 前原大臣の事務所費問題が持ち上がっている。自民党政権の時代では大臣の辞任につながるような案件だったが、このような問題について所感を伺いたい。
長谷川: 問題が持ち上がること自体は、もちろん好ましくない。どのような実体があったかをきちんと説明された上で、最終的に判断されるのではないか。報道で知る限りであるが、今の時点では、説得力ある形での説明はできていないようである。仮に(事務所としての)実体がなければ問題は大きくならざるを得ないだろう。
Q: またか、という印象はないか。
長谷川: 少し失礼な言い方になるが、政治家の皆さんが身辺を身ぎれいに保つという点において、政治献金の問題、特に日本国籍を持たない方からの献金の問題が繰り返されたり、事務所経費において必ずしも適切でない処理がなされる問題が起きたりすることについて、またかと言わざるを得ない。もう少ししっかりやっていただきたい。
Q: 米大統領選の行方について、展望を伺いたい。
長谷川: 展望はよく分からない。報道によると、フロリダやオハイオなど7~9あるスイング・ステイトを一つでも取れば、バラク・オバマ大統領が勝つ可能性が高いだろうと予想されている。オバマ氏とミット・ロムニー共和党候補の(21~27日までの)平均支持率は1%程の差で競っているが、個別のスイング・ステイトの状況からすると、まだオバマ氏が勝つ可能性が若干高いというのが一般的な見方であると思うし、それ以上のことを判断する材料を持ち合わせていない。
Q: ハリケーンの影響によりニューヨーク証券取引所が休場になっているが、米大統領選への影響はあるか。
長谷川: オバマ大統領は「大統領選挙には影響ない」と言っているので、おそらく影響はないと考える。(大統領選挙がある)11月6日まで一週間近くあり、その日までハリケーンが残るとも思えない。(住民や経済に)どの程度のダメージを与えるかという問題はあるにしろ、今回は予備投票で35~40%近くなるとの報道もあるので、ハリケーン自体が大勢に大きな影響を与えるとは考えにくい。
Q: 2013年度税制改正に関連して、昨日、日本自動車工業会が、自動車における多重課税の軽減・解消・撤廃を求めた。経済界としてはどこに力点を置いて要求していくべきと考えるか。
長谷川: (2013年度税制改正に向けての要求は)経済同友会としては検討中である。各々の業界の代表が、それぞれの立場で要求することは、業界活動の一環であるが、政府として最終的に考える時は、当然、偏ることがないように全体のバランスを見て、できるだけ国民の納得が得られる形としなければならない。
Q: 解散は首相の専権事項ではあるが、前原大臣の(事務所費)問題などいかにも政局の問題であり、特例公債法案や一票の格差是正、また社会保障国民会議など、やるべきことを早く決着させて、早期に解散した方がいいとお考えか。
長谷川: 野田佳彦首相ご自身が(民・自・公の)3党党首会談でそのようなことを仰っていた。そこに含蓄する意味は知る由もないが、少なくとも早期解散を求めている野党、特に自・公は、その環境を整えた方がいいと思う。そうすれば、「近いうち解散」に一歩押しやる方向に進むのではないか。
Q: 自・公から環境を整えた方が良い、という趣旨か。
長谷川: (特例公債法案や一票の格差是正のための選挙制度改革法案の成立は)国会で承認されなければできない課題であり、最大野党が反対では通らない。それぞれの党としての考えはあるだろうが、前に進めるという意味では、それらを早く通すべきではないか。特に、特例公債法案は景気に重大な影響がある。また、一票の格差是正は、昨年から言い続けているが、憲法違反の状態で選挙を行うこと自体を許容できない上に、立法府が司法の判断を無視するという前例のないことを、一年半も経ってから取り組むことについても、普通の感覚からすれば許容できない。憲法違反は(罪が)重く、国民に範を示すべき政治家・立法府が犯すことは大変なことであるので、そこをもっと真剣に考えて取り組んでいただきたい。これは昨年からずっと主張し続けており、ここまで引き延ばしたことに対する憤りを持っている。さらに、今度は(2010年7月の)参議院選挙(区)も違憲状態の判決を受けており、この問題に関して政治は何をやっているのかと、強く抗議したい。
<長谷川代表幹事によるコメント>
長谷川: 三点あり、まず、一票の格差是正の問題を放置していることについて、改めて強調しておきたかった(が、先に述べたので割愛する)。
二つ目は、先般、国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)が報告書を出したが、この報告に対するフォローアップがまったく報道されておらず、実態もつかめない。初めて(国会に)調査委員会を設け、鳴り物入りで開始して報告した以上、創設・推進した国会は、フォローアップにもきちんと取り組んでいただきたい。
三つ目は、早晩、解散・総選挙があるだろうという前提で、民主党はマニフェスト、自民党は政権公約の検討を始めていると思う。特に、民主党は、(政権をとった後に)マニフェスト(と実際の政策が違ったこと)で散々苦労をしたので、3年余りにわたって政権を担った経験を踏まえ、もう一度しっかりとしたマニフェストを、透明な形で検討し、公表することを期待したい。自民党についても、大まかなものではなく、きちんと「政権を奪還したら何をやるのか」を政権公約で打ち出し、国民に明確な選択肢を与えることを実現していただきたい。
Q: 民主党のマニフェストの作り方で透明性を保つべきとの話があったが、3年前のマニフェスト作成時は一部の意見で記載が変えられたことを指しての発言か。
長谷川: そのように(一部の意見で記載が変えられたと国民に)受け取られるのは好ましくない。マニフェストの検討委員会などを作って、必要に応じて開示しながら作成するのが民主党らしいと思う。
Q: 国会事故調のフォローアップは、具体的にはどのようなことが必要と考えるか。
長谷川: (具体的な提言は報告書に書かれているが、それが)出しっ放しになっている状況に対して、一体何のために(国会事故調を)作ったのかと疑問に感じる。初めて国会に独立委員会を設置し、議長に(報告書を)提出したのに、なしのつぶてで良いのかという根本的な疑問である。
Q: 各党のマニフェストで、必ず入れなければならない項目は何と考えるか。
長谷川: 現段階で(の項目の指定)は差し控えたいが、例えば、経済連携協定などについては立場を明確にしていただきたい。さらに、地域主権・地方分権、道州制などさまざまな形での中央から地方への権限移譲についても今まで随分論議されてきたが、これについても各党の考え方を明確に示していただくことが望ましい。
以上
(文責:経済同友会事務局)