代表幹事の発言

長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2012年10月16日(火)13:30~
出席者 長谷川閑史 代表幹事
前原金一 副代表幹事・専務理事
橘・フクシマ・咲江 副代表幹事・人財育成・活用委員会 委員長

冒頭、橘・フクシマ・咲江副代表幹事・人財育成・活用委員会委員長より、報告書「『意思決定ボード』の真のダイバーシティ実現に向けて~女性管理職・役員の登用・活用状況のアンケート調査結果」の説明があった後、長谷川閑史代表幹事より補足があった。

その後、記者の質問に答える形で、長谷川代表幹事より、(1)臨時国会、解散・総選挙、(2)日中関係、(3)TPP、(4)ソフトバンクのスプリント・ネクステル買収、(5)日銀への緩和圧力、(6)リトアニアの原発新設に対する国民投票、(7)国会改革、について発言があった。

人財育成・活用委員会報告書に関する長谷川閑史代表幹事の補足コメント

『経営者の行動宣言』(提言「『意思決定ボード』のダイバーシティに向けた経営者の行動宣言~競争力としての女性管理職・役員の登用・活用~」:2012年5月28日発表)に、「女性管理職(課長級以上の役職者)30%以上」と示したが、元々「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%とする」という政府目標があった。これに対する具体的な取り組みが、政府全体として積極的に推進されているとは思えない。また、日本の労働力人口は、1995年の8,700万人のピークから2050年には5,500万人と、4割程度減ってしまう。労働力人口は成長の大きな要素の一つであるが、これが減る中で経済成長や高齢化社会の福祉を維持するためには、女性という労働力が十分に活かされていない日本の現況を見直すべきである。(労働力人口を増やすためには、)移民(政策)や労働許可証・グリーンカードの発行等の検討も必要だが、なかなか実行が難しい。まずは、女性がもっと活躍できる社会にしていく必要がある。こうした観点から、(女性管理職登用・活用の)実行を担保するために、企業経営者の行動宣言としてトップダウンで行うこと、また、ボトムアップとして、女性が入社の時期から将来を見据え、男性と同じようなトレーニング・コースあるいは仕事・課題を受けることを提言した。この実現に向けて、今回のようなアンケートを定期的に行うと同時に、多様な企業の意見や実践例(巻末掲載)を互いに参考にし、(各社内で)推進する糧にしたい。

また、明日(10月17日)放送予定のNHK『クローズアップ現代』(テーマ:「女性が日本を救う?」)に、クリスティーナ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事と出演する。IMFでも今日、レポート“Can Women Save Japan?”を発表するようである。そこでも指摘されている(日本における)M字カーブや極端に低い女性管理職の問題について、今後どのように取り組むかを議論した。自社(武田薬品工業)は必ずしも誇れる状況に至っていないが、(経済団体)組織の長として、企業の長として、もっと真剣に取り組むことを自ら宣言して追い詰めている。

また、『経営者の行動宣言』の4で「経済同友会が、次世代の経営者育成プログラムを早急に検討し、女性役員・管理職の積極的な参加を促す」としている。経済同友会では、(執行役員以上の次世代リーダーを対象とした)「リーダーシップ・プログラム」を続けているが、メンバーは50歳代の男性が中心となっているため、その下の年代層かつ女性を中心とした将来のリーダー育成コースとして「ジュニア・リーダーシップ・プログラム」を設置することとした。既に、経済同友会会員所属企業からメンバー登録の名乗りが上がっている。「リーダーシップ・プログラム」は現在24名構成でうち女性は2名だが、「ジュニア・リーダーシップ・プログラム」は同数程度の規模で女性3/4、男性1/4程度としたい。本年度後期より開始する予定である。

質疑応答

Q: 政治について伺いたい。民主党は今月中に臨時国会を召集する考えを示しているが、自由民主党と公明党は年内の解散・総選挙の確約を求めており、まだ溝があるようだ。特例公債法案など重要法案の行方はいまだ不透明である。重要政策課題との兼ね合いも踏まえ、解散時期についてどうあるべきと考えるか。

長谷川: 解散時期よりも、喫緊の政策課題が山積している。特例公債法案(の審議)はもちろん、一票の格差是正(のための選挙制度改革法案)、経済連携協定、中でもTPPへの正式参加表明も喫緊の課題である。また、社会保障・税一体改革の具体案を作るための社会保障制度改革国民会議の委員選定と議論の早急な開始も求められている。それらを前に進めることが優先である。ただ、それが二進も三進もいかないのであれば、解散して(国民の)信を問うべきである。今のような膠着状態ではいけない。臨時国会召集は当然のことであるが、(これに向けた与・野党の)合意が形成されつつあるように聞いている。それはそれで望ましいことであり、具体的な審議をきちんとしていただきたい。後は解散時期について、(与党である)民主党と(野党第一党である)自由民主党が話し合い、各々の責任者の判断で決めればいい。国政の停滞が許される状況ではないので、(そのようなことが)ないようにしていただきたい。

Q: 先ほどの発言で確認だが、臨時国会を召集するのが当然、ということか。

長谷川: そうである。これだけ政策課題が山積しているのに、臨時国会を開かないという方はないと感じている。

Q: 前原誠司国家戦略担当大臣が、「代表幹事と膝を交えて戦略会議のあり方等を意見交換したい」とコメントしていたが、その後動きはあるか。機会がある場合は、どのような話をしたいか。

長谷川: 膝を交える機会は近々あるのではないか。TPPを含め喫緊の政策課題にきちんと取り組んでほしいということや、成長戦略も話題になるだろう。

Q: 日中関係について、前回の定例記者会見(10月2日)からまったく状況が好転していない。今日も尖閣諸島付近に中国船籍の船が出ているようだが、事態の打開策を伺いたい。

長谷川: 打開策があれば苦労はしない。このような状況が当分続くと覚悟せざるを得ない。11月初めに中国共産党大会が開かれ、正式に指導者の交代が確認されるだろう。実質上、その(指導者交代の)過程は始まっていると考えるべきで、(中国の)指導者が代われば急速に事態(日本との関係)が好転するとは考えにくい。もちろん多様なチャネルやルートを使うなど(日本の)政治が最大限の努力をし、できるだけ早期に収束して、「(尖閣諸島の)平穏かつ安定的な維持・管理」を継続するという、(日本)政府がもっとも好ましい状況と表明している状態が早く実現されることを望む。一方、(中国の)監視船が(尖閣諸島付近を)出入りすることに対しては辛抱強く見張りながら、できるだけ早く出てもらうことを続けるしかないのではないか。答えはない、としか言いようがない。

Q: 昨日、枝野幸男経済産業大臣を訪問した際、韓国はTPPへの交渉参加をいつでもできると発言していたが、韓国がどのように表明しているのか伺いたい。

長谷川: 韓国が(TPP交渉参加について)対外的に公言していると私が述べたと捉えているのであれば、それは誤解である。韓国の政府筋からそういった趣旨の発言があったと聞いたことはあるが、韓国政府からいつ、どのように表明されたのかは、私の知る限りではない。ただ、一つは、12月に韓国大統領選挙があるので、その後に(TPP交渉参加を)表明する可能性はある。日本がさらに韓国に遅れることになれば、日本はハンディキャップを背負ってしまう。米韓FTAが既に発効されていることが、韓国のTPP交渉への正式参加にどれだけのスピード感を与えるか分からないが、おそらくプラスに働くだろう。韓国が先に正式な(TPP)協議に参加した場合、日本が遅れて正式参加を表明すると、それを受け入れるかどうかを判断する国の一つに(韓国が)いることになり、あまり好ましくない。また、既に現実的に差がついている点として、(米国の)戦略物資であるシェールガス(の購入)がある。米韓FTAがあるので韓国は米国と売買契約ができるが、米国の戦略物資であるため(輸出先は米国のFTA締結国に限定されており)、輸入するためには別途(米国)議会の承認か許可を得なければならないという話もある。ここについては、既に日本はハンディキャップを負っており、これ以上の更なるハンデを甘受する状況にはないと考えている。産業界あるいは企業ということでなく、将来の国益を考えれば、国を開くことは避けて通れない。冷静に考えれば理解が得られると思うが、それがなかなか実行できない。
更にいえば、仮に(次の総選挙で)自民党政権になるとすれば、総裁選の際のTPPに関する候補者の発言は押しなべて、「聖域なき関税撤廃が前提であれば賛成できない」といったニュアンスであったと記憶しており、政権交代があったとしても自民党が直ちにTPPに取り組むかについては、必ずしも楽観を許さない。
また、11月に米大統領選挙がある。先般行われた1回目の大統領候補討論の結果、バラク・オバマ大統領と(共和党大統領候補の)ミット・ロムニー氏とは接戦状態にあるようだが、現職大統領が勝つ可能性がまだ少し高いようである。オバマ大統領が再選されれば、ポリティカル・アポインティ(政治任用)による大幅な入れ替えにもそう時間はかからず、TPPの問題が急速に動く可能性もある。いまや躊躇している状況にはないと考え、あえてこのタイミングで直接(枝野経済産業大臣に)お願いした。経済産業省側もこれを受け、メディアの取材も入ることになり、正式に受け止めていただいた。

Q: ソフトバンクがスプリント・ネクステルの買収を発表した。かなり大型のM&Aとなるが、長谷川代表幹事の(武田薬品工業における大型買収の)実績も踏まえて所感を伺いたい。一方、海外への大型投資ということで、空洞化とは少し意味合いが違うかもしれないが、残念という声もある。これについての感想も含め、伺いたい。

長谷川: 通信業界について詳しくないので、自身の中に少し誤解があるかもしれないが、孫正義ソフトバンク社長自身は、かなり大胆な目標を提示し、それを実行することを繰り返してきた経営者であると認識している。さまざまな懸念や批判を浴びながらも、大胆な決断をすることで今日のソフトバンクを築いてきた。(孫社長も)会見で述べていたが、いまや日本(国内)では(携帯電話市場が)ほぼ飽和状態になりつつある中で、今後の成長が見込まれる国・地域に、円高のタイミングをもって買収を仕掛けることについては、戦略的には十分理解できる。マーケットの反応は、当初、ボーダフォン買収の際の借入金をかなり返済しているにも関わらず、借入金が巨大になることからネガティブだったが、一方でメガバンクは協調して融資をするとのことである。マーケットとメガバンクの反応は少し食い違っているかもしれないが、私としては勇気ある判断だと思う。経営者は、コンプライアンスを守って結果を出すことがすべてである。スプリント・ネクステルは、残念ながら5年連続で最終赤字を計上しているようだが、(ソフトバンクは)高速データ通信サービス「LTE」の国際展開で他社との差別化を図るようである。こういった戦略での勝算もあるだろうから、実行することで米国でも成功し、日・米という広域をカバーする大規模な通信会社になることを期待するし、一経営者として関心を持って見たい。

Q: M&Aは、リスクの取り方やタイミングが難しいが、成功のポイントは何か。

長谷川: 成功のポイントがあれば誰も失敗しない。M&Aでは、需要と供給の関係で値段が決まる。需要側からするとできるだけ安く買いたいという思いがあるが、徹底的にデューディリジェンス(対象企業の資産価値・収益力・リスクなどに対する経営・財務・法務・環境などの観点からの詳細な調査・分析)を行って(買収)相手を把握し、どこまでシナジー(相乗効果)を出せるかをいくつかの方法で検証することで、どこまで(資金を)出せるかを決める。同時に、第三者の専門家から(買収が適正であることを)サポートする意見をもらい、投資家の納得を得る必要がある。
自身の経験からも、買うこと自体は、ある程度の値段の折り合いさえつけば何とかなるが、問題は、買収後にいかにシナジーを創出するかである。大幅なリストラやコスト削減だけに頼ることなく、(買収した)相手企業のビジネスの勢いを削がず、自社の製品やノウハウを上乗せすることによって、よりシナジーを創出していく。これについて、どこまで目途が立ち、かつどこまで実行できるかが重要である。そのためには、買収した企業の経営方針や考え方をきちんと踏まえながら、買収した企業に乗り込んで経営ができる人材を持つことも必須である。買収先の経営陣に任せざるを得ないということになると、(経営の方向性に)齟齬が生じる可能性があるので、結果として、この点が(買収の)成否の分水嶺になるのではないかと考える。

Q: 成長が見込まれる地域・国への進出は戦略的に理解できるとの話があったが、日本企業はこの円高の状況下で、もう少し積極的に海外に買収を仕掛けても良いという考えか。

長谷川: 一般論ではその通りである。産業分野によって異なるが、円高に加え、(国内市場は)デフレの下で、内需主導による成長は難しく、シェアを増やしても売上・利益を共に増やすことは難しい状況である。先般の国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会において、2012年の世界経済の(実質経済)成長率(見通し)が3.5%から3.3%に下方修正されたが、いずれにせよ、世界経済は3%台で成長する。世界の成長にキャッチアップして自社の成長に取り込まなければ、中期的には競争力が低下していくだろう。このような状況の中で、国内市場での成長が難しければ、海外に進出せざるを得ない。その際、自前(の戦力)で進出するか買収するかという方法があるが、今のように経済成長の牽引力が急速に先進国から途上国へシフトした段階で一気にキャッチアップしようとすれば、買収は有力な方法として考えられる。米国(の景気)は回復しつつあるが、欧州の債務危機に端を発した経済の低調はまだしばらく続くと思われ、相対的に(海外企業の)資産は安くなっていることもある。

Q: 与・野党から、例えば前原誠司内閣府特命担当大臣(経済財政政策)による外国債購入(への言及)や安倍晋三自由民主党総裁による物価上昇目標設定に関する日銀法改正など、日銀への緩和圧力が強まっているが、これについて所感を伺いたい。また、日銀の(緩和に対する)姿勢は十分と考えるか。

長谷川: 日本が他国に先駆けてバランスシート不況に陥り、それを解消していく過程で、(日銀が)他国の中央銀行に先駆けて大幅な量的緩和を長期間続けてきたのは事実である。このような傾向が長く続いただけに、FRB(米連邦準備理事会)がQE1~3を実施した時の(米国)経済規模に対する(量的緩和の実施額の)割合に比して、日銀は(実施額が)足りないとの批判はあるが、過去の経緯を見ると、(日銀が主張するように)日銀による量的緩和も他国に劣らないレベルであることに論理性はあると思う。結局のところ、長期間にわたるデフレからの脱却や景気回復ができないことに対する不満の矛先として、日銀が一つの対象になっている傾向はある。外国債を買うことまでは別にして、既に先日の資産買い入れ基金の10兆円増額によって、国債購入もマネーサプライを超える水準となり、実質上の国債保有もそれを超えるであろう。また、日銀は日銀なりに(財務省との)線引きをしているが、不動産投資信託(REIT)や上場投資信託(ETF)などについてインデックスで買うことまでも踏み込んで行っており、さまざまな可能な手は打っていると思う。日銀サイドからすれば、REITやETFの購入は財務戦略であり、本来は財務省がやるべきという見方もある。私としては、どちらかを攻撃するよりも、日本における長期の課題であるデフレからの脱却や成長軌道への復活において、政府や日銀が協力し合って、互いにできることに取り組まれることが一番好ましい。

Q: リトアニアの(新たな原子力発電所建設の是非を問う)国民投票で反対が過半数以上を占めた。日本の原発関連企業への影響や新興国への今後の原発建設計画に波及があると思うが、所感を伺いたい。

長谷川: 報道によると、6割を超える反対があったと記憶している。特に、欧州では原発反対の国民感情が比較的強く、現実にドイツ、スイス、イタリアなど脱原発宣言をする国が出ている中で、(リトアニアの)国民がこのような反応を示すことはやむを得ないと理解する。日本と同様に、どれだけ競争力のあるコストで当面の国民生活や産業振興に必要なエネルギーを提供できるかを冷静に考えた上で、最終的には政府が判断するだろう。ただ、国民投票の結果を直ちに否定するようなことは難しいと思われ、日立製作所の原発受注が内定している計画について、当面の間、前に進まない可能性はやむを得ないといわざるを得ない。

Q: 特例公債法案について、また例年通り、政争の具になった。長谷川代表幹事は、日本アカデメイアの有志として「衆議院の優越」を認めるべきとの提言を出しているが、例えば岡田克也副総理はそうした提言の受け入れに前向きだと思う。解散・総選挙を前に与・野党でこのような合意をすることは可能か、もしくは選挙後の方が動きやすいのか。

長谷川: 私は経営者なので、テーマやタイミングによって難易度は異なるかもしれないが、あらゆることは常に可能と思っている。日本アカデメイア有志で国会改革に関する緊急提言をしたので、ぜひ実行して欲しい。民主党代表選挙や自民党総裁選挙を見ても、候補者の数名の方は提言内容に近いことを政策目標に入れているので、機運と地盤は整いつつあると思っている。総選挙前でも、与・野党合意でできる部分を選んで提言しているので、日本アカデメイアとしても推奨し、ぜひ実行に移されることを、陰に陽に訴えていきたい。

以上

(文責:経済同友会事務局)

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