長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
前原 金一 副代表幹事・専務理事
冒頭、長谷川閑史代表幹事より、(1)消費税増税関連法案、(2)電力供給、についてコメントを述べた後、記者の質問に答える形で、(1)消費税増税関連法案、(2)景況感、(3)原子力発電所の再稼働問題、(4)東京電力会長人事、について発言があった。
長谷川閑史代表幹事によるコメント
まず、社会保障・税の一体改革に関連して、ようやく(民主)党内での意思決定および閣議決定がなされ、(国会への)法案提出の運びとなったことは、我々もサポートしたい。(今国会)会期末の6月21日まで時間はあるものの、今後、他の法案との関係やこの(消費税増税関連)法案を本当に通せるかといった大きなハードルが控えている。経済同友会としては(野田首相に)、この件(消費税増税関連法案)について、これまで同様、ぶれずに粛々と国会審議を行い、成立されることを望む。大変不幸なことではあるが、(民主)党内で、4名の政務三役と29名の党役職者、合わせて33名が辞任の運びとなった。(このような事態は)民主党にとって初めてのことではないが、国民の目から見ると、消費税増税を政策目標の一つに掲げ、代表選を戦って就任した野田首相がその意志を貫こうとしているこの段階において、またこのような混乱が起こるという政党としての未熟さに対して、極めて遺憾の意を表さざるを得ない。また、本来、この法案の成立の段階までに併せて実現すべき、国会議員の定数削減や公務員の採用抑制・給与削減などの徹底、さらに、直接関係はしないものの一票の格差是正といった懸案課題について、きちんと取り組んでほしい。同時に、言われて久しいが、国内の問題や意思統一への対策のために、(国)外に目が向けられない状況であるにしても、あまりにも政治自身が内向きであり過ぎるように感じる。先般、韓国で開催された核安全保障サミットにおいても、各国の元首は前日から入って個別の首脳会談を行っていた。一方で、(野田首相は)夕方国会が終わってから韓国へ行き、翌日も早めに滞在を切り上げた。このようなことが続くこと自体好ましくない。政権交代が起こったにもかかわらず、与党も政権運営に慣れていないが、野党に下った自民党も野党になりきってしまい、例えば国会の予算委員会には全閣僚が常に出席しなくてはならず、外交問題(への対応)に十分な時間が割けないなど、相変わらずの事態が起きている。過去にも何度も指摘しているように、ねじれ国会の中では「小異を捨てて大同につく」という知恵を絞ってほしいが、これが一向に進んでいないことについて、改めて遺憾の意を表したい。
次に、電力供給の問題について述べる。報道にもある通り、5月5日に泊原発3号機が定期点検で停止すると、(国内の原発)54基全てが止まる。原発再稼働が大きな課題となっているが、産業界から見ると、この夏のピーク(時の)電力(ひっ迫)をどう乗り切るのか、電力供給はどうなるのか、この見通しが(国として)きちんと示されない限り、(企業は)事業計画が立てられない。企業は既に、例えば、5月の連休を返上して工場を稼働させて可能なものは備蓄生産する、産業用蓄電池で夜間電力を蓄電し昼間のピーク時に使うことでピークカットする、自家発電(する)など、できる限り様々な対策を講じているが、実際にどのような更なる節電や対応を求められるのかが定かでないだけに、それ以上の対策は立てにくい。そのような状況で、一つの対策として、当面の原発再稼動(のため)、原子力安全委員会(や原子力安全・保安院)の見解を踏まえ、今晩、首相および三閣僚で一度目の話し合いを持つと聞いている。事の重要性から言えば、一度(の話し合い)で簡単に決まるような性格のものではないということは想像に難くないが、できるだけそう長い時間をかけずに結論を出されることを望むとともに、了承(同意)を得る(自治体の)範囲と、理解は求めるものの最終的には国が意思決定をする範囲というような線引きも、国として明確にする必要がある。同時に、(国民に対して、)最終判断に至った理由を開示する必要がある。
質疑応答
Q: 消費税増税関連法案について、ようやく閣議決定には漕ぎ着けたものの、大混乱となっている。非常に厳しい状況ではあるが、いつ頃までに法案を通してほしいなど、改めて経済界からの要望を伺いたい。
長谷川: 一般論から言えば早いに越したことはないが、事の性格上、あるいは過去の経緯から考えれば、そう簡単に結論が出るようには思えない。場合によっては、6月21日の国会会期の延長もあるかもしれないが、経済界としては、今国会中に、法案成立という形で決着をつけてほしい。参議院がねじれ(与党が過半数を占めていない)状況であるため、仮に衆議院を通過しても、参議院で否決されては通らないということになるので、何らかの形での与・野党の連携も必要になろう。
Q: 昨日、日銀短観が発表され、業況判断自体はあまり変わらなかったが、徐々に企業収益の改善も見えつつあるという論調もある。景気の現状と今後の見通しについて、所感を伺いたい。
長谷川: 企業の景況感は、予想よりは少し悪かったように思う。大企業・製造業は、2期連続でマイナス、大企業・非製造業は3期連続で改善している中で、中小企業は少しマイナスという(業態によって)異なる状態になっている。当面の国内の状況を見れば、ある程度は改善の方向が見えていると言える。一方で、原材料や燃料費、特に燃料(費増)による電力料金の上昇や、欧州(財政危機)についても一服感はあるもののまだまだ本格的な解決には程遠い。新興国もスローダウンしている。中国は1~3月期(GDP前年同期比の実質成長率)8.2%(予想)ということで、我々の感覚では高い成長であるが、過去の比較から言えばスローダウンしているという懸念がある。円安の方向に振れつつあるが、まだ本質的に回復軌道に乗ったとは言い切れないのが今の状況ではないか。これから復興の予算が本格的に投下される状況の中で、うまく(景気の)回復軌道に結び付く起爆剤になれば大変良いと思う。
Q: 昨日の日銀短観に関連して、代表幹事が考える当面の最大のリスク要因と、日本銀行の金融政策について、見解を伺いたい。
長谷川: 日銀の量的緩和に対する期待はまだあるようだ。2月14日のバレンタインデーのギフト(追加金融緩和)はうまくいったが、量的緩和によって、今後も同じように株価の上昇や円安への大きな転換が起きるかについては、なかなか難しいと思う。既に市場にはあり余るほどの金が出回っている。諸外国でも量的緩和を進めているので、今や世界全体でも金が余っており、それが例えばWTIなど原油価格の上昇の一因とも言われている。本当に効果のある金融政策や景気刺激は出尽くした感がある。日銀は国債の買い入れも進めており、野田首相も日銀と協力して(景気が)腰折れにならないよう適時適切な対策を打っていきたいと言っているが、具体論となるとなかなか難しいのではないか。
Q: 原発再稼働の焦点として、地元の合意が相当重要になってくる。大阪など強行に反対している自治体もあるが、政府としてどのように合意形成を進めていくべきか、所見を伺いたい。
長谷川: 橋下(大阪)市長は株主総会で反対提案をするとのことだが、これは株主と企業との問題であり、総会で粛々と決議されるだろうと想像している。一方、(再稼動について)承認(同意)を得るべき自治体と周辺の自治体とをどう判断するかというのが質問の意図だと思うが、藤村官房長官が述べられたように、(近隣の)京都府や滋賀県には理解を求める努力はするが、了解(合意を得ること)は必ずしも再稼動の条件ではない、という政府の公式見解通りになると思う。もちろん、できる限り了解を得る努力をすることが望ましいが、線引きはせざるを得ないということではないか。
Q: 再稼動の問題で、政府・与党の対応を見ていると、枝野大臣はかなり慎重論が強く、野田首相や仙谷民主党政調会長代行は前向き、また党内では違ったレポートが出ている。最終的には政治が判断するということだが、ちぐはぐさがこの問題にも出ている。産業界として相当危機感があると思うが、どのように見ているか。
長谷川: 枝野大臣は、本日、あの(4月2日昼の)段階では原子力安全委員会などのレポートを精査した上での発言ではないので、完全に反対するものではない、と発言されているようだ。民主党の場合、途中経過やベンチのサインが全て見えてしまうというあまり好ましくない状況であり、一部党の体質とも言えると思うが、最終的には、落ち着くところに落ち着くと思うので、私自身は、途中経過はあまり気にしていない。むしろ、自民党の谷垣総裁が、党としてポジティブな見解を出されたことは、再稼動に向けた一歩前進と考える。
Q: 産業界としては、夏に向けて再稼動してほしいという意見だと思うが、世論は慎重である。どう折り合いをつけるべきか。
長谷川: 今の段階で(世論の賛成を得ること)は難しい。政府・与党として再稼動を判断した場合、なぜ必要かと同時に、(再稼動)できる場合とできない場合とでは、国民生活や産業活動にどう影響するのかを、納得できる形できちんと説明することが必要である。そのような情報がない段階で世論を問えば、あの(原発事故の)惨事を目の当たりに経験した日本人の多くが、「再稼動に慎重であるべき」と言うのは当然の反応だと思う。
Q: (原発を)再稼動せずに夏を迎えた場合、産業界にはどのような影響が出るのか。
長谷川: 現時点では、どの程度の節電が必要になるのかが分からないので、対応のしようがない。関西電力域内では、(原発が)稼動できない場合、ピーク時に何パーセント足りないという数字は出ているが、これが安全のマージンを含んだものかも分からない。社長を務めている自社の主力工場が関電管轄下にもあるので頭を悩ませている。場合によっては、中国電力管轄下にある工場への(生産)移管も考えるが、明確な状況が分からないので対応のしようがない。産業界、あるいは一企業とすれば、「これしかない」と言われれば、その範囲内で何とかできる方法を考えざるを得ない。
Q: (どのくらいの節電が必要になるかを明示される)タイム・リミットはいつ頃か。
長谷川: 早ければ早いほどよい。当社では、5月の連休を返上して備蓄生産を行う予定である。(他の企業も)できることは既に進めていると思う。
Q: 東京電力の会長人事について、奥田国際協力銀行総裁から、コンシューマー系(消費財メーカー)企業(からの人選)では難しいのではないか、という発言があったが、これについて感想を伺いたい。
長谷川: (コンシューマー系)企業の経営者あるいは経営の経験者が(東電の会長に)就くことによる奥田総裁の懸念はよく分かる。一方で、国民の感情はなかなかコントロールできないものの、このような(厳しい)状況の中で、敢えて国家のため、東電のために経営の任に就こうという経営者がいれば、その方の意思を多として、その方が経営に携わってきた企業の製品のボイコットなど、筋が違うことにならないような形になることを望みたい。
Q: 経済界としては、どのような方が望ましいと考えるか。東電の会長には、経済同友会への期待もあるようだが、その可能性はあるか。
長谷川: (人選には)一切関知していないのでコメントは述べられない。但し、どなたが就くにしても大変な役割である。全てを投げ打って、東電、ひいては国家のために、敢えて難しい仕事に取り組もうと判断する経営者であれば、できるだけサポートしていくことが大変大事ではないか。
Q: 東電の会長人事は4月に入っても決まっていない。なぜ決まらないのか、何が問題か。
長谷川: 推測になる。人選には民主党がイニシアティブをとっていると思うが、枝野経産相の談話では正式に依頼されたのは一人のようだ。これは、という方にコンタクトをしても、辞退など、うまくいかなかったということだろう。大変な役割なので、人選がスムーズにいかないのは無理もない。
以上
(文責:経済同友会事務局)