代表幹事の発言

長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

長谷川閑史 代表幹事
前原金一 副代表幹事・専務理事
稲葉延雄 経済政策委員会 委員長

冒頭、稲葉延雄経済政策委員会委員長より、「2012年3月度(第100回)景気定点観測アンケート調査」について説明があった。続いて、長谷川閑史代表幹事より、(1)震災復興に関する緊急アピール、(2)景気定点観測アンケート調査結果(電力安定供給)、(3)高年齢者雇用安定法改正について、前原金一副代表幹事・専務理事より総合型年金基金問題についてコメントを述べた。その後、記者の質問に答える形で、(1)復興庁への民間からの人材派遣、(2)短時間労働者への厚生年金拡大、(3)被災地のがれき処理、(4)春闘、(5)東京電力会長人事、について発言があった。

長谷川閑史代表幹事によるコメント

まず、3月11日に仙台で開催した「全国経済同友会 東日本大震災 追悼シンポジウム」で採択した緊急アピールについて述べる。10日(土)に仙台に入り、東北6県および新潟県の経済同友会幹部と意見交換を行った。その際、この機会に緊急アピールとして訴えたい問題があると要望があった。がれき(処理)問題については、撤去はほとんど終わっているものの処理はわずか6%程度しか進んでいない。がれき処理の目処がつかなければ、焼却場の設置や都市計画、まちづくり計画を実施しようとしても本格的に前に進まない。政府が、国有林の活用や各自治体への(がれき処理の)要請など、本腰を入れて具体的な行動を開始したことは喜ばしいことである。特に、放射能(汚染)問題ががれき処理にも影を落としているが、全く(放射能の)影響がないがれきの処理についても風評被害のようなことが起きていると感じる。各自治体も、いつ(地震が起こり、がれき処理が)自らに降りかかるか分からない問題でもあるので、強い「絆」の気持ちで取り組んでいただきたいと改めて要望する。また、風評被害は、直接被害を受けた太平洋側の3県だけでなく、日本海側の3県でも観光客が激減しており、旧態に復していない状況である。ぜひ休暇を取って東北に行っていただきたい。ちなみに、2011年の外国人観光客は、621万9,000人で前年比27.8%減となっており、風評被害に円高が重なっているのが要因のようである。昨日、(観光庁の)溝畑長官に会った際、中国人観光客は戻りつつあるが、韓国人観光客はウォン安・円高もあり、また風評被害に対して敏感になっており、戻っていないと伺った。最後に、緊急アピールでは触れていないが、本日、平野復興相が発表した復興庁への(民間からの)人材派遣について述べる。復興庁では4月1日付で「企業連携推進室」を設置する方向で、経済三団体に20名程度の(民間からの人材派遣の)要請があった。既に、経済同友会のメンバー所属企業である住生活グループから2月27日付で一名派遣しており、震災復興プロジェクト・チームの木村委員長の三菱地所でも具体的な人選に入っている。その他数社が具体的に検討を進めているので、復興庁との調整にもよるが、(経済同友会を窓口として)一桁の後半程度の人数を派遣し協力したい。今後、全国経済同友会震災復興部会でフォローし、復興庁とも意見交換を実施して、少しでも(復興を)前に進めたいと思っている。

次に、「2012年3月度(第100回)景気定点観測アンケート調査」について補足する。トピックス(9~10ページ)III-1-(1)「政府が特に注力すべき政策」について、(3)「原子力発電所の再稼働を含む電力安定供給への一層の努力」に注目している。特に、製造業では5割近くが「原子力発電所の再稼働を含む電力安定供給の一層の努力を望む」と回答している。再三述べてきたが、今夏の電力供給の見通しが立たなければ、(企業は)事業計画すら立てられない。経営者としては、最悪を予測して対処を検討しなければならず、短期に問題解決ができない場合には、海外との比較を考えなければならないことにもなりかねない。経済同友会では、中期的に「縮原発」を主張しており、また長期的には技術の発展を見極めた上での(エネルギー・ミックスを)決断しなくてはならないが、短期的には可能な限りの安全確認ができた原発の再稼働を、自治体の協力を得ながら、国が最終責任を負う形で進めていかなければ、この問題は解決できないと思う。化石燃料の輸入だけでも20兆円かかっており、昨年は3兆円増えたと言われているが、価格が高騰すればさらに増えていく。日本は、それを支払う外貨を獲得しない限り、経済も立ち行かない国である。一方で、近隣には原発も含め安定・安価の電力を供給できる国があり、積極的に(企業を)誘致しているので、国家としてこの問題に早急に取り組んでいく必要がある。また、(化石燃料輸入の)20兆円の原資にも関連するが、2011年の貿易収支が31年振りの年間赤字になり、経常収支は2012年1月に、1985年以来の単月としては最大である4,373億円の赤字になった。かつてのような高度成長は無理にしても、このような状況を克服するために、復興特需をスプリング・ボードにして、2020年までに3%の成長と1%のインフレ、2%の実質成長という民主党が掲げている目標を実現できる体制は整えてほしい。安定成長に乗せていかなければ、あらゆる問題が日本にとって解決不能になることを懸念しており、当然、そこには社会保障の問題も含まれる。

最後に、高年齢者雇用安定化法改正について、3月9日に閣議決定され、法案として国会に提出される運びとなった。内容は、(事業者への措置義務付けとして)従来3つあった、(1)定年(制度)を廃止する、(2)65歳定年制にする、(3)労使協定に応じて選択的に継続雇用していく、という選択肢のうちの3つ目(の労使協定による対象者選定の基準)がなくなったものである。(定年を)65歳までとする場合には、いわゆる厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の段階的引き上げと同じようなペースで3年ごとに(継続雇用の対象年齢を)上げていこうというもので、2013年にまず現行の60歳を61歳にし、2025年に65歳に到達するという案となっている。経済同友会でも既に意見を表明しているが、一つは、選択性、(雇用を)リセットする機会がないままに全てを(雇用するように)と言われると、企業経営者としては極めて困難な状況に遭遇せざるを得ない。もちろん、こういう(高齢者の雇用機会が増える)ことは望ましいが、一方で、諸外国で見られるような労働法制のフレキシビリティ(柔軟性)、緩和の方向がないままにこういうこと(規制強化)がされ、なおかつ公務員についてはいつも例外になるという、民間企業にばかりこういうこと(厳しい条件)を求めること自体についても、もう少し真剣に考えていただきたい。(公務員)給与の引き下げもやっと7.8%で合意になったが、これも期間は2年間ということであり、一方、民間企業は退職者の年金までをカットするような厳しい交渉をして改革を進めている。デフレの中での賃金調整で、人事院の勧告対象としていた企業を見ても、今や公務員の方が高くなっている状況も出てきていると聞いている。民間企業にのみバランスを欠いた形で(厳しい条件を)求められるのは、いささか公正を欠くのではないかという気がしている。

前原金一副代表幹事・専務理事によるコメント

前回の記者会見で、AIJ(投資顧問)の問題について「総合型年金基金の制度の構造問題が大きい」と述べたが、もう少し詳しく説明する。問題は二つある。一つは、予定利率が高いままであるため、実際の運用利回りとの間に大きな差がある。既に積立不足が6兆円程度あるのではないか、実際に必要なのは21兆円であるのに15兆円程度しかないのでは、と言われている。特に、中小企業の業種別の集まりである総合型基金が大変問題である。そこには厚生労働省や社会保険庁から常務理事が(天下りで)派遣されているにもかかわらず、構造問題がまったく改正されていない。大手企業の単独の年金(基金)は、十数年前から手を打ってきている。二つ目の問題は、総合型年金基金には出口がないことである。やめることもできず、やめるときには不足分を払い込まなければならないが、膨大な額になるため、それだけで中小企業は潰れてしまう。放置しておくと積立不足は増える一方で、実際に(基金を)解散しようとすると(参加企業が)潰れてしまう。年金(給付)額を大幅に引き下げる、予定利率を変える(保険料を上げる)、といった制度的な問題にきちんと対処しなければ、非常に大きな経済・社会問題になるだろう。信託や生保の調査部門に確認すれば問題がはっきりすると思う。保険会社に勤めていた頃、これを懸念して担当していた総合型年金の将来を計算し、マイナスが出ない時点で解散の手続きをしたことがある。15年もの間、放置されていたのは驚くべきことで、厚生労働省の責任も非常に重い。

質疑応答

Q: 復興支援のために経済界から人材を派遣するようだが、狙いと期待する効果を伺いたい。

長谷川: 政府からの要請に基づくものだが、必ずしも企業誘致に限らず、企業との連携促進という意味での橋渡しを期待されている。(内容は、)プロジェクトへのファイナンスや都市設計などいろいろな分野にわたると思う。(復興庁の)企業連携推進室は、民間から20名、復興庁から10名の30名程度の組織になると聞いている。現在、復興庁と調整中なので最終的にどのような形になるかはまだよく分からないが、調整を進める中で具体像がもう少しはっきりしてくるだろう。

Q: (企業連携推進室の)設置は4月1日で、あと2週間程度しかないが、まだ調整中なのか。

長谷川: 既に派遣している企業もあるし、4月1日付で派遣する企業も複数社あり、決まっている方たちは先述の(内容の)範囲で役に立てるだろう。その他にも要請があるかもしれないので、調整を進めたい。

Q: 社会保障改革について伺いたい。短期間労働者への厚生年金の給付拡大について、先週、政府・与党は対象人数を50万人とすることを明らかにした。2009年の自・公案では10~20万人であったが、今回の50万人という適用人数をどう考えるか。

長谷川: 基本的には、社会保障でカバーできる人数が多いに越したことはないが、常に財政の問題と、既にカバーされている人とされていない人とのバランスの問題との双方を考えなければならない。その意味では、少し厳しい(限定された)形でスタートし、徐々に拡大していく方がより望ましいのではないかと思う。

Q: 復興庁の企業連携推進室について伺いたい。これまでの政府のやり方では、リーダーシップのところで難儀しているように見える。今回もマッチングは分かるが、企業の人々があいまいな目的の下に寄り合い所帯を作って果たしてうまくいくのか。この解決策について、経済同友会としてどう注意して進めるか。

長谷川: 派遣する個別企業の立場でも、経済団体という窓口としての立場でも、派遣する人個々の役割・責任・期間、派遣期間は2年ということだが、これらをあらかじめ明確にしておかないと、結果として派遣先の便宜使い、雑用係りになりかねない。派遣する企業の意を受けて、経済同友会としても明確にしていきたい。

前原: 戦後、経済安定本部が設置された際は、3分の1程度民間から人材が入った。日本経済の復興に対して非常に意欲的に取り組み、大きな成功事例になった。今回の要請はそのようなことも踏まえてのことだと感じている。当時は、テーマがはっきりしており、前向きだったので、今のような疑問はなかったと思う。

Q: がれき処理について伺いたい。今日も野田首相から関係閣僚会議で処理の促進をという発言があった。例えば、製紙、セメント、鉄鋼といった民間の業界団体にもがれき処理への協力要請を文書で行うようだが、民間企業としてこの問題にどう対応していくか。

長谷川: 全く放射能汚染がない部分については、自治体でも民間企業でも処理の支援は問題なくできる。一方、焼却すると、焼却灰には放射能が10倍以上に濃縮されるという説もあり、灰の二次処理をどうするかという問題になる。そういう場合には、特殊な技術を持った民間企業でないと対応できない。技術を持つ企業も存在すると聞いているので、(そういう企業の)処理能力の拡大も含めての政府見解と理解している。

Q: 明日、春闘の集中回答日である。まだ回答は出揃っていないが、大手企業は痛みを伴いながらも定昇を維持するという回答が多いようだが、所感を伺いたい。

長谷川: こういう時代なので、個別企業での対応にならざるを得ないと思う。(同じ)業界・業種の中でも企業によって業績に差があり、全体が右肩上がりであればいざ知らず、今日のような状況ではなかなか一括はできない。個別企業の実態に応じて、交渉の結果で決定するという大原則はあるが、一方で、企業には雇用責任もあり、間接的には賃金を上げることが内需を喚起するという効果もあるので、できる範囲の中で労組側の要望に応えることも必要かと思う。

Q: 春闘に関連して伺いたい。日本経団連は当初、定昇に対して見直し・凍結もという非常に厳しい見方をしていたが、結果的には、大手企業に関しては、業績が悪い電機(業界)でも、定昇の見直し・凍結までは踏み込まないという現象が起きている。賃金の硬直性という見方も、将来に向けての明るい展望を従業員に提供するという見方もできるが、この現象をどう見ているか。正しいやり方だと思うか。

長谷川: 正しい、間違いという判断をするのは妥当ではない。労働組合に専従した経験もあるので両方の立場が分かる。(個別)企業が業界の中で横を見ながらいろいろな決定をしていくという判断の仕方、中でも業界のリーディング・カンパニーがどうするかによってその産業の趨勢が決まるという慣行の中で、中長期的に非常に暗いという見通しでない限りは、経営者としても多少無理をしてでも何とか付いていこうという配慮が働くのは、今の日本の慣行・環境を見ればやむを得ない。しかし、今のような厳しい状況が続いて、企業業績のばらつきがさらに大きくなれば、それも崩れざるを得ない時期が来るかもしれない。

Q: 一部報道で、東京電力の勝俣会長の後継に代表幹事の名前が挙がったが、所感を伺いたい。記事では、枝野大臣が推しているとされていたが。

長谷川: (後継の)可能性はゼロである。(枝野大臣の件は、)直接聞いたこともないし、噂も耳に入っていない。

以上

(文責:経済同友会事務局)

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