記者会見発言要旨(未定稿)
前原 金一 副代表幹事・専務理事
記者の質問に答える形で、(1)タイの騒乱拡大、(2)ギリシャ危機による市場の混乱、(3)日本経団連の会長交代、(4)政府の成長戦略、(5)道州制、(6)ユーロ問題(円高と株安)、(7)前原副代表幹事・専務理事の新任あいさつ、などについて発言があった。
Q: タイの騒乱が拡大している。日本企業の進出も多い国だが、経済への影響をどのようにお考えか。
桜井: いまのところ(経済への影響は)限定されていると思う。タイの本質的な問題など根深いことはあるかもしれないが、日本企業や世界経済に対する影響を論ずるところまでは、まだきていないと思う。日本企業については、(エリアでは)特に首都の封鎖地域とその周辺、(業種では)小売業や大型デパート関係、金融関係等、限定された範囲での影響である。ものづくり関連は、首都周辺から離れた工業団地等でオペレーションを行っており、封鎖地域を経由している流通もそれほど影響を受けていない。今後、この状況をどのように解決できるかについては、本質的な根深い問題がありそうなので、早く解決していただければと思う。
Q: 外務省がタイへの渡航・滞在の警戒グレードを上げたが、観光関係への打撃についてはいかがか。
桜井: いつ収束するかによるだろう。当然無傷ではないが、どのくらいの期間がかかるのか、終結がいつになるのか次第だと思う。
Q: ギリシャ危機が再燃し、市場が混乱しているが、影響と展望について所見を伺いたい。
桜井: 非常に心配している。ギリシャで相当な債務高になり、ギリシャ国債の格付けがかなり下がった際、金融関係に影響を及ぼし(たため)、IMFおよびEUの(各国)政府や中央銀行が協力し、時間はかかったが、資金の流動性確保のための緊急処置を行った。一時はこれで収まるかと考えられたが、EU内での金融システムが広範に連携していることもあり、ギリシャだけに留まらず、スペインやポルトガル等同様の債務高の問題を抱えている国々への拡大や、財政の悪化が金融システムに与える影響、金融収縮、そしてEU全体およびヨーロッパ全体の経済への影響を危惧しているところである。(拡大が)止まるかどうかはよく分からないが、EUおよびIMFに、債務過多の国々の財政健全化をしっかりやっていただき、ヨーロッパ全体への拡大や世界経済への影響を食い止めていただくことを願うばかりである。
Q: 5月27日に、日本経団連の会長が交代する。精密機器という同業で他の経済団体のトップを務められていた御手洗会長の4年間をどうご覧になっていたか。
桜井: 御手洗会長と私は同業で、この業界は、政府に一切支援、保護、後押しをされたことがない。政府に対する批判的な意味ではなく、良い面でも悪い面でも、自主・自立・自己責任の下で国際競争をがんばってきた。世界の平和と自由経済が非常に大事で、その上に技術イノベーションや経営のプロセス革新をもってがんばっていくというのが基本的な考え方で、成果を上げてきた。御手洗会長個人も、同じ発想、思想、行動の方向性であったと思う。御手洗会長の気の毒な点は、経済界全体となると、多様な業種・業態・経営環境があるので、ひとつに束ねていく難しさを感じられたのではないかと思う。経済同友会は、もちろん差異はあるが、どのような業種でも、経営者として緊張感の下にどのような発想で国際競争に勝ち、日本の成長を引っ張っていくかを軸に考えているので、私よりもご苦労をされたのではないか。
Q: 新たに日本経団連会長に就任される米倉住友化学会長への期待を伺いたい。
桜井: (この国が)かなり課題多き国であることも見えてきたし、この国の今後のあり方という意味では、政の迷走もあり、政への期待感が徐々に失われていくなかで、経済界ができるところは(日本経団連と経済同友会の)両者、あるいは(日商を加えた)三者一体で、政策提言やその後のフォロー・アップを実施していく必要があるのではないかと思っている。米倉新会長とは、可能な部分においては共同で提言やフォロー・アップ(のための連携)を強めていきたい。
Q: 政府の成長戦略について伺いたい。昨年末に基本方針が発表され、その後、法人税引き下げやインフラ輸出の促進、トップ・セールスの強化など、基本方針にはなかった項目も出てきた。当初は企業に優しくない戦略という評判もあったが、このところ少しずつ軌道修正をしているように見える。政府の成長戦略に対する全体的な影響と、個別に注文したい点、評価できる点などを伺いたい。
桜井: 昨年末に発表された基本方針では、企業に対する期待値が見えないという印象が強かった。現実的には日本の経済成長は、産業界が競争力をつけ、国際市場に進出し、かつ世界の成長力を国内に取り込んでくることが重要であると理解されてきたのではないか。その意味で、必要な官民一体型のセールスや法人税(引き下げ)等に言及してきたと思う。そのような面が断片的に見えてきたので、本当の意味での成長戦略への期待値が高まっている。需要側だけでなく、その需要に耐え得る供給者側のあり方等、活力を上げるための成長戦略を、(6月に発表される予定の政府の)新成長戦略のロードマップに入れ、今後の日本の経済成長を支えるものにしていただきたい。
Q: 明日、(経済同友会は)道州制に関する提言を発表される(予定だ)が、鳩山政権は道州制に消極的のように見える。代表幹事はどのように見ているか。
桜井: (民主党の)マニフェストに地域主権社会という表現があったが、地域主権社会とは具体的には何か、それを作るためにどのようなプロセス、スケジュールで展開していくのかが明確ではなかった。具体的な展開方法が見えないということで、全国の経済同友会で議論をしてきた。(政府が)「地域主権戦略大綱」を作る際には、全国の経済同友会で議論した必要な項目、求める施策、進め方について(参照いただきたいということで)、6月に発表予定である。
Q: 経済界では、(道州制の)必要性が叫ばれていながら、なかなか国民の関心が高まらないようにも感じる。今後、経済界としてどのように議論を牽引していくのか、お考えを伺いたい。
桜井: (道州制は)国民的議論になっていない。それは、例えば前政権では、分権型社会(を作るため)の地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長)があり、第一次、第二次、第三次、第四次と勧告をして、権限移譲や財源移譲、国の出先機関の改革など、具体的に展開を要求してきた。いまはこれが停滞している。もっと積極的に議論し、展開方法を探して、抵抗している(一部)自治体や各省庁を突破していければ、(それも)国民的議論になる一つの方法だろう。自治体の側に、自主・自立・自己責任の下に「財源と権限を移譲されたら我々はこれだけ自主的にやる」という気迫、意欲が見えてこない。もう一つは、国民にとっても、地域主権型の国家にはどのようなメリットがあるのかが見えていない。地域主権型国家というのは、国全体の活力を作り出す大行政改革になるが、短期的には国民も住民も責任を持って参加や負担をしなければ進まない。方向性と何をすべきかは分かっているが、具体的に展開するところで止まってしまっている。以上のような点から、全国経済同友会で取りまとめる意見書を6月に発表する予定である。
明日(発表予定)の地方行財政改革委員会(池田委員長)の提言は、これまで地域主権型道州制を論じようとした場合、最後には東京問題になる。日本の総人口の約1割、税収ではもっと巨大な東京に、さまざまなものが集約されている。道州制議論において、この東京をどう位置付けるかをまとめた。東京の税収の割合が高いために(地方との)格差が生じているので、これをいかに地域と分配するかという格差是正と、(一方で)あまりにも是正し過ぎると、日本の活力を生んでいる東京の活力を阻害することになってしまう。つまり、是正と活力の問題が一つ。もう一つは、国の債務の問題がある。道州制の中で、いかに国の債務を各地域も負担するか。国の財源を地方へ移転したとして、債務の返済は国だけが負担するのか。現在の883兆円もの国の債務の返済を地方もカバーすべきか否か等の問題がある。これらについて明日、新たな提言をする予定である。
Q: ユーロの問題で、いま円高と株安という形で日本にも(影響が)出てきている。これについて、日本企業や日本経済への影響について、代表幹事が懸念されていることがあれば伺いたい。
桜井: (ギリシャ危機の)欧州への波及、財政の(悪化の)金融システムへの影響、それらを基にした経済への影響を、投資家が不安視して株価が下がっている。一方、為替は、当然のことながらユーロの弱体化として直接影響してきている。企業経営の側から見ると、現段階では、企業によって相当違う。例えば、(私ども)精密機械や電機関係では、欧州は大きな市場である。(リコーは、米国よりも欧州市場の方が大きい。)(日本の産業の世界における市場について、)本日の新聞記事で、(輸出は)欧州が12%、アジアが50%超と書かれていたが、これは産業によって異なる。(欧州に大きな市場を持つ)精密機械、電機関係は、現在大きな打撃を受けている。ユーロに対して円高が進行すれば、欧州市場で大きな減益となるだろう。一方、株価についても、影響を受ける。
Q: 前原副代表幹事・専務理事は就任後初めての会見である。コメントをお願いしたい。
前原: (民間企業を離れて)6年間も学校(昭和女子大)にいたので、リハビリ中のような感覚で、挨拶回りをしたり資料を見たりしている。経済学を学んできたこともあり、ユーロの問題については個人的見解がある。8~9年前に、EUジャパン・ビジネス・フォーラムという会議があり、EUに行った。ブローディ氏や他の閣僚が、エンラージメントとユーロ導入によって非常に上手くいくという話で非常に盛り上がっていた。ただ我々は、単一の通貨にすることのリスク、(つまり)弱い経済に対して、政策の手段が非常に狭まるというリスクがあるのではないか(と懸念していた)。特に、エンラージで弱い国に拡大することにより、そのリスクがあるのではないかという議論を内々ではしながら、会議に臨んでいた。その時に懸念していたことが今起きているような気がする。その意味で、(ギリシャ問題は)非常に重要な問題なので、本質的にシステムをよく検討しなければいけないのではないかと感じている。個人的には、非常に心配している。
Q: 解決策はないか。
前原: いくつかの(欧州の)新聞には出ていたが、(EUがひとつの)国になってしまえば解決する。先ほど東京問題の話題があったが、ドイツで反対運動が起きているように、国が違うために政策の手が打てない。(EUには)そのような難しさがあると思う。
桜井: (EU全体が)一つの大きな国(になってしまえば解決する)。通貨は共通で、金融(政策)は中央銀行(ECB)が共通政策をうつが、財政面の政策は各国で別々である。ここに一つ今回の問題が要因があるのではないか。
前原: 上手くいっているときは良いが、問題が発生したときに政策手段が限定されるため、非常に対応しにくい。
以上
(文責:経済同友会事務局)