代表幹事の発言

記者会見発言要旨(未定稿)

桜井 正光 代表幹事
小島 邦夫 副代表幹事・専務理事

記者の質問に答える形で、(1)オバマ新政権への期待、(2)雇用問題、(3)定額給付金、などについて発言があった。

Q: 日本時間の明日未明に、オバマ新大統領が就任演説を行う。オバマ新政権に対して、期待を含め代表幹事の見解を伺いたい。

桜井: 一般に言われているように、オバマ新政権への期待感はかなり大きい。世界経済や安全保障などいろいろな面で、アメリカがリーダーたる国だから(期待感が高まっているの)だろう。期待が大きいだけに、経済の面でも安全保障の面でも、先行きによっては、リスクも抱えた新政権になると思う。しかし、アメリカという国は、軍事だけでなく経済や政治についても底力があるので、総合力でしっかりと支えていってくれると期待してよいと思う。

一方、世界(規模)での安全保障の問題、足下の景気・雇用の問題、世界全体の(経済の)後退局面を打開するための金融システムの安定化を図る金融政策など、大変に大きな広範囲かつ深い課題を背負っている。これからは、アメリカ頼りだけではなく、オバマ新大統領の発言にもあるように、世界(各国)で相応に役割負担をして、世界で協調してひとつの方向に進んでいく体制が望まれると思う。その意味で、日本も日本の役割をしっかりと自認し、理解して、主体的な意思を持った世界との関わり合い、特に主体性を持った日米関係(の構築)が非常に重要になってくる。

Q: 雇用問題の対処の仕方として、企業は内部留保を使って雇用を守れ、と言う議論が出てきている。これに対し、経済界では違和感を示す人も多いが、代表幹事はどのようにお考えか。

桜井: 前回(の会見で)も、雇用問題について企業はより責任ある取り組みをする必要があると申し上げ、その考えは変わらない。企業の雇用に対する取り組みにはいろいろな形が考えられる。一般論で言えば、内部留保とは本質的に、過去の利益の累計であり、それが本当にキャッシュがあるかどうか、バランスシート上ではあっても留保は常に使われているので、簡単に使える額が出てくるものではない。また、内部留保は、特に研究開発投資やM&A戦略の資金など、将来の戦略に投入し、企業の成長と発展をしっかりと支えるためのもので、これを基本に置くべきだと考えている。その結果が雇用の増大や処遇の改善となって現れるものだ。

Q: 本日午前中に、雇用保険法の改正案が閣議決定された。(改正の)主たる中身は、給付の拡充と料率の引き下げである。昨年末、麻生総理は財界代表を官邸に呼び、(雇用保険の)料率引き下げについては原資を賃上げに回すよう要請された。これについて、見解を伺いたい。

桜井: いま企業は、いろいろなことを工面して賃上げを行うよりは、やはり雇用の確保が非常に大事であると思う。これを基本に考えれば、雇用保険(料率)の引き下げで(賃上げを行う)ということは、必要ないのではないか。むしろ、政府が一番やらなければいけないことは、雇用保険の対象者の拡充と(加入)条件の緩和、そしてそれに見合う制度設計であろう。以前の会見でも申し上げた、企業の役割、働く側の役割、政府の役割というなかでの、政府の役割であるセーフティネットの充実ということである。

Q: 労働分配率と賃上げの関係について伺いたい。経団連は、労働分配率は景気変動にも左右されるので賃金改定の基準にはなり得ないという立場だ。一方連合は、労働分配率が長期的に下がっており、株主や役員報酬に偏っている構造を是正していかなければならないという立場で、(両者が)対立している。この点について所見を伺いたい。

桜井: 日本経団連(の主張)と同じような意味になるかもしれないが、労働分配率はひとつの指標である。大きく捉えるという点では意味あるものだと思うが、分配率の計算方式は、賃金だけで決まっているわけではない。例えば、生産効率を上げようとすると分配率は低くなってくるし、(生産効率を上げない方が良いと言う)逆の意味合いも出てきてしまう。(指標として)参考にはなるが、分配率だけを見て賃金の問題を扱うべきではない。各国でも(労働分配率と賃金改定は)短絡的に直結してはいない。

小島: 企業収益が悪くなったら分配率は上がる。

桜井: 分母・分子のなかの要素には色々なものが複雑に絡み合う。

小島: それだけで判断するのは、やはりおかしいのではないか。

Q: 団塊の世代が(退職)で抜けたことによる分配率の低下ということもあるのか。

桜井: それはある。

小島: 団塊の世代がいなくなった結果、給与支払額全体が下がっており、その意味で分配率を下げているのかもしれない。

Q: 予算に関する国会審議のなかで、定額給付金に対する批判が高まっており、自民党内でも批判的な意見がある。代表幹事は給付金の効果について懐疑的な見方をされていると思うが、改めて考えを伺いたい。

桜井: 定額給付金の支給については、ざまざまな意見が出ている。定額給付金のみならず、今回の補正予算案についても、経済がこれだけ急速に後退するなかでは、速く景気対策を決めなくてはならず、第二次補正予算については参議院でしっかりと議論を重ね、修正すべきことがあれば修正していく必要があると思う。きちんと議論をして結論を出すことが望まれる。そのなかのひとつとして、定額給付金についても、与・野党でしっかりと協議することが重要である。

Q: 代表幹事の意見としてはいかがか。

桜井: これだけお金がない日本で、相当な工面をして捻出して財政出動をするのだから、有効に使われるかどうか。非常に大事だと思う。

Q: 景気・雇用が急速に悪化するなか、改めて日本の経営の形が議論されている。そうしたなかで終身雇用制の是非について見解を伺いたい。また、年明けの3団体長の(合同)会見で、雇用対策について必要があれば3団体で考えていきたいという話があったが、(話し合いの)現状について伺いたい。

桜井: 従来の日本型の経営で、高度成長期のなかで根付いた制度として、終身雇用制と年功序列の2つがあると思う。年功序列は、多くの日本企業において、硬直化した人事制度で社員の活性化にも問題があるということで、能力給にシフトしている。終身雇用制については、全社で採用されることはないと思う。終身雇用制によるメリットは、おもに人材育成や長期間かかって成果を出す職種、あるいはチームワーク(の醸成)といった点にある。企業として、働く人を終身で保証するというものではなく、長期雇用も可能であるというものになってきている。終身雇用制のメリットを活かせる職種、職能においては、大事な雇用形態、人事制度だと思う。

3団体長の記者会見では、ワークシェアリング等を含めた検討、あるいは政・労・使で雇用制度に関わるルール等について議論することを決めたわけではない。そのように報じられたが、3団体トップが(議論に)同意したというのが正しい。その後、すでに日本経団連と連合との間で春闘の話し合いがスタートしていることもあり、現在はそれをウォッチしている。雇用のあり方については、今後、ワークシェアリングを含めて政・労・使で協議していかなければならない問題が出てくると思うので、そのような場を見出していきたい。現時点では、具体的に議論が進んでいるわけではない。

Q: 過去の春闘における経営側の指針を読み返してみると、やはり雇用安定が最重要課題であるという一大方針は景気悪化の時と変わらないと思うが、さらに深めなければいけない論点や争点、政・労・使でやらなければいけない議論は、どういう点だとお考えか。

桜井: (新たな争点は)あまり想像がつかない。政・労・使で協議すべき課題は、いまのところワークシェアリングだろう。それ以上に枠を広げると議論しにくいし、まだ明確でない課題について政・労・使の枠組みを決めるといっても架空の議論になってしまう。現状ではやはり、正規社員、非正規社員を含め、いかに雇用の安定を確保していくかという課題に対してどのような雇用形態があり、その目玉として、ワークシェアリングのあり方を議論することが必要だと思う。ワークシェアリングには、オランダ方式とドイツ方式などがあるが、現在日本で議論されているのはドイツ方式である。すなわち、なるべく余剰人員が出ないように個々の人員の就業時間数を減らし、そこにいかに賃金の削減を組み込んでいくか、その是非論を含めての議論である。一方、オランダ方式のように、シェアリングの仕方によってパートタイムなど新たな雇用形態を生み出すという形式もあり得るだろうが、いまの日本の状況はそうではない。現時点では(労働力より)仕事量の方が少ない。

Q: 政・労・使の三者で取り組むべき課題はワークシェアリングとのことだが、その場合、政のコミットの仕方は、助成制度のような意味合いか。

桜井: 助成制度もあるが、政がやるべきは、まずはセーフティネット(の拡充)である。ワークシェアリングを実施しても完璧にすべて(の人)を(既存企業で)吸収することはできないので、正規社員から非正規社員への広がりも含め、セーフティネットをしっかりさせることが重要である。

もうひとつは、減税措置が考えられる。結局は賃金を下げないとワークシェアリングは成り立たないので、賃金(収入)が下がった人たちを減税で支援したり、セーフティネットの拡充に伴い働く側と企業側に保険料などの負担がかかることになれば、それを減税措置で支えるなどが出てくるだろう。

そして、ワークシェアリング以外で言えば、産業構造の変革、新しい事業創出のための仕掛けづくり、そして新しい事業に働き手をシフトできるようにしていくことである。第一次産業の活性化や医療、介護、子育てなど(の分野)へのシフト、そしてかねてから申し上げている低炭素(社会づくり)、グリーン・エネルギーや新たな開発への投資、その方面の産業の拡大である。

Q: 政・労・使の枠組みを議論している間に、現実はどんどん進んでしまうのではないか。

桜井: 低炭素(社会づくり)など長期的なものもあり、(議論を進めることで)問題ない。政の話になると「ねじれ」で空白が生まれ進まなくなってしまうが、テキパキ進めればよい。いま、「雇用機会の緊急確保(策)」の議論が出ており、環境、子育て、介護や医療などの分野で「フレキシブル支援センター」を全国に3,000カ所つくり、250万人と言われている失業者のうち40万人を吸収するという案がある。できることは早くやるべきである。

Q: ワークシェアリングは、やることを前提に議論をすべきか、あるいは議論してみて良かったらやろうということなのか。

桜井: 現実には、すでに各社自身のアイディアで(取り組みを)始めている。

Q: 各社が進めているのであれば、政・労・使で議論をする必要もないのでは。

桜井: ワークシェアリングによって働き手は賃下げになる。それによって生活者、働き手が痛まないようにする安全網として、減税などでどう支えるかという協議が必要ではないか。

Q: いつ頃までに結論を出すべきか。

桜井: 早ければ早いほど良い。

Q: 昔の(ワークシェアリングの)議論から考えると、まとまらないのではないか。

桜井: だからと言って、(議論を)止めてよいということでもないだろう。

(文責:経済同友会事務局)

以上

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