日米関税交渉の結果を受けて
代表幹事 新浪 剛史
今回の日米関税交渉の結果、相互関税を15%、自動車への追加関税も15%とするなど、一定の見通しが示されたことは評価する。日本企業による米国内での投資や雇用創出実績を踏まえた交渉によって、自動車を含む関税の全面的な引き上げが回避されたことは、企業の現場にとって重要な防波堤となり得るものであり、政府の粘り強い交渉努力に敬意を表したい。是非、この日米関税交渉の合意を皮切りに、日米関係をより強固なものにしていくことを期待する。
ただし、米国の自国優先主義への傾倒、国際協調への関与低下という本質的な流れは今後も変わるわけではない。日本はこの大きなパラダイムシフトを前提として、日米関係の強化にとどまらず、日本の主導による国際協調の枠組みの再構築を進めるとともに、日本経済のレジリエンス強化を図ることが急務である。
第一に、自国優先主義が蔓延する中においても、日本経済にとって自由貿易が不可欠なものであることは明白であり、日本は自由貿易のフラッグベアラーとして、自由貿易のレベルアップを主導していくことが肝要。WTOそのものが機能不全となる中でも、韓国やインドネシア等をはじめとしたCPTPPの加盟国拡大、そして欧州とCPTPPを接続する枠組みの検討のほか、RCEP、QUADといった枠組みもテコに、再度、自由貿易体制の再構築を図っていかなければならない。
第二に、現下の地政学・地経学的な動向の根底にあるのは、米中によるAIの覇権争いであり、AIを制する者が世界を制するといった状況にもなり得る。ゆえに、日本は、日米協力を軸に、韓国やインドなどの有志国と連携しながら、半導体を中心としたAIに係るサプライチェーンをしっかりと構築することが必要。その上で、日本もAIの開発・利用をはじめとした技術革新に徹底的にコミットすべき。
第三に、日本経済そのもののレジリエンスを強化していくことも不可欠である。そのためには、CPIプラス1%以上の賃上げをノルムとして定着させることが何よりも重要。最低賃金は5年以内に全国加重平均1,500円の達成を目指すとともに、人材流動化の加速による新陳代謝の促進により、経済のダイナミズムを復活させなければならない。また、民間企業の余剰資金を国内投資に向けるために、DX、GX、ヘルスケアなどの分野において、規制改革・規制緩和を推進し、既得権益の打破を進めるべき。さらに、「世帯の可処分所得」を高めるための「年収の壁」の抜本的な解消、行き過ぎた「働き方改革」の見直し、そして現役世代の過度な負担を解消する応能負担に基づく社会保障改革を、早期に進めていくことが不可欠。
以上