緊急経済対策への提言
1998年10月16日
わが国経済は期を追う毎に悪化し、危機的状況に陥っている。本会の景気定点観測(10月調査)でも、景気は「後退している」「緩やかに後退している」との見方が97%と、実体経済に対する認識は極めて厳しい。また、先行きについても早期好転を見込むものは皆無に近い。一刻も早く経済の悪化に歯止めをかけなければ、わが国経済は真正のデフレ・スパイラルに陥り、将来展望を喪失するのみならず、困難の続くアジア経済や調整過程に入った世界経済に重大な影響を及ぼすことになりかねない。
いまこそ、現状は非常事態であるとの認識に立って、信用収縮と実体経済悪化の悪循環を断ち切り、さらなる実体経済の悪化をくいとめるために、あらゆる対策を動員すべきである。迅速かつ果敢な決断を求めたい。
対策の基本的考え方
- 早急に検討を進め、11月初旬には対策の概要を決定すること。そして、早期に臨時国会を召集して所要の法改正等を行ない、直ちに実施すること。臨時国会召集を見送るとの声も仄聞するが、現在は非常事態であり、通年国会の覚悟で臨むべきである。
- 対策の重点を、(1)わが国を覆う閉塞感、不安感に歯止めをかけ、安心の回復、将来への期待の回復につなげる規模と内容にするとともに、(2)もとより不可欠な日本経済の構造改革の方向に沿い、そのための政策を先取りして実施する、(3)政府・国会の決断により即時実行が可能な財政・税制上の措置を中心とする(ガバメント・リーチ)、の3点におくこと。
- 対策の実施に当たっては、地方の深刻な財政事情を踏まえて、国費を中心に十分な財政措置を講ずること。
- 今回の対策実施と併行して、日本経済の将来ビジョンを再構築し、信認を確立するために、(1)実態との乖離が著しい経済計画を改定し、それを通じて日本経済再生のトータル・ビジョンを打ち出す、(2)歳出・歳入(税制)両面から、改めて中長期の財政構造健全化のあり方を検討する、の2つの作業に着手すること。
1、減税の早期実施と公的負担の軽減
税制改革は当面の経済再生のためのみならず、日本経済の構造改革を推進するための重要な基盤である。したがって、今回の減税は、景気対策としての配慮は当然としても、基本的な理念は将来の税制の抜本改革を先取りしたものでなければらない。
項目 | 内容 |
---|---|
所得税・住民税の減税 |
|
法人実効税率の40%への引き下げ |
|
連結納税制度の導入 |
|
厚生年金保険料引き上げの撤回 |
|
公共事業
需給ギャップの規模からすれば、景気の底割れを防ぐためには公共事業の追加は不可欠である。年内に補正予算を編成し、早期発注・執行を図る必要がある。
その場合、従来型公共事業には様々な問題点があることも事実であり、公共事業の追加が将来への投資として意味のあるものとなるような工夫が不可欠である。具体的には、(1)従来の地方への配分や省庁別・事業別配分にとらわれず、プロジェクトの意義や効果を第一に考えること、(2)ニーズと効果の大きい都市・市街地プロジェクトに重点配分すること、(3)地方の財政事情に配慮し、国費中心に十分な財政措置を講ずること、(4)用地取得の円滑化のため、土地提供者に対して土地譲渡益課税につき思い切った優遇措置を講ずること、などである。
具体的なプロジェクト等の例示は以下の通り。
項目 | 内容 |
---|---|
「全国渋滞解消プラン」の実施 |
|
東京環状道路の整備促進 |
|
都市計画道路の整備促進 |
|
羽田空港の国際空港化 |
|
中心市街地の再開発 |
|
電線の地中化 |
|
ベンチャー・ビジネス支援のための情報インフラの整備 |
|
学校等の情報通信インフラの整備 |
|
少子・高齢者対策の拡充 |
|
3、金融・資本市場の活性化
金融システム不安への対応の遅れが実体経済の悪化に拍車をかけたが、金融再生関連法、金融早期健全化関連法の成立により、制度的枠組みは整備されたといえる。しかる上は、時機を逸せず果断に実行していくことが肝要である。
同時に、金融システム不安が深刻な信用収縮をもらたした背景には、わが国の間接金融中心の資金調達構造があり、車の両輪たる資本市場が十分な機能を果たしえていないという事情があると言わざるをえない。金融ビッグバンのスケジュールをできるだけ前倒しで実施し、株式・社債・CPなどによる資金調達の拡大、投資家の拡大など、資本市場の整備・強化に取り組んでいく必要がある。
(1)金融システムの早期安定化
項目 | 内容 |
---|---|
公的資金の早期・大規模な注入 |
|
(2)資本市場のさらなる整備・強化
項目 | 内容 |
---|---|
有価証券取引税・取引所税の即時廃止 |
|
公社債利子の源泉徴収制度の見直し |
|
配当の二重課税の排除 |
|
店頭市場の活性化 |
|
社債市場の整備 |
|
CP市場の整備 |
|
私募債市場の活性化 |
|
4、雇用対策
雇用情勢は極めて厳しいが、本会の景気定点観測(10月調査)でも、雇用情勢の悪化は循環要因だけではなく構造要因にも因るもので、たとえ景気が回復しても雇用環境はさほど好転しない、との見方が大勢である。今後の雇用対策は、新規雇用機会の創出とともに、流動化と職業能力の向上による人材の最適配置の実現が基本であり、当面の雇用対策もその方向に沿って、(1)失業期間中の生活不安の解消、(2)能力開発による再就職支援、の2点に重点を置くべきである。
項目 | 内容 |
---|---|
失業等保険給付の期間延長 |
|
自己啓発投資の所得控除 |
|
倒産等会社都合退職に係る退職金課税の免除 |
|
5、土地・住宅
不良債権の処理促進、資産デフレの抜本的解決のためには不動産取引の活性化が不可欠である。また、住宅に対する潜在需要は極めて大きく、その顕在化は国民生活の質的向上に資するとともに、経済波及効果も大きい。この際、住宅政策についての発想を根本的に転換し、個人住宅を税制において投資ととらえ、思い切った対策を講ずるべきである。
項目 | 内容 |
---|---|
住宅ローン利子に係る所得控除制度の創設 |
|
住宅取得に係る贈与税の特例の拡充 |
|
不動産取得税の廃止 |
|
登録免許税の見直し |
|
特別土地保有税の廃止 |
|
都市計画税の廃止 |
|
6、新産業・新企業の創出
わが国経済の再生、雇用機会の創出のためには、新産業・新企業が活発に輩出することが不可欠である。ビジネス・チャンス拡大のための規制の撤廃・緩和とともに、リスク・キャピタルの供給促進を図る思い切った措置が必要である。
項目 | 内容 |
---|---|
店頭市場の活性化(再掲) | |
エンジェル税制の拡充 |
|
情報インフラの整備(再掲) |
7、その他
項目 | 内容 |
---|---|
2000年対応を含む情報インフラ投資の当年度100%償却 |
|
既存建物等の耐震性強化費用の特別償却の拡充 |
|
財団法人の基本財産の活用 |
|
以上