私の思い出写真館

2024年3月号

デザインの持つ力

201
秋田 正紀
松屋
取締役会長兼取締役会議長

コロナ禍も落ち着き、最近の銀座は以前のようにラグジュアリーな街として活気を取り戻していますが、バブル崩壊後の1990年代後半の銀座は安売りショップの出店が目立ち、街のイメージは地に落ちていました。

そのような中、松屋は銀座店に併設されていました銀行跡地を取得したのを契機に、大リニューアルとともに耐震工事と外壁改修も行うという、まさに社運を賭けたプロジェクトを実施し、私はその責任者として、銀座にふさわしいデパートづくりを目指しました。

実際に工事がスタートするとたくさんの難題に遭遇しましたが、中でも頭を悩ませたのが外壁工事のための仮囲いでした。銀座通りは国道のため、工事囲いに広告を出したり、オープンの告知を行ったりすることは一切禁じられており、お店が営業中であることや、2001年のオープンに向けての期待感をあおることができません。そこでアイデアを出してくれたのが、後に店舗空間や宣伝に携わってもらうグラフィックデザイナーの原研哉さんです。

幅100メートル、高さ5メートルの巨大な白い仮囲いの壁に、最初は閉じているジッパーを配し(写真①)、その後、時期に応じて仮囲いごと絵を移動し(同②)、まるで少しずつジッパーが開いていくように見せました。このジッパーはリニューアルコンセプトの「ファッション」を象徴しており、これによって、銀座通りを通る人にリニューアルへの期待感を大いに膨らませることができました。

このときが、私にとって「デザイン」との出会いであり、デザインの持つ力の大きさを認識した瞬間でした。

この経験が、2019年に社長として創業150周年を迎える際に、あらためて「デザインの松屋」を宣言することにつながり、その思いをいつまでも忘れないように、地下鉄入口の壁に「MATSUYA DESIGN」の文字をタイルで刻みました(同③)。

写真①
写真②
写真③
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