代表幹事の発言

山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 山口 明夫

冒頭、米国とイランの和平合意、G7、AIについて言及した後、記者の質問に答えるかたちで、政府の原発リプレース目標、ラピダスへの政府出資、株価、Claude Mythos等について発言があった。

山  口:米国とイランの合意について述べたい。いつになるかと案じていたが、(本日)和平合意に至ったことを歓迎する。ホルムズ海峡の封鎖により船舶、船員が(域内に)とどまっていたが、無事に目的地に到達することを早期に期待したい。原油、ナフサ等の円滑な調達、サプライチェーンの障害が早期に解消されることも大いに期待している。ただし、今回の件をきっかけとして(対応してきた)サプライチェーンの多様化、代替製品の検討を止めることなく、今後の情勢変化も見据えて活動していくことが重要だ。2点目はG7だ。エネルギー安全保障、市場安定化、重要鉱物のサプライチェーンが議論されるとのことだが、主要国のリーダーによる前向きなアウトプットを期待したい。3点目はテクノロジー、AIについてだ。昨今、セキュリティ問題などマイナスの議論も出ているが、実際に使用すると著しい生産性の向上が見込める。私自身も身をもって生産性の向上を実感しており、特にIT業界、システム開発については大きく変わりつつある。生産性、品質を上げ、そこで生じた利益を教育投資や研究開発に回し、国内を活性化させていく。価値の高いものを作り、世界に打って出る。この好循環をしっかりと確立していきたいし、各企業、経済界が取り組むべきことだ。テクノロジーの進化を活用し前に進むのか、このままとどまるのかの潮目にあるが、前向きにとらえて取り組んでいきたい。

Q:米国とイランの合意について伺いたい。和平の枠組みについての覚書は60日間の停戦、ホルムズ海峡の解放、米国によるイラン港湾の封鎖解除と伝わっており、6月19日以降に始まるとのことだ。ただし、最大の焦点と言われる核兵器の開発について(トランプ大統領は協議が物別れに終わった場合、攻撃を再開する可能性を示唆し)2段階との様相である。代表幹事はサプライチェーンの多様化、代替製品の検討に取り組むべきと指摘されたが、喉元過ぎれば熱さを忘れるということもある。そうならないための課題や、留意すべきことを伺いたい。

山  口:いま世界は、喉元過ぎればという状況にはない。企業経営をしていく中で、米国とイランの合意だけでなく、様々な地政学リスクが高まっている。いまの状況の変化を見据え、多様なサプライチェーン、重要鉱物の代替調達、それ以外の製品開発に取り組んでいくべきで、その勢いを止めるべきではない。

Q:米国・イランの和平合意の発表に対し、マーケットは楽観的な受け止めをしている。株価は上がり、原油価格は下がった。開戦前の状況に戻るには時間がかかるのか見通しを伺いたい。また、原油を中心としてサプライチェーンの多角化については政府も努力していると思うが、経営者はどう備えるべきか。今回得た教訓を伺いたい。

山  口:中東衝突前の状態にどのくらいで戻るかは何とも言えない。不安要素のなかで経営をしてきたが、少なくともその心理的不安はかなり払しょくされるだろう。サプライチェーンを含めた状況については、中東情勢だけ(が要因)ではない。企業経営をしていく上ではいくつかのリスクファクターを定義している。例えば米国とイランの関係だけでなく、自然災害が起きた際にどうするかや、自社で最も競争優位をもち利益を生み出してきた製品が競合他社に一気にリプレースされたらどうするかなど(日々想定している)。それらをしっかり定義し、経営者はコンティンジェンシープランを作り、予測して対応しており、その活動というのは(和平合意の後も)変わらない。

Q:エネルギー政策について伺いたい。政府が原発について2040年代までに最大5機を建て替える目標を示した。経済同友会はかつて縮・原発、2023年以降は活・原子力と方針転換した。建て替え、新増設を見据えての提言だったと思うが、今般の政府方針をどう受け止めているか。

山  口:政府が明確な建て替え、追加(建設)の数を公表したことは歓迎したい。エネルギー政策について、かつて本会は縮・原発と申し上げていた。(活・原子力を掲げる今も)最終的にはサステナブルなエネルギーへ転換する過渡期であるという主張は一貫している。エネルギーの使用量が大きくなっている現状を踏まえると、老朽化した原発のリプレース、新増設は適切だと思う。ただし安定稼働は極めて重要である。サステナブルなエネルギーへ転換するロードマップ、エネルギー全体のポートフォリオはしっかり定義し、対応していく必要がある。

Q:政府がラピダスに1,500億円の追加出資をした。経済界全体を俯瞰して、国が次世代半導体の量産支援をする意義や期待を伺いたい。

山  口:本会の代表幹事としての意見とご理解いただきたい。現在の半導体は、ご存じの通り台湾および韓国を中心に製造されている。様々なサプライチェーンをしっかりと作り上げるという意味、そして新しい最先端の半導体を官民で作り上げていき、結果として国の活力増強に役立つという意味で、極めて重要な取り組みであると理解している。また、最先端の半導体は省エネへの対応もかなり進んできており、そのようなものを極力早く量産して市場に出していくことは、大きな価値があると考えている。

Q:株価(高騰)については、米国とイランの状況もさることながら、ITや半導体関連が牽引していると言われている。先週、キオクシアホールディングスの時価総額がトヨタ自動車を追い抜いたというニュースもあった。半導体などが(株価高騰を)牽引するこの傾向は続くものなのか。あるいは、バブル的なものなのか。

山  口:バブルではないと思う。なぜなら、AIのユースケースは非常に多岐にわたり、全産業にわたると言ってもおかしくない(からである)。医療や食料、物流、ガバメント、その領域で間違いなく効果が出るため、この勢いは止まらないと見ている。今後は、社会の要望とテクノロジーの進化、エネルギー、そういったものをバランスよく(調和させ)前に進めるかどうか(が肝要である)。様々なところでネックとなることがあろうかと思うが、まだまだ(半導体分野の牽引は)進んでいくのではないかと考えている。

Q: 先週末、米国政府が最新モデルであるClaude Mythos 5の外国人への提供を停止する(よう命令を出した)と発表された。国内の一部金融機関や企業がアクセス権を得られるよう調整中だったが見解を伺いたい。

山  口:突然、提供停止のニュースを聞いた。安全保障の観点によるとの報道があったが、今のところそれ以外の情報は把握していない。特に私も所属するIT企業についてはそれぞれの製品、もしくはお客様が作られている業務アプリケーションの脆弱性、つまり外から攻撃されて中に入られてしまったり、色々なデータを改ざんされてしまう等のホールを詰めるための作業をそれぞれ実施しているため、この勢いは止めることなく継続していくものと考えている。

Q:DXの遅れが指摘される中、日本企業ではIT導入そのものがDXと捉えられて業務効率化にとどまり、業務改善や業務の再編まで踏み込めていなかったとの見方がある。また、AXについても、日本企業はアジャイルが不得意で、失敗を許容しない体質など、従来からの課題が十分に改善されていないように感じる。AXについての考えを伺いたい。

山  口:DXが進まないという話はよく聞くが、理由はいくつかあると思う。まず(前提として)、ITを活用することでビジネスのやり方が大きく変わるケースが多い。ビジネスのやり方が変われば、組織のあり方や人員配置も必然的に変わる。しかし、日本においてはテクノロジーを活用するものの、組織や人員配置をほとんど変えずに事業を継続するケースが多い。そこに、効果が十分に発揮されにくいギャップがあると考えている。例えば、100人で行っていた業務がIT活用によって60人でできるようになった場合、本来であれば残りの40人を別の部署や新しい業務へシフトさせるべきである。しかし、その後半の対応がなかなか行われないため、十分な効果が出にくいというのが1点目である。2点目は、インターネット黎明期、DXもそうだが、(日本では)効率化のために利用されることが多いという点である。一方で、新しい市場の開拓や新製品の開発、新たなビジネスモデルの創出といった、新しい価値を生み出すための活用については、米国などと比べてやや遅れているのではないかと思う。足元を固めて生産性を高めることには非常に長けているが、(新しいものを生み出す)発想の部分に違いがある。一方で、2025年の崖と言われてきた老朽化したシステムの問題は解決に向けた環境が整いつつあると理解している。各企業や若年世代が手を出せなかった従来型システムについても、生成AIを活用することで中身を整理し、最新化できるようになった。そういった意味で、新しい時代に合ったシステムへ変換していくことが非常に重要になっている。2025年の崖としてエンジニア不足や業務の流れを理解している人材の不足が指摘されてきたが、生成AIの活用によって、そうした課題にも対応できる環境が整いつつある。AIも同様に、活用によって生産性は大きく向上する一方で、仕事の内容そのものも変化していくだろう。その結果として生まれる余力をどのように活用し、新しいことにどのように挑戦していくのかは、企業経営者の重要な責任だと考えている。また、その成果は社員一人ひとりのリスキリングの取り組みによっても大きく左右されるだろう。また、新しい商品や新しいビジネスモデルを作るといった方向にもAIを活用してどんどん適応していくことが日本の今後の成長には重要だと思う。可能性は十分にある。これまで遅れていると言われてきたが、AIを活用することで、日本企業のビジネスのやり方を大きく変え、利益率を高めることができると思う。そして、その利益を人材投資や研究開発に投資し、国内を活性化させていくことで、必ずプラスの方向に持っていけると考えている。これは政府が主導するのではなく、私たち企業経営者がその価値を理解し、覚悟を決めて取り組み、前に進んでいくことが重要だ。本会会員とも共有しながら取り組んでいきたい。

Q:現在、高市政権は成長戦略の筆頭に国産AIや半導体を挙げており、恐らく技術革新を主導しなければならないとの主張だと思う。先ほどの代表幹事のご発言は、主導できなくても必ずしも問題ではなく、活用する力を発揮していけば十分経済成長に寄与するということか。

山  口:AIや半導体について、国内でしっかりと技術革新を行い世界に打って出るという話と、徹底的に使いこなすことによって企業に大きなイノベーションを起こすという2つの話があると思う。後半については、原油が入ってこなくなった状況と重ねてよいか分からないが、先の質問にあったClaude Mythos 5(の提供を米国政府が停止すると発表したこと)のように、突然システムにアクセスできなくなる状況はやはり経営リスクだ。したがって、資源と同じようにシステムもしくは各企業が扱っているデータについても同様の位置づけでしっかりとプランを作っていく必要がある。また、日本としてもソブリンAIという考え方でシステムやデータ運用の主権をどう握っていくか検討していると思うが、これは素晴らしいことだ。

Q:ITであればカリフォルニアからどんどん技術が浸透し、開発主体に関わらず日本も欧州も問題なく利用できたが、今後は国境の壁がどんどん高くなっていくリスクがある中で、今まで当たり前のことが(従前と同様に)できるのかどうかという問題意識を持つのは正しいのか。

山  口:正しいと思う。(これまで)石油が常に入ってくるという前提(だったが)、現在の状況が起きてしまった。やはりデータやシステムが世界中でどのように使われ、日本としてどう継続的利用を担保するのかという考え方で、様々な活動、対応策をとっていくことが重要だ。

Q:東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の営業運転再開から2カ月余り経つ。ここで作られる電力は地元で消費されずに首都圏に供給されることから、地元の経済界からは地域に目を向け続けてほしいという声が強くある。代表幹事は多くの電力を必要とするIT企業の経営者であるが、現地を訪問する意向はあるか。福島(第一原子力発電所)の廃炉も同様、これらのエネルギーの実情や最前線について(学ぶべく)実際に訪れたいという思いはあるか。

山  口:現時点で具体的に訪れる計画を立てているわけではないが、実際に訪れ、色々な話を伺いたいと考えている。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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