山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 山口 明夫
冒頭、5月23日に実施する第4回のとマルチセクターダイアローグ、5月20日に公表した『会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見(パブリック・コメント)』に言及した後、記者の質問に答える形で、消費税減税、長期金利上昇、エネルギー需給問題、Claude Mythos、補正予算、社会保障国民会議等について発言があった。
山 口:5月23日に石川県において「第4回のとマルチセクターダイアローグ」を開催する。本会は能登半島支援イニシアティブを立ち上げて支援を行ってきた。このイベントは、年2回、能登半島地震の被災地の行政、事業者、NPO等ソーシャルセクターと本会の会員などが対話を通じて復興に貢献できるようなプロジェクトを創出していく活動である。石川県知事や被災自治体の首長などを含めて、約200名を超える方々にご参加いただく。(これまで、)経済同友会の会員所属企業からの企業版ふるさと納税1.2億円を活用して、復興のためのコンテナハウスを設置した。20戸のうち、既に12戸は入居している。ぜひ、(現地)支局の方々にもご案内いただき、ご取材をいただければありがたい。
会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見(パブリック・コメント)を(昨日)発出した。これは、(2025年度の)企業変革委員会を中心に取りまとめ、日本取締役協会と(共同で)発表した。ぜひ、ご覧いただきたい。
Q:昨日の党首討論において、国民民主党の玉木雄一郎代表が、イラン情勢や金利急騰など足下の状況を踏まえ食料品の消費税減税の実施時期を尋ねたところ、高市早苗首相は「夏前」と意欲を示す発言をした。本件についての受け止めは。
山 口:昨今の中東情勢やインフラの状況を踏まえた対応策として、ガソリン等の補助金、消費税減税、そして給付付き税額控除という3つの流れがある。どれをどのようなタイミングで実施していくのか。給付付き税額控除を早く実施できるのがベストだと多くの方々が考えていると思う。これらの組み合わせをいつどのような形でいつ実現するのかについては、様々な検討状況を踏まえて判断していくことを切に希望する。これらは財源ありきといった面もある。市場は方針が明確になったり方向性が公表されるたびに反応するので、そのような状況をしっかりと見て、適切な対応に(なるよう)調整しながら進めていく段階にあるものと考えている。
Q:10年債の金利は上昇傾向にあるが、昨今の状況をどのように見ているのか。
山 口:金利の上昇と為替(レート)については、相当注視していかなければいけないタイミングである。
Q:4月の貿易統計(速報)が発表され、原油輸入量が(前年同月比)約67%減少となった。企業は長期化に備え、(商品の)パッケージを変えるなど、様々な対応を迫られている。(原油供給についての)政府と企業の(認識の)ギャップ、目詰まりをどのように見ているか。また、経済界としてどう対応するのが望ましいか。
山 口:(商品の)パッケージについてはよくニュースで取り上げられている。私自身はナフサがどこにどれだけあるのかという情報を持ち合わせていないが、政府は年を超えて(必要な量を)十分確保していると表明している。(確かに)マクロ的には確保できているのだと思うが、目詰まり(が発生している)ということは、もしかするとうまく流通しない状態があったり、ナフサにも種類がある中で企業が必要としている特定のナフサの需要と(供給が)マッチしないといったことが起きているのかもしれず、ミクロの世界ではギャップが生じているのかと思う。いずれにせよ、一つひとつの課題を迅速に共有し対応していくことが重要である。(現在)どのような状態なのかをもっとオープンに可視化をすることは、心理的(な不安)、このままでは供給不足になるのではないかという雰囲気を払拭するためには重要だと思う。(供給量があるとされる)一方、価格については上昇している。これは不足しているからなのか、心理的な要因なのか。そのようなことが重なって物価等に影響を及ぼし、最終的には補助金(の投入等)の一つの要因になってくるかもしれない。企業としては、経済活動をさらに活発化させて、実質賃金を上げる方法を模索する。一方で、リスクを定義して、石油やナフサ等のオルタナティブを考えていく必要がある。
Q:Anthropic社のClaude Mythosについて伺いたい。第一に、5月1日に経済同友会として『Claude Mythosに端を発するセキュリティ課題対応について』を発表して以降、これまでの政府当局の対応状況をどう見ているか。第二に、IBMがメンバーに入っている金融庁の作業部会において、金融機関の判断でシステムを停止できるようにすることも検討されているようだが、その受け止めを伺いたい。第三に、今後、メガバンク3行や日本政府が(Claude Mythosへの)アクセス権を獲得できた場合、どのようなスケジュール感で金融システムの対策を進めていくのか。
山 口:まず、Claude Mythosが何かということを簡単に話したい。ITのシステムはプログラミング等々で構築していくわけであるが、常にセキュリティホールが残ってしまう。(セキュリティホールなしで)完璧に作り上げることは非常に難しい。例えば、マンションや住宅を購入する際には内覧を行い、傷が入っている、水道から水が出ないといった不具合が見つかれば、それを修正していくことになる。それを修正することが(ITシステムにおける)バグ(対応)にあたる。不具合は使用している中で見つかるものであり、ITのシステムにおいても使用していく中で(バグが)発見されていくものである。それらは長年使用することで判明したり、詳細に確認することで初めて見つかったりするものだった。(しかし、Claude Mythosを活用することによって、)より細かく深くチェックできるようになってしまったということである。一瞬のうちに全体を見ることが、Mythosによって可能になった。(つまり、)短期間で大量のセキュリティホールを発見できるようになったということである。ただし、そのセキュリティホールが本当に直さなければ生活に支障が出るようなものなのか、あるいは放置すると全体に重大な影響を及ぼすようなものなのかには違いがある。そのため、重要なセキュリティホールを発見した場合、できるだけ早く埋めていく作業が重要になる。これは従来から行ってきた対応ではあるが、現在は短期間で大量のセキュリティホールが検出されるようになった点が従来と大きく異なる。現在は、Anthropic社のClaude Mythosが脚光を浴びているが、AIが進化していく中では、他のAIでも同様のことが可能になるのは間違いないだろう。実際の対応策としては、従来から行っていたITシステムの潜在的なセキュリティホールの検知と早期の対応にAIを活用して進めることになる。(AIを活用することでセキュリティホールを)早期に検知して、自ら直していくことになると思う。日本政府の動きについては、金融庁や各大臣も、その重要性や緊急性を理解し、迅速に対応していると認識している。ただし、実際に修正や対応するのはIT企業やシステム利用企業なので、チームを組んで、迅速に対応していく必要がある。(Claude Mythosのアクセス権を獲得できた場合の対応、スケジュール感については)Claude Mythosを用いてチェックし、アウトプットに応じてすぐ対応することになると思う。ただし、検出された内容の修正には(比較的)簡単なものもあれば、一部を修正することでシステム全体に影響を及ぼすものもある。そのため、一概に迅速に対応することが最善とは限らず、システム全体への影響も判断をしながら対応することになるだろう。一方で、この脆弱性は危険だと判断されるものについては、一定のリスクを取ってでも優先的に穴を埋めていくことになる。その対応は、数時間単位で完了するものもあれば、1ヶ月単位のものもあり、内容による。
Q:政府で検討している補正予算などの動きについて伺いたい。3兆円程度(という案)の浮上や赤字国債の発行も取り沙汰されているが、中東情勢への対応やマーケットの目線なども考慮した上でどう見るか。また、補正予算編成に向けた動きが出て以降、長期金利の上昇ピッチが上がったと思うが市場に及ぼす影響を伺いたい。
山 口:おそらく、補助金、赤字国債という言葉が出てから金利が上昇した。ただ、現在の石油、ナフサ、これらを発端とした様々な価格上昇に関しては、補助金での対応をせざるを得ないと思う。どの規模で実施するのか、石油(製品)の価格をどこまで抑えるべきなのかについては、まだ議論の余地が十分にあると思う。かつ、マーケットは瞬時に反応するため、それらをしっかりと見極めて決めていくことになるだろう。一方で、GDPが今伸びてきている中で、(その対応が)どこまで経済活動を活発化させるかという(観点)もあると思う。このプラス・マイナスのバランスの中では非常に難しい対応であることは間違いない。
Q: Claude Mythosに関し、場合によっては金融機関の判断でシステムを事前に停止できるようにすることを検討するというのは、当然であるとお考えか。
山 口:場合によってはというのは、(Claude Mythosへのアクセス権がない)現在も変わらない。例えばある銀行のシステムで元帳を全部潰してしまうような大きな問題が発生し得る場合は、止めた方がいいという判断であれば今でも止める。したがって、新たな話ではない。ただ、そうなったとしても、業務や経済に極力影響を及ぼさないためにバックアップを取っていたり、別のシステムで稼働できるような全体の仕組みを作っているので、そういった中で判断してやっていくということである。
Q:先ほどもClaude Mythosに限った話ではないという発言があったが、高性能のAIを今後いつ誰が手にするか分からないという状況の中でリスクに備えるという意味で、先を見据えて官民でやるべきことや、何かあった際に政府が関係省庁に指示を出すような現在の対応でよいのかなど、備えのあり方についてお考えを伺いたい。
山 口:今回は金融機関が取り上げられているためかなり大事になっているが、同様のことが医療システムやエネルギーのシステムでも起き得る。やはりそれぞれの業界で、AIが脅威をもたらした時にどういった対応をするのか、常に緊急対策チームができるような形を整えておいた方がよい。業界団体でもしっかりと考えていく必要があるだろう。IT企業だけではなく、ハードウェアを提供されている企業の(製品の)中にもソフトウェアが入っているため、対象は本当に広範になる。先ほど申し上げた通り、今言われている脅威は突然(発生したのではなく)今まで想像がつかなかったことが起きているわけではない。その数や深さ、スピードが従来よりも増したということである。したがって対応策としては、今まで実施していたことをいかに早く実施するか、それ以外にも他に何か実施できることがないかを官民一緒になって検討することだと思う。
Q:昨日の党首討論で(消費税減税に)「意欲があるか」との問いに首相は「意欲がある」と回答した。だが、実施するにしても食料品を公約通り0%にするのか、システム上の問題もあるため1%とするのかといった話はなかった。財源も議論されていないが、国民の関心事でもあり、各紙1面記事で扱った。代表幹事は市場とのコミュニケーションを指摘されているのだと思うが、(党首討論での議論は)十分だったのか。あるいはどういったことを打ち出す必要があるか。
山 口:以前から申し上げている通り、消費税率ゼロになったときに財源をどうするか、2年間の(実施の)後どういう形で戻すのかといった出口戦略、そういったプロセスをしっかりと共有することが重要だ。消費税(の減税)にはプラスもマイナスもある。財源が明確にならず、2年後のシナリオもないままでは、市場はきっとマイナスに反応する。金利が上がったり、為替が円安になったり、結果として物価が上がってしまう。すると消費税率をゼロにした時の効果が薄れてしまうなど、最悪のシナリオもあり得る。そうではなく、公約通り実施し、給付付き税額控除よりも公平な対応になる、財源も示せるという両方をどこまで可視化し、皆に共有できるか。消費税率がゼロになった時のよい面だけを理解している方も多いし、給付付き税額控除を理解されていない方もいる。自分にどう関わってくる(問題)か、メリット・デメリットがあるのかをもっと国民にわかりやすく共有することで納得感を得られる。それは難しいことであり、メディア各社にもわかりやすく書いてほしい。その結果として日本、国民にとって一番良い方法なのであれば皆で頑張ろうと(いう方向に)流れていく。それが最もよいと思う。公約を出された際も、低所得者、子育て世帯など支援が必要な方にいかに迅速に届けるかがもっとも大事だ(と言っていた)。それが基本である。そのための方法論を皆が考えているわけだが、方法論がイエスかノーかだけでなく、本当にやろうとしていた目的を達成できるかをしっかりアセスメント(すべきだ)。それが社会保障国民会議の議論であると思うし、その結果を国民に共有する。どういうもので、なぜそれが要るのか、リスクも示す。それが重要だ。
Q:消費税の議論自体が社会保障国民会議ではあまりなされていない中で、首相が意欲を持っていることは認識されている。この状況は社会保障国民会議の在り方としては物足りないのではないか。
山 口:社会保障国民会議だけの話ではないと思う。政府は補助金から消費税、給付付き税額控除まで、社会保障国民会議はじめ様々なところで議論し総合的に判断されていると思うので、そこがしっかり共有されるのが重要な点だ。
Q:本日、OpenAI社の幹部が来日し、サイバーセキュリティを高めた最新モデル「GPT-5.5-Cyber」を日本政府、企業に提供したいという考えを示した。この性能をどう評価しているか。また、OpenAI社もAnthropic社も米国企業である。ソブリンAIの議論もあるが、経済安全保障上、サイバーセキュリティの問題を米国企業に頼っている現状についてどう考えるか。
山 口:OpenAI社のセキュリティホールを検知する能力がどの程度かは存じ上げない。Anthropic社のClaude Mythosだけではなく、(性能向上は)もう時間の問題である。OpenAI社であろうがそれ以外であろうが、これからプロセッサの能力がどんどん進化し、AIの能力が上がってくる中で、同じようなことが様々なところでできるようになる。米国企業のAIに頼っていてよいのかという指摘については、チェックする対象は日本の自前のシステムであり、ツールとして米国企業のAnthropic社、Claude MythosというAIを使う(だけで)、それが海外製であろうが日本製であろうが大きな問題はない。もう一点、システム自体をどうもっていくかという議論だ。日本政府の中でもソブリン、つまりシステムの主権をどう担保していくかというのが今まで以上に重要になる。システムには各企業の重要なデータが(保管されているものが)あったり、アプリケーションを運用するものなど様々な製品がある。もし、今後そのデータを使ってはいけないとなったらアウトだ。だからデータも運用も自分たちで管理できる環境をどう作るか。すべてが日本製でなければならないということではなく、管理のオーナーシップをどう持てるかが極めて重要になってきている。システムは広いので、この領域はしっかりと自分たちで主権を担保するが、別の領域はそうではないと(いう判断に)なっていく。(天然資源と同様)すべて日本で資源をもって生活していくのだという世界ではない。だが最低限守らなければならないものは主権をもって管理していく。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)