山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 山口 明夫
冒頭、米国のイラン攻撃、社会保障国民会議、本日公表の規制改革委員会 意見、2月18日公表の先端科学技術戦略検討委員会 意見に言及した後、記者の質問に答える形で、選択的夫婦別姓、社会保障国民会議の現状や今後への期待、本会新副代表幹事候補者、3月19日に予定される日米首脳会談、米国のイラン攻撃による原油価格高騰懸念や賃上げへの影響、エプスタイン文書、来期新卒採用等について発言があった。
山 口:イランに関わる問題について、政府の方々に(おかれて)は(既に)対応を進められているものと思うが、(まずは)邦人救済に全力を挙げていただきたい。やはり人の安全が一番大事だ。武力衝突は一刻も早く収束し、地域の安全と安定が確保されることに期待をしたい。企業の立場から見ると、(事態が)長期化すると原油やLNGなど日本のエネルギー調達に大きく支障が出てくる(可能性がある)。その結果として、光熱費の上昇など(を通じた)物価高といった影響が出ないよう、事態をしっかりと注視していく必要がある。業種や企業によっては、直接的・間接的に様々な影響が出ることも想定される。以前から申し上げているように、経営を行っていく上での数あるリスクの1つとして、影響を最小化するための然るべき対応が重要であると考えている。
山 口:(2点目に、)社会保障国民会議が(先日)開催された。この後、親会議の元に、実務者会議や有識者会議が設置されて、さらに議論を進められていくものと承知している。有識者も含めて少しでも多くの方々の意見を(聞き)、しっかりと共有(する必要がある)。特に、超党派の議論は重要だ。給付と負担のバランスや財政の健全化について、しっかりと議論いただき、適切な対応策が出されることに本当に期待している。
山 口:(3点目に、)特に経済界に関わる話だが、今日付でのれんの非償却に関する意見(経済同友会 規制改革委員会『のれん非償却に関する意見』2026年3月3日)を出した。のれんの償却が、企業の再編やM&Aを実施していく上で、非常に(財務的な)インパクトがあるため、のれんの償却を実施しなくても良いように対応することを、経済界は望んでいる。本会の調査によると、70%以上の経営者が、のれん償却がM&Aを検討する上での障害になっていると回答している。この辺りは様々な議論を実施いただいていると伺っているが、然るべき方向性が示されることを切に願っている。
山 口:最後に、2月18日に本会の先端科学技術戦略検討委員会が出したパブリックコメント(経済同友会 先端科学技術戦略検討委員会『第7期科学技術・イノベーション基本計画答申素案に対する意見』2026年2月18日)について、皆様に今一度共有させていただく。先端科学技術戦略検討委員会は先端技術にいかに取り組み、その技術に取り組んだ結果として経済成長にどのように繋げていくかということを、継続して議論している委員会である。(本パブリックコメントは、)政府の第7期科学技術イノベーション基本計画答申素案に対する意見である。(本会)ホームページおよびSNSにて公開するとともに、パブリックコメントとして提出した。キーポイントとしては、答申素案とほとんど同じ見解を私どもは持っている。1つは、高度人材の育成確保や多様なキャリアパスの実現が極めて重要である。それから、もっと知的好奇心をベースにした基礎研究の長期的な支援体制を、資金の提供も含めて、しっかりと構築していく必要がある。さらにデュアルユース、(つまり)安全保障、経済発展のいずれにも不可欠な技術の戦略的育成も重要である。そして、府省横断的な司令塔機能の強化、といった4点を柱にしたパブリックコメントを出した。本委員会は、今週末沖縄にあるOISTを訪問(し、シンポジウムを開催)する。経営者自らが最先端研究を理解し、博士人材の活用や産学連携のあり方、また日本の成長戦略をテーマにしたパネルディスカッション等々を行い、(今後)具体的なアクションに繋げていく。そういった活動を行っている。
Q:選択的夫婦別姓について、高市政権は旧姓使用の法制化を目指しており、現在国会でも議論が進んでいるところである。本日の国会で、パスポートなど重要な証明書については旧姓と戸籍名の両方を記載することが必要と答弁されている。女性がビジネスで活躍するにあたり、そのような「ダブルネーム」が残るという障害はそのままになってしまうが、これで旧姓の法制化が本当に利便性に繋がるのかどうかについて、見解を教えていただきたい。また、経済同友会は選択的夫婦別姓推進を提言されているが、今の経済同友会のお立場を改めて教えていただきたい。
山 口:本会としては、(選択的夫婦)別姓に関して、これまでの意見と全く変わりはない。高市首相のご発言内容については、(現時点で)まだ確認はできていないので、(まず内容の)確認をし、理解したい。実際に旧姓と戸籍上の姓が両方あるということに関して、ビジネスサイドで言うと、当社も旧姓の継続は認めており、実際に(多くの社員が)いずれか選べる中で(旧姓を選択し、)仕事をしてくださっている。(しかし)人事情報の処理など(の場面で)、戸籍上の姓との不一致により、確認作業が発生するなど、困ることがある。それは明らかに、ビジネスや、コミュニケーションをスムーズに行う上でマイナスな要素だと思う。そうした点は、私自身も経済界や本会会員所属企業の最新の実情も踏まえながら、しっかりと提言を出していきたいと思う。
Q:先週、国民会議の第1回会合があったことについてお伺いしたい。野党側の出席がチームみらいだけにとどまり、主要野党を巻き込めていないという課題がある。他の野党を巻き込むにはどういった工夫が必要かという点を伺いたい。また現時点では消費税減税や給付付き税額控除についての議論がメインとなっているが、今後広くどのように議論を進めるべきかという点について、ご意見をお伺いしたい。
山 口:「どのように巻き込むか」というと、与党の立場(の発言)と(なると)思うが、各々のお立場やご意見を(踏まえたうえでの)判断と承知している。少なくともこの件は、オープンに深く議論することが重要であるため、誠実に、(かつ)緻密に対話の機会を探っていただきたい。また、どのような議論がなされるべきか、どういう方向を目指すべきかという点については、税と社会保障の一体改革や格差の是正など様々な項目があると思う。現在は世帯年収の規模によって大きく、対応が変わる(状況にある)ため、最も(重要なの)は現状をしっかりと可視化するということ(である)。またその施策を取った際に、短期・中期・長期(の時間軸の中)でどうなっていくか、全体像を示すこと(が求められる)。私達も含め、皆がシンプルに理解できるアウトプットが示されることが重要だ。本会もその中身をしっかりと理解する努力を、これからも続けていきたい。
Q:国民会議の関連で、今回の会議が政局的な会議になっており、実際的にしっかりと議論ができるのかという懸念がある。この現在の会議の状況について、ご所感を1つお願いしたい。もう1つは、給付付き税額控除について、短期間で資産・所得を全て把握しきれるのかといった課題もある。十分議論しきれるのか、また(制度導入を)決定したときに最後まで実行できるのか、といった(実務面の問題)点の見通しについて、教えていただきたい。
山 口:まず1つ目について、政局的な会議となっているというご指摘だが、その議論の背景や中身について、(現時点で)詳しく理解はできていない。(報道の)皆様の情報や公表情報から(承知している)にとどまっている。(今後、)実務者会議や有識者会議の中でかなり深掘りをされていくと期待している。その方向性をしっかりと注視し、アウトプットを確認したい。次に、給付付き税額控除の制度設計、あるいは食料品の消費税8%を2年間引き下げるといった点について、どの程度実現可能かは、これも有識者会議の中でどの水準までできるのかを、しっかりと整理されていくものと思う。その結果をきちんと確認したい。おそらく、全ての方々の資産を把握できる状態になっていないなど、様々なシステム的な課題はあると思う。ただ、1つ1つ解決していくしかない。日本の現状の物価対策や財政規律などの様々な課題に対してベストな方法であれば、実現可否(を問う)よりも全てのリスクを洗い出し、重要なものから1つ1つ潰し、前に進めていく(ことが重要だ)。こういったことを行わないと、いつまで経っても光が見えてこない。皆で協力してやっていくだけだ。
Q:2月26日に公表された、経済同友会 新副代表幹事の候補者の顔ぶれは医療法人の理事長や、外資系の女性トップなど多様である。多様なバックグラウンドを持つ方の積極的登用は今後も加速していくのか。また、経済同友会の副代表幹事は経団連の登竜門的な位置付けもややあるのではと感じているが、現在の経済同友会(の在り方)を踏まえるとその位置づけも変わるのか。人事に込められた思いを伺いたい。
山 口:まず後者の質問から(回答すると)登竜門だとは考えていない。結果として、何人かが(本会副代表幹事の活動後に)経団連で活動されることはあるが、それを想定して活動しているわけではない。場合によっては、逆(経団連で活動をしていた人が本会の副代表幹事などに就任する)もあり、本会はオープンである。本会がどのような人たちの集まりであるのかについて、現在作成している文章を紹介したい。『経済同友会とは、同じ志を持ちながら「異彩」を放つ「個」の結合体である。グローバル企業のリーダー、独創的な経営者、変革に挑む起業家、アカデミア、NPO。立場は異なれど、各界で卓越した力を発揮する人材が一堂に会し、社会変革に向けた議論を尽くし、先見性ある提言を行い、自ら行動する。この「異彩の結合」にこそ、経済同友会の真価がある』。これは、昭和21年の経済同友会が設立されてから脈々と続いているステートメントに込められた思いや、リードしてきた代表幹事の方々のコメントを整理しており、私自身もそのように思う。したがって、先の質問への回答に戻るが、多彩な方々に加わっていただくことは特別なことではなく、自然な流れであり、誠にありがたいことだ。そこには性別は問わず多く入っていただきたいし、医療法人、外資、伝統的な日本企業といった(多様なバックグラウンドを持つ)方々の組み合わせがあることで、イノベーションが起きると思う。多様な立場の意見をぶつけ合うことで、オープンな議論が可能になる。この形をさらに推進していきたい。その観点では、今回新たに着任いただく皆様には大いに期待しており、お引き受けいただけたことを心から嬉しく思う。
Q:イラン情勢はトランプ大統領の会見や開戦に至った経緯、イランの統治プランなど不透明感が強く、長期化が懸念される。日本ではホルムズ海峡経由で8割超の原油を輸入しており、台湾においても半導体の製造拠点が集中していることからエネルギー不足が生じれば世界経済への打撃も大きい。3月19日の日米首脳会談において、高市首相に何を期待するか伺いたい。
山 口: イラン問題に関しての(高市首相への)期待は、日米で協力をして、これから発生しうるリスクに対し、いかに両国で小さくしていくのかをしっかりと議論していただきたいということだ。それは切に願っている。やはり安定(が重要)だ。また、長期化する可能性も確かにあるが、一刻も早くこの状態を解決するための策を議論いただくということは、皆の願いである。
Q:高市首相はイラン側には様々な要望を呼びかけているが、米国に対しては何も言及していない。こちらに対する受け止めは。
山 口: 言及していないかどうかは我々には分からない。表に出ている話と(は別に)それぞれコミュニケーションをとっている可能性もあるため、何がファクトかはこのような状況ではわかりかねる。
Q:日本政府に期待することは何か。
山 口: 日本政府に対しては、米国との同盟国であることからイランの安定した状況や中東の安定に向けて、ぜひ適切な対応やオープンな議論をお願いしたい。
Q:現在の国際法のルールでは、他国に対する武力行使は、自衛権の行使ないし国連安保理が承認した場合のみ認められるとなっている。この観点を踏まえると、今回のイランへの攻撃について経済同友会としての受け止めを伺いたい。
山 口: 攻撃をした本当の背景や状況については、情報を持ち合わせていない。従って、何ともコメントができないというのが正直なところである。
Q:邦人の救済が先決であり、そのために今なすべきことは多いと思うが、企業活動への影響という観点から、経済界として現時点で何か能動的にできることはあるのかを伺いたい。
山 口: (情勢の)安定に向けてというよりも、経済界としては、中東でビジネスを行っている企業も多く、イランや中東から石油を輸入して、経営を行っている企業も多いため、今の状況を踏まえ、経済に大きく影響を及ぼさないように様々な対応はとっていくべきと考えている。例えば、サプライチェーンについて別の方法を考えてみたり、価格(物価上昇)に対しては(価格が)高騰しない別の方法を考えていくことになるのではないか。
Q:あくまでも個社の対応に委ねられる部分が大きいということか。
山 口: 今の時点では、そのように考える。
Q:現在、WTI原油価格は比較的小康状態にあるが、今後急騰した場合の国の支援のあり方をどう考えるか。本日、高市首相が国会で補正予算編成の可能性もゼロではないと言及している。電気・ガス料金の補助には多額の予算を要することや、急場しのぎで構造的な問題の解決にはならないとの指摘がある。一方で、国民生活には大きな支援になるなど様々な考えがあるが、見解を伺いたい。
山 口: 状況によるが、(補助など対処療法的な手段も)致し方ない判断(という)になる可能性もあると思う。ただ、経済界としては、まずは経済成長をいかに愚直に追求し続け、成長をさらに加速させる(必要がある)。(その上で)税制も含めた様々な交付金を(検討)していくことになるのではないか。
Q:イラン情勢によって、今後エネルギー価格が高騰した場合の国の支援について伺いたい。高市首相は、補正予算の提出をする可能性がゼロではないと述べている。電気・ガスへの補助は急場しのぎで構造的な問題解決にはならないという指摘がある一方、国民生活への影響という面では大きな支援になる。山口代表幹事はどう考えているか。
山 口: どこまで物価が上昇するのか状況によるが、政府による何らかの補正(予算などの)対応は、致し方のない判断となる可能性もあると思う。経済界としては、そのような環境においても経済成長の加速を愚直に追求し続けていくことが重要だと思う。
Q:エプスタイン文書について伺う。高市首相の肝煎りの事業のトップに就く方が、(エプスタインから)かつて資金提供を受けていたことについて、日本では全く問題をされていない。新浪前代表幹事は、(ジャニーズの問題において)チャイルドアビューズに対し非常に厳しい意見を述べていた。(そのような人物が)国を代表して要職に就くことは、国際的に通用するものなのか。
山 口: その件については、本人が明確に見解、スタンスを出されており、今はそれを尊重したいと考えている。それ以上のことを我々が把握できる状態にない。
Q:世界中において、(エプスタインと関係があった)要職に就いている方々の辞任が相次いでいる。本人が潔白を主張したとしても、世間的に通用するものなのか。
山 口: 今後、もしかすると議論の余地がでてくるかもしれない。状況については、しっかりと注視をしてまいりたい。
Q:今月1日から解禁された就職活動について伺いたい。毎年のことだが、政府のルールが形骸化し、採用の前倒しが進んでいる。一方で、政府も見直しに取り組むとしている。経営者として、どのような採用スケジュールが望ましいのか。また、人手不足が続いているが、現在の新卒の採用状況について、どのような状況か教えていただきたい。
山 口: まず就職に関して、新卒(一括採用)・一斉入社という考え方は、もうかなり変化してきていると思う。各企業の方々と話をする中で、(採用者に占める)経験者採用の割合が半分以上という企業が非常に増加してきている。これは、人材の流動化が非常に加速しており、その背景に人材不足があることは間違いないだろう。したがって、各社が(新卒採用と経験者採用の)どちらに主流を置いているかというと、おそらく経験者採用の方だと思う。また新卒採用についても、4月だけではなくて10月(入社)だとか、多様化が進んでいるため、いつ解禁というのが昔ほど判断要素として大きく影響する項目にならなくなってきているのが事実だ。それに伴い、一斉に入社し、研修を受ける等の一斉に何かをやるという教育モデルも今大きく変わろうとしている。また、それぞれ必要なスキルも非常に多岐にわたるため、大学等もそうだと思うが、個人に合った新しい教育の仕組み、研修の仕方がますます重要になってくると考える。実際に、その方向に各社はかなりシフトしてきている。
Q:昨日今日と株価の大幅な下落が続いている。これによりイラン情勢の景気の下押しへの懸念や、物価上昇による経済への影響が懸念されている。今まさに春闘のシーズンだが、今回のイラン情勢が賃上げのモメンタムにもたらす影響をどう考えるか。
山 口: 賃上げについては、先ほどの質問に関連するが、やはり人材不足が極めて重要な課題になっている。魅力的な人材、必要な人材の方々に入社していただくためには、給料は重要なファクターになってきている。(特に)本当に必要なスキル、ポジションについては、継続的に賃金上昇を実施していくことが必要になると思う。(仮に十分な賃上げが行われなければ、)人材が集まらず、更に物価が上がるというマイナスのサイクルに入ってしまう。(そうした状況に陥らないためにも)ここで踏みとどまり、プラスのサイクルを継続的に回し続けるための方法を考え続けていくというのが、経営者の皆さんの大体のポジション(考え)だと思う。
Q:今のイラン情勢による景気の下押しや、その懸念による賃上げの機運への波及についてはどのようにお考えか。
山 口: ゼロだとは言えないが、各社賃金を上げられずに必要な人材が採れなくなるリスクとのトレードオフになると思う。人材は、企業経営の中では最重要事項であるため、(賃上げという)然るべき対応を講じていくだろう。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)