代表幹事の発言
経済成長による持続可能な社会の実現
(2026 年 年頭見解)
公益社団法人 経済同友会
変化の兆しを確かな成長に繋げる
世界では、ウクライナとロシアの停戦交渉の膠着、イスラエルとハマスの停戦の進展の難航、米国の関税措置等に見られるように、戦後および冷戦以降の国際秩序は大きく変化している。一方国内では、少子高齢化、労働力不足、財政規律等の課題が絡み合い、複雑化し、一筋縄では解決できなくなっている。また、経済がデフレからインフレに移行し、実質賃金が伸び悩む中で、国民生活は厳しい状況にある。
しかし、テクノロジーの進化、国内産業の活性化に向けた投資拡大、スタートアップの増加、人材流動化など、明るい兆しも見えてきている。今、私たちは、大きなリスクとともに、明るい未来を築ける素晴らしいチャンスを得ていると言える。この機会を確固たる成長に結びつけるためには、長く続いた、人口増加と高度成長、あるいはデフレを前提とした制度・仕組みや政策を大きく転換し、私たちが実現したい社会、そのために何に取り組むべきかを考え、立場を越えて議論し、協力し合うことこそが必要である。また、対外的には、自らの国は自らで守る自立性の強化や国益の確保に官民が連携し、これを経済成長にも繋げることが重要である。
経済同友会における「共助資本主義」の実践は、経済成長による持続可能な社会を実現する仕組みの一つである。多様なセクターが連携し、社会課題を解決する「共助」の取組みは、イノベーションによる課題解決を通じて経済成長に寄与するとともに、包摂性を高め、人々の分断を防ぎ、持続可能な社会をつくることを目指す。
2026 年は、これらに取組むことを通じて、見え始めた明るい兆しを確かな成長に繋げる一年としたい。
- 経営者・企業による取組み̶共助資本主義の実践としての企業の競争力強化
(1)本業における収益力構築と利益の戦略的還元
共助資本主義の理念を実効性あるものとするには、企業がまず本業において確固たる収益力を構築した上で、その利益を社会課題解決に戦略的に還元する好循環モデルを明確に示す必要がある。
共助資本主義の本質は、企業経営において、本業での競争力強化と社会的価値創造の両輪を回すことである。経営者として「収益なくして社会貢献なし」という原則を踏まえつつ、その収益を次世代育成、地域社会への投資、イノベーション創出等、経済社会の持続的な発展の基盤形成に活用していかなければならない。こうした企業の共助資本主義の実践の総和が、日本の経済力を持続的に高めていくと考える。
(2)企業の競争力を強化する合従連衡
物価高への対応として企業の賃上げの継続が重要であるが、これを実現するには生産性向上が必要である。競争力のある企業は、有為な人材の獲得やDXに大胆に投資し、生産性向上が可能であるが、単独でその体力を有しない企業は合従連衡を進め、競争に勝ち抜いていかなければならない。
企業や産業の新陳代謝を活性化し、経済のダイナミズムを回復することは、共助資本主義の実践に必要な企業の収益力向上、さらに日本の産業競争力の引き上げにも不可欠である。 - 潜在成長力と経済社会のレジリエンスを高める
変化の兆しを確かな成長に繋げるには、外国人材を含む多様な人材の活躍促進、AI 活用などの技術革新、国内投資拡大などを通じた潜在成長力の引き上げが必要である。
経済力は、国家の自立性や国益を支える国力の維持に必須の要素であり、したがって、高市政権が掲げる「危機管理投資」「成長投資」を柱とする強い経済の実現は、日本の帰趨にかかる最重要課題である。成長戦略としての実行においては、官民が連携し、デジタル化に応じた経済構造への転換や、次代を担う新たな産業の創出と技術革新などに取組むことが必要である。
これらを分断のない安定した社会の構築と合わせて実現していくことが求められる。
(1)多様な人材の活躍促進と労働生産性の向上
多様な人材の活躍に向けて、年収の壁の撤廃による働き控えの問題の解消や、健康確保を前提に、労働契約法に基づき、企業と自律した意欲ある個人が柔軟に契約を結べる枠組みの検討を進めるべきである。また、生成AI に加え、フィジカルAI など、省人化・無人化により生産性向上を実現する新技術への投資拡大を後押しすると同時に、その活用に不可欠な人材のアップスキリング支援を強化する必要がある。
さらに、様々な分野での外国人材の活躍促進も急務である。多様な外国人材を包摂する社会を構築すべく、外国人材との共生社会の定義と基本方針、国・自治体・企業の役割と財源措置などを提示した基本法の制定を求める。
(2)戦略的投資により経済構造の転換を加速
持続的成長を生むのは民間企業の投資であり、政府による呼び水としての投資や減価償却費の一括計上による税制優遇措置は、民間投資を促進する環境整備として有効である。今後、規制改革・緩和を推進し、投資環境の魅力をさらに高めていくことを期待する。
一方、政府の財政出動により投資する分野は、目的の明確化とそれを踏まえた優先順位付けが必要である。半導体、AI、エネルギー分野は特に重要だが、DX を推進しつつ、国際収支におけるデジタル赤字を削減し、デジタル経済においても国に富が蓄積する構造に変えていくことが、産業競争力や経済安全保障の観点から必要である。これに向けて、 「AI ・半導体支援」という従来の政策の枠組みを超え、AI を動かす情報処理基盤、データセンター、エネルギーインフラを一体的に整備する戦略的投資を促進すべきである。
DX、GX の進展に伴い需要が増加するレアアースの確保では、官民連携強化が必要である。調達先多角化に向けた諸外国との協調、海底資源開発、リサイクル、戦略的備蓄、代替技術開発を同時に進め、サプライチェーンの強靭化に官民で取組むべきである。
(3)国際秩序の変化に対応する外交・安全保障政策
外交・安全保障において複雑化するリスクに対応するために、インテリジェンスの強化は急務である。複数の省庁等に分散するインテリジェンス機能を一元化し実効性ある組織とすべく、縦割りを防ぐ司令塔、予算 ・人員 ・権限の付与、民間企業の危機管理との連携など、組織設計に向けた具体的議論の加速を期待する。
厳しさを増す安全保障環境に対応し抑止力を高めるためには、防衛力強化と米国との同盟の深化に加え、QUAD のインド、豪州、同志国である韓国、フィリピンなどとの連携を強めることが必要である。防衛費については、単に増額するのではなく、支出の優先順位付けを行い、実効性のある抑止・防衛体制を構築すべきである。また、QUAD や同志国との連携による地域における抑止力強化にむけて、米国の安全保障政策を踏まえた欧州の危機意識と、それに基づく取組みを分析し学ぶことが重要である。
(4)財政規律の維持と社会保障における応能負担の強化
財政に対する市場の信認の維持が重要になっている中、給付や減税など国民に受け入れられやすい政策は安易に拡大せず、真に効果のある措置に限り、財源を確保して行うべきである。財政運営において、EBPM に基づくワイズスペンディングの徹底をスローガンで終わらせず、責任を持って実行することが重要である。
実際、昨年11 月の総合経済対策では、重点支援地方交付金の拡充やガソリンなどの旧暫定税率廃止などが物価高対策として打ち出されたが、こうした対策での減税分について安定財源は確保されておらず、早期の議論が必要である。
社会保障制度については、マイナンバーに紐づくデータ管理の仕組みにより、世代を問わず個人の経済状況に応じた負担を強化すべきである。また、公的医療保険給付の範囲の見直し等により社会保険料を抑制し、現役世代の可処分所得を向上することが必要である。
さらに、財政規律及び社会保障制度の維持に加え、持続的成長の観点から、税制全体のあり方や、社会保障における給付と負担のあり方についての議論が求められる。
(5)政治資金問題の抜本的解決と政党ガバナンスの強化
有権者の価値観の多様化を背景とした多党化により、上記のような重要政策課題について合意を形成する政治のリーダーシップは一層重要になっている。そうしたリーダーシップの発揮にむけて、国民の政治への信頼を回復するとともに、改めて政党による政策本位の政治の実現に取組むことが必要である。
そのために、まずは政治資金問題の抜本的解決を求める。政治資金の支出の透明化を徹底すべきであり、具体的には、現金授受の完全禁止、同一の国会議員が複数の政治団体を持つことの禁止、オープンなデータベース管理システムの構築が必要である。
さらに、政治資金問題に限らず、政党のガバナンス強化のために政党法を制定し、政党交付金を受け取る政党は、公的な役割を担うこと、また、政党の内部機関の権限・機能を政党法に規定すべきである。 - 経済同友会としての取組み̶80 周年を機に、創立の精神に立ち返る
経済同友会は、2026 年4 月に創立80 周年を迎える。本会創立時、若き経営者たちは、戦後の荒廃を前に、新生日本の構築を強く決意した。発起人たちのその思いは、創立以来、脈々と継承され、今日に至っている。
経営者が個人の資格で参画し、個社や業界の利害を越えて活動する。つまり、経営者個人の考え・知見に基づく議論と行動から、広く社会に資する変革を起こしていくという独自性を経済同友会は持つ。
創立後80 年を経て経済社会は大きく変わり、その課題は複雑化している。これを解決していくには、年齢、性別、国籍、組織規模、業種の異なる多様な経営者の結集はもちろん、多様なステークホルダーとの連携が必要である。
創立の精神に立脚しつつ、多様な経営者による自由闊達な議論、相互の研鑽と交流、それらを通じて得た知見等を活かし経営を預かる組織を変革する実行力により、社会にインパクトを創出する――こうした活動を一層強化し、経済同友会の成長と進化を実現していきたい。
以上