代表幹事の発言

日本経済活性化の礎を築く一年 <2006年代表幹事年頭見解>

社団法人 経済同友会
代表幹事 北城 恪太郎

はじめに

2005年は、日本の政治と経済の両面において大きな節目の年であった。

9月の総選挙で自由民主党が大勝し、小泉総理の構造改革路線が国民の圧倒的信任を受けた。これは、小泉総理の強い政治的リーダーシップに対する国民の支持でもある。

一方、日本経済は、2002年から続く民間主導の緩やかな景気回復が着実なものとなった。企業収益の拡大が雇用情勢の改善につながり、賃金も徐々に増加しつつある。

長く続いた日本経済の閉塞感の打破に成功した小泉構造改革は、経済の主役を民間部門に委ねた「民間主導型社会」の実現こそが、経済の自律的回復を促進し、日本の持続的繁栄を実現する手段であることを示した。

2006年は、「官から民へ」「中央から地方へ」を基本方針とする構造改革を加速する制度的枠組みを整える年である。同時に、「民間主導型社会」の実現を確固たるものとするために、日本の経済社会の活力を強化するための礎を築く年としなければならない。

1.財政再建の礎を築く

2006年度政府予算案が策定され、新規国債発行額が30兆円を下回り、歳出規模も80兆円以下に抑制されたことは、財政再建に向けた一歩と評価できる。しかし、財政赤字は、人口減少社会を迎える日本にとって最大のリスクであり、財政再建は緒に就いたばかりである。小泉政権は任期中に、財政赤字の削減を加速するための諸施策を断行すべきである。

第一に、「歳出・歳入一体改革」は、まず徹底した歳出削減に取り組むべきである。その上で、安易な国民負担の増加は、日本経済の活力を削ぐことにつながるとの認識に基づき、単に税負担のみではなく、社会保険料負担を含めた「国民負担」の抑制に努めることが重要である。そして、小泉政権には、「歳入・歳出一体改革」に基づき、財政再建の礎を築く「財政健全化法」の制定を求めたい。

第二に、動き始めた行政改革の断行である。特定財源制度を含む特別会計改革、公務員制度改革、政府資産・債務改革など端緒についた改革をより確実なものとするための取り組みが不可欠である。

第三に、地方行財政改革の推進である。三位一体改革については、一層の補助金改革と税源移譲に加えて、不十分な交付税改革と地方の歳出削減に向けた抜本的な取り組みが不可欠である。さらに、将来の道州制に向けた本格的な議論が深まることを期待したい。

一方、我々経営者は、政府に歳出削減を求めるからには、既得権益の温存や、政府からの補助金に依存しない経営に努める覚悟が必要である。

2.日本経済の活力強化の礎を築く

わが国は、予測よりも早く人口減少社会を迎えることになったが、こうした中で経済の活力を維持していくためには、社会全体の生産性を向上させるとともに、高い付加価値を生み出すことのできる人材や企業を育成していく必要がある。

その意味で、第一に、我々経営者は、経営のイノベーションにより圧倒的な国際競争力を持つ企業を作らなければならない。景気回復による業績向上に安住せず、不断の技術開発、新市場創造、人材開発、コーポレート・ガバナンス改革などに取り組むことが重要である。

第二に、産業政策の重点を新事業創造支援に移すことが必要である。企業の新陳代謝を促進し、イノベーションを起こすようなベンチャー企業が次々と生まれる社会の構築が日本経済活性化の要となる。とりわけ、創業時期におけるリスクマネーの供給促進のための税制改正が急務である。

第三に、規制緩和や官業の民間開放によって、サービス分野をはじめとする生産性向上の余地のある産業を活性化することが重要である。加えて、日本企業にとって市場を拡大するためには、WTOドーハ・ラウンドの目標達成へ最大限の努力を重ねるとともに、FTAやEPAの推進を図ることが必要である。そのためには、単に途上国に譲歩を求めるのではなく、世界経済の発展が日本の経済活性化につながるとの観点から大胆な発想の転換を図るべきである。

第四に、競争力に資する人材を育成していくために、教育改革を行うとともに、政府の資源配分を次世代育成に向けた「子育て・若者」に大胆にシフトすることが求められる。

3.日本社会の「自立」と「信頼」の礎を築く

我々のめざす真の「民間主導型社会」は、「自立」と「信頼」という2つの基本理念に裏打ちされたものでなければならない。

第一に、「自立」の促進により、新しいことに挑戦し、自ら創意工夫することが新たな希望を生み、活力の源泉となる社会を築く必要がある。「自立」は、「強者の論理であり、弱者切り捨てにつながる」との批判があるが、誰もが努力せずに安易に支援を求めることが、逆に支援を真に必要とする人々を埋没させ、救済されないという状況を生んできた。努力した人が報われ、たとえ失敗しても再挑戦が可能であるとともに、様々な障害によって、競争に参加することが難しい人には、しっかりとした救いの手が差し伸べられる仕組みが必要である。

第二に、「信頼」の醸成が喫緊の課題である。昨今の様々な事件を見る度に、わが国の社会において「信頼」が失われつつあることを痛感する。例えば、企業経営においては、国民の安全を脅かし、その信頼を大きく損ねるような不祥事が続発した。これらは「企業の社会的責任(CSR)」以前の犯罪行為であり、憤りを感じる。企業への信頼を回復するために、我々経営者は、改めて自らの経営を見直す必要がある。健全な競争が展開されているか、反社会的な活動が行われていないか、現場の規律の維持に指導力を発揮しているかといった観点から社内の仕組みを総点検し、健全な企業を作る取り組みを強化することは、我々経営者の責務である。また、子どもを狙った凶悪犯罪の増加など、地域社会における治安の悪化も懸念される。わが国の社会が伝統的に大切に考えてきた倫理感、モラル、命の大切さなど心の問題について、教育を含め今一度問い直す必要がある。

今年を、自己責任に基づく「自立」と「信頼」の社会を築く年としたい。

おわりに

小泉総理の任期が9ヶ月足らずと迫る中、「官から民へ」「中央から地方へ」という小泉構造改革の基本方針を確実なものとするために、制度的枠組みを整えることが不可欠である。国民が明るい将来への確信を築くために、既に時代に合わなくなった制度・慣行の創造的破壊を通じ、新たな価値を創造するにふさわしい制度・慣行を構築するイノベーション=構造改革を今後とも加速化することは現世代の責任である。小泉政権には、小泉構造改革の総仕上げとして、残された期間に、後戻りのできない、将来的にも改革路線を確固たるものとする礎を築くことを求めたい。

以上

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