代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

記者の質問に答える形で、日米関税交渉の合意への受け止めと政府への要望、7月20日の参議院選挙結果を踏まえた自民党への要望、極右政党の台頭、日本銀行の金融政策への期待等について発言があった。

Q:米国との関税交渉が合意したが、15%(の相互関税)という水準をどのように受け止めているか、また、発動時期も明確ではない中で今後、政府に求めたいことを伺いたい。

新 浪:(8月1日から発動される関税率が)25%となることはある程度覚悟していた。短い期間で何が議論され、何が決まったかということが見えなかったので、心理的には25%でやらざるを得ないと思っていた。そういった意味で15%になった(引き下げられた)ことは少し安心した。10%(の差)は大きい。(15%に引き下げられたことから)政策的にサプライ(&)デマンドでデマンドの高いものは価格の値上げがある程度できるのかもしれない。一方でそれ以外のものは国内から輸出する価格を抑えて、(関税を加えても)米国での価格を据え置くといったことができる範囲の関税率になった。とはいえ、15%という関税率はそれなりのインパクトがある。これ(今回の合意)によって、日本の消費者、国民に(関税交渉が進んだという)安心感を与え、良い効果を定性的にもたらすのではないかと(思う)。米国においては今後、少しインフレに振れていくのではないか。例えば(サントリーHDであれば)、「山崎」や「響」はそれなりにデマンドがあり(価格を上げられる)。しかし、「季」は(価格を)上げるのが難しい。そういった意味で、米国における価格戦略が少しやりやすくなり、日本でその(米国における負担を)吸収するものが少なくなったということから、対応の幅が広がったのではないかと高評価している。重要なことは(関税交渉が)延びたことにより、不安を作っていたが、この不安がある程度なくなったことは全般的に日本の消費者に対するプラス(要因)だと思う。

Q:政府に対しての要望も伺いたい。

新 浪:半導体をはじめとした今回の5,500億ドルの投資について、よりクリアにしていただきたい。米国だけにプラスになるというものはなかなか上手くいかない。お互いWin-Winになるような最終的な合意にしていただきたい。(投資による利益の分配が)1対9というラトニック商務長官の話もあるが、民間もある程度足していく(関わる)ことになるので、そのようなことをトランプ米大統領にご理解いただきたい。最終的に米国でモノを作るということは、当然(米国の)雇用も生むわけなので、ぜひともそのように(Win-Winな合意を)していただきたいと思う。

Q:参議院選挙後に、石破首相の進退を巡って自民党内でかなり様々な意見が出て、昨日両院議員懇談会が開催され、今後両院議員総会の日程も調整される方向だ。選挙後に自民党でそのような状態が続いていることについて、また政権と自民党に対して経済界として求めるものを伺いたい。

新 浪: 大きなストーリーとしては、これだけ世界中が地経学・地政学的に揉めている状況下にあり、(日米)関税問題もまだ片付いたわけではない中で、早く(事態を)収拾し、安定的に政権そして政策運営をできるようにしていただきたいというのがまずビックピクチャー(全体像)だと思う。その中で、まず今回の(参議院)選挙を振り返って、いわゆる消費税減税や、給付金(といった政策)に国民がなびかないという状況をどう見るか(である)。やはり(給付金を)必要な人たちがいるというのも事実だが、食料品を中心にこれだけインフレになっている状況で、(一時的に)お金だけを渡しても恒常的にもらえるものではないというところ(の国民の認識)が根本にあると思う。まず自民党として今後政権運営をしていく上で、ぜひとも考えていかなければならないのは、(今回の年金制度改正法における、)基礎年金(の底上げにおいて)もまだ国の財源が不明確であるとか、そしてまたマイナンバーやデータを上手に利用して今後本当に(支援が)必要なところへ即座に払える仕組みがないと(いう点である)。必要に応じて即座に対応できる仕組みそのものをしっかり作る。これをきちんとやっていかなければならない。その意味で、構造的に対応ができる仕組みを取れなかったのは、やはり政権与党に責任があると思う。(岸田)前首相のときも(給付金を)配ったが、それ(らの政策)が受け入れられなかった。国民、特に働いている人たちの安心をどう作るかというところ(視点)が、自民党としては欠落してきたのだと思う。この課題にきちんと取り組める体制作りを早期に最大政党として、そして与党として考えていただきたい。(これまでの自民党は)いわゆる国民の声に対して、戦後の仕組みをずっと維持することに非常に力を入れてきた。戦後の仕組みとは、成長があり、そして人口も増える。業法(特定の業界に適用される法律)というのは、ほとんどそれ(が前提)でできている。(しかし、時代が変化したにも関わらず、)この業法を守りにいってしまっているわけだ。ここにまつわる企業がたくさんある。しかし、令和は成長せず、人口も増えない(という時代だ)。これに合った社会システムに変えてもらいたいというのが国民の声だ。政権与党としてあるべき姿(への改革)をやろうとしなかったことが問題であり、自民党が政権与党であり続けたいと思っている限り、やはりここは見直さなければならない。ぜひとも現状においては、それらを一緒に取り組むことができる野党の皆さんと政策をしっかり討論して、(実現)できるようにしていただきたい。それらの課題を、誰がやるかというよりも自民党に問題があったのだ。そこを(自民党)内部で揺れるのではなく、なぜ自民党に問題があるかという論点をしっかり洗い出して解決していただきたいと思う。(例えば、)ライドシェアだって(規制改革を実現)できておらず、混合診療も同様だ。湿布もなぜ医療費で払わなければならないのか、風邪薬をもらうのになぜ診療所に行かなければならないのか、OTC(医薬品)でやればよい。これは実は経済財政諮問会議で11年前から申し上げていることで、実現していない。ここに国民や働く人たちは気づいている。30年の眠りから日本が変わろうとしている時に、何かおかしいぞ(と感じ)、(給与明細を)見てみたら自分の賃金が上がっているはずなのに手取りが上がってない(という状況にある)。1990年代後半と今を比較すると実質賃金は下がっている。(可処分所得が)下がっている大きな要素は、国に取られるもの(税金や社会保険料)が多くなってしまったということだ。高齢者が増えている(ため)当然だ。(これらの)使い方に非常に問題がある。また(国民に対して)自分たちはどうなっているのか、働く人たちがどうなっているのか、ぜひとも(政権与党の自民党には)そういう点に目を向けた政策に大きく切り替えてもらいたい。そうでなければ国民は納得しないという(参議院選挙結果が示す)メッセージを受け取って、政策転換をしていっていただきたい。自民党の中で内輪揉め(しているの)ではなく、国民を見た政策を実現していただきたい。

Q:日米の関税交渉は15%という(税)率で決着したが、その経緯や詳細については(依然として)不明な点が多い。新浪代表幹事として、実際に交渉にあたった赤澤亮正経済再生担当大臣に対し、経営者の視点から、特にどのような点について明確な説明を求めたいと考えるか伺いたい。

新 浪: 結果としては、良いところでまとまったと思っている。米国は相当初期段階から、15%(という関税率)を考えていたのではないかと思う。10%でまとまる可能性もあったが、15%という水準はどこからか念頭にあった数値だと(思われる)。赤澤亮正経済再生担当大臣が何度も(米国に)足を運んで、ラトニック商務長官を中心に(交渉を)続けたことは、結果として間違いではなかったと思う。一方で、日本(との交渉)をまずまとめることによって、(米国としては)EUとの交渉を8月1日よりも前にまとめたいという強い意向があったのではないかと見ている。途中までは、日本側にとって「時」は味方しない状況であったが、(交渉が進む中で、)EUという中国に次ぐ大きな相手(との交渉)が控えていたことから、結果的に赤澤亮正経済再生担当大臣、そして日本政府に「時」が利するようになったのだろう。このような背景も含め、(今回の交渉妥結は)努力による成果であると思う。特に、経済再生担当大臣が米国大統領と(直接)会い、握手を交わすというのはすごいことで、それだけのご努力をされた(ということだろう)。私は、(交渉の)途中経過においては、正直なところ遅いと感じていたが、結果として8月1日を前に(交渉を)まとめられたことは、素晴らしい努力の結果だと思う。政治も経営者も(最終的には)結果が問われる。(そうした観点から見ても、)私は、非常によく頑張られたと思っている。

Q:(日米関税交渉の)合意内容について、明確な説明を求めたい点はあるか。

新 浪: 先ほど申し上げた5,500億ドルの(投資に関する)件については、現下の10兆円の損失を回避するという観点からも、こちらの方がより望ましいとの大臣のご意見には同意する。ただし、これが単体でしっかりと国益に資する仕組みを、(政府には)ぜひともまとめ上げていっていただきたいと(考える)。(本件は)民間も関与する事項であり、経済(活動)においては収益がしっかりと(確保され)なければならない。米国側は、土地の提供をはじめとする各種インセンティブを提示し、それらがエクイティとして評価されていくのだろう。他方、日本側は主にデット(ファイナンス)を担うことになると想定されるが、事業そのものが単純に1対9(の利益分配)ということではなく、必要に応じて日本側もエクイティを拠出できるようフレキシブルに(仕組みが)できてくればいいと思う。いずれにせよ、トランプ米大統領の(基本的な)スタンスとしては、「米国内に雇用を生み、米国で生産が行われること」、そしてその対象分野が経済安全保障上、極めて重要な分野であるため「米国がリードする」ということを重視しているものと理解している。これは、日本製鉄が示している方向性と共通しており、今後は半導体、天然ガス、造船など、国家安全保障と密接に関係する分野を中心に、JBIC(国際協力銀行)をはじめとする様々な日本の機関の融資と、それに連動して日本企業が事業展開していくことになると想定される。収益の分配方法については座組によって異なるが、最終的には経済合理性(に基づいた判断)が求められる。(収益構造が)明瞭であれば、民間(企業)も参入しやすくなっていくであろう。なお、本件の対象分野は、私の理解では地経学的(に重要)な分野だと思うため、国家主導で推進されるものであり、一定の保険などが付保されることにより、民間がついていく仕組みであると想定している。そうしたことをクリアにしていっていただきたいと思う。

Q:日本銀行の役割の一丁目一番地が「物価の安定」だと思う。先般の参議院選挙でも物価上昇が争点の1つになるなか、日本銀行における議論が不足しているのではないか。

新 浪: 「物価の番人」(という指摘は)その通りだと思う。関税交渉が途上のため、(日本銀行は)意図的に“Behind the Curve”でいいという認識で(金融政策運営)をしてきたのだと思うが、思った以上にインフレが国民生活に苦難苦渋をなめさせてしまっているという認識はあると思う。悩んでいると思う。日本銀行は、本来はもう少し早いタイミングで(政策金利を)上げることが必要だった。これはもう十分認識している。そういった意味で、少し関税交渉が長引いてしまったとこういうことだろうと思う。とりわけ今物価を上げている大きな物はいわゆる食べ物が多い。食品は輸入品がすごく多いわけで、そうすると今の為替(円ドルレート)で(1ドル=)145(円)とか150(円)というのは大変厳しい。こういうことを考えると、どこかの段階で政策金利の引き上げを決めていかなきゃいけないとタイミングを非常に悩んでいたと思う。私は「物価の番人」としては“Too Much Behind the Curve”はダメだと思う。政策金利の引き上げがもう少し遅れるとToo Muchになると思う。そして結果的にToo Muchは大失策であり、その時は責任問題になると思う。そうならないようにぜひお願いしたいと、このように思う。

Q:もう少し早いタイミングで(金利を)上げるべきだったという指摘だが、すぐにでもということか。

新 浪: そういうことである。政策金利の引き上げがもっと遅れて結果的に悪くなれば、総裁の責任だと思う。責任は問われるべきだと思う。我々として、米国にここを突かれないようにすべきだと思う。米国(のCPI上昇率)は2.6(%)か2.7(%)である。日本(のCPI上昇率)は3.3(%であり、現在の)金利(水準)はcurrency manipulationだと言われたら、ぐうの音も出ない。その圧力がかかった時に大変なことになる。もう1つ、政策金利の引き上げをやることによる財政に対する影響というのは、ディシプリンを持ってやるべきだ。財政規律は日本銀行に関係する話ではないが、日本として、これだけ長期金利が一気に上がっていることを考えると、やはりここで適切な判断が必要だと思う。(日本銀行が)大変悩んでおられるのはわかるが、やはりこのままだとToo Much(Behind the Curve)になることはわかっているはずであり、Too Much(Behind the Curve)にしたことによる国民の苦しみ、あえて日本銀行が国民に苦しんでください(という政策決定を行う)。その結果大変なことになったら責任問題だと思う。つまり「物価の番人」が番人をやってないということであり、責任を取ってくださいということになる。

Q:金融政策決定会合が明日明後日に控えているが、ここでの期待はあるか。

新 浪: きちんと金利を上げることだと思う。上げない理由がわからない。これで一応関税交渉の大きな流れはわかったわけで、15%(の相互関税)による経済に対する影響もあるということだろうが、でも「物価の番人」である。物価は大変高い状況にある。関税によって経済に大変問題が起こるのではないか。この感覚は大変正しいが、今国民が悩んでいることは何かを考えると、これは一気に(政策金利を)上げなさいという話ではないので、やはり意思を示すことではないかなとこのように思う。

Q:先ほどの政局の質問の中での代表幹事の発言からは、仮に石破首相が代わっても物事は解決しないとも受け取れる。ただ昨日の両院議員懇談会では石破首相退陣とか総裁選前倒しを求める声も多く出たとされる。こうした動きについての見解と、これに反して首相は続投の意向を崩していない点についての受け止めを伺いたい。

新 浪: 首相は続投の理由を今掲げられていると思うが、やはり物価問題を早く解決するために今動かなければいけないということが本当にそう(解決できるの)であれば、そう(石破首相の続投が望ましい)であろう。一方で、今の課題を、そして先々の課題を早く解決できる提案(を持ち)、そしてそれ(を実行)ができる人がいるのであればそう(その人が首相になるべき)である。自民党が自らやらないといけないことをきちんとできる体制が(構築)できるのであれば、そういう方に(首相に)なっていただければいいし、またそれを石破首相が実行されるのであれば、そうである(石破首相続投で問題ない)ということだ。私は何をやるか次第であると、このように思う。石破首相でなければ誰がいいかということは、あまりイメージがよく湧かないが、自民党そのものが変わらないといけない。誰が(自民党を)変えるのか、それはよくわからない。私の立場としては、(自民党の誰にするのかではなく)自民党そのものがどうあるかということがまず重要だと思う。

Q:参議院選挙において、既成政党は駄目だという国民の判断がくだり、また特徴的なのは、いわゆる極右政党が躍進した。これは一過性で終わるのか。あるいは欧州のように軟化しながら、伸張していくのか。欧州においては、移民問題があったことから、(右派の)勢力が台頭したが、日本は(移民問題が起こる前に)極右政党が先にできて、(移民問題がないのに)それを煽るという(欧州とは)逆の構図となっている点も踏まえ、伺いたい。

新 浪: (伸張の)可能性はあるが、外国人を排斥しようという考え方は伸びていかないと思う。(日本に)入ってくる外国人の方々に対してどのようにしていくのか(という施策)については、様々な議論が起こってくると(思う)。以前、コンビニエンスストアの経営をしていたが、外国の方に頑張っていただくことが必要であり、(現に)各地域で活躍され、ご結婚されている(方もいらっしゃる)。このように、その(外国の)方々は不要という考えは、現実とかけ離れている。現在、約35万人超の方々が日本に居住しているにあたり、特定技能制度に基づき(在留資格の付与を)行うことが肝要である。米国の不法(滞在者)のようなことに発展しないよう、きちんとコントロールされた中で外国の方々に活躍していただく。今後、その人数も増えていくため、共生する社会はどうあるべきか。浜松市のように長い時間をかけて(共生を)実現している事例もあることから、そのようなことへの取り組みが必要だと思う。他方、(移民問題だと)煽る動きがますます出てくるという感じもしている。その際、気をつけなければならないのは、フェイクニュースである。何が正しいのかをしっかりと把握し、国民の皆さまが判断できるようにすることが課題だと思う。本日お越しのメディアの皆さま(等)が、何が正しいのかをご自身で判断され、信じてしまいがちなSNSの極端な情報を正していくといった議論も必要だと思う。言論の自由ではあるが、正しいか否かをわかりやすくする環境づくりが非常に重要である。バランスの取れた議論ができ、あまり極端な方向に行かないようにしていくことが必要だ。欧州の抱える歴史的な移民問題とは異なるが、(欧州から)どのように共生していくのかを学ぶこととなると思う。私の理解においては、(本件に関わる)法律は入国に関わる法律と、育成に関わる法律の二つに大別されるが、どのように共生していくのかということについては、都道府県に頼ってしまっている。共生のきちんとした仕組みを議論することは必要であり、共生のための法律などを取り決めることも、もしかすると必要かもしれない。各都道府県や各市町村に任せてしまっていることを、場合によっては国として教育のための必要な処置や予算を行うタイミングになってきているのではないか。(また、)現実としてエッセンシャルワーカーが本当に足りないことを理解しなければならない。このような中で昔のように酷使して(外国人材を)雇用する強制労働的なことは絶対にしてはならない。今の法律に基づき、きちんと賃金を支払いながら、エッセンシャルワーカーなど人材が不足するところへの対応をしていくことが必要であると思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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