新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
冒頭、本日公表した本会による各政党政策比較・評価に言及した後、記者の質問に答える形で、政策比較・評価への見解、フジテレビの株主総会と広告再開、日米関税交渉、日銀短観、6/25公表の経営者アンケートの結果等について発言があった。
新 浪:お手元にある通り、7月の参議院選挙に関連して、経済同友会として実施した2つの取り組みについてご報告を申し上げたいと思う。第一に各政党に対して、重点政策分野に関する公開質問状を出して、回答の回収を行った。そして、各党の政権公約や政策の方向性をより明確にし、有権者の皆様が選挙において十分な判断材料を得られるようにすることを目的としたものである。第二に、本会が重要と考える政策分野について、公開質問状への回答や公約などを参照しながら、各政党の政策を比較評価した。評価に当たっては、第一に短期・中長期の政策の整合性、第二に実現可能性の観点に基づいた評価を行った他、本会提言との合致性もまとめている。詳細に関する質問については、本日同席する松江英夫統合政策委員会委員長からもご回答をさせていただきたいと思う。各政党が一定程度、中長期の国家ビジョンや社会像を提示している点は評価できるものの、課題解決に至るまでの政策的道筋の一貫性や、制度・構造改革への踏み込みは総じて弱い傾向が見られる。特に物価対策については、短期的な家計支援策にとどまり、実効性や財源の裏付けに課題があると認識をしている。本会としては、選挙戦を通じて理念やビジョンの提示にとどまらず、それを実現するための具体的かつ整合的な政策体系の提示を各政党に強く期待したいと思う。
Q:物価高騰への対策において、経済同友会と各政党では一致しない点も多かったのではないかと思うが、今回の参議院選挙を通して、このような議論を活発にしてほしいなど、国民にどのようなことを知ってもらう機会にしてほしいと考えているか。
新 浪:国民の皆さまの一番の関心は、物価対策であると理解しているが、それに対し、ある党は給付する、ある党は消費税を軽減する等それぞれ(の公約が)あるが、意外にも(国民から)あまり評価をされていない。要は、財政などを根本的にどう対処するのかをきちんと語られていないということなのだろう。コメの値段が少しずつ下がってきたことは非常に良いことであるが、抜本的にこの先も下がり続けるのか。しかし、下がり続けると作る側のメリットがなくなっていくため、本質的な議論を行い、どうしていきたいかということがあるべきだ。コメに限らず、今後どのようなビジョンを掲げていくのか(という)、根本的な解決策を国民は求めているのだと思う。(公約を)実現するために何をするのかをもう少しわかりやすく提案していくべきだ。また、(公約の)中にはGDP1,000兆円を目指すと(いったものもある)。掲げた内容自体は評価するが、どのようにして実現するのかという点が具体的に語られていない。(GDP1,000兆円が)実現すれば税収が増え、それが財源になる。ロジックとしては成り立つが、どうすれば実現するのかということが無いと、国民は納得しないだろう。
松 江:本会で(本日の政策比較・評価に)先立って実施した経営者200人(が回答した)アンケ―トにおいて、物価対策に何が重要かという設問で最も多い回答は、賃金上昇だった。給付や消費税の減税は、本会アンケートの中でもそれほど(票が)集まらなかった。これは1つ象徴的(な結果)であると思う。本来の物価対策(において重要なこと)は供給力であり、これをしっかり高め、賃金を上げられるようにしていく。この構造に変えていくことが本来の姿であり、本会としても明確に意思表示している点である。一時的とはいえ、各党は給付や減税を熱心に打ち出しているが、それならば、その効果と裏付けとなる財源、実行する上でのスピード感、事務的な負担など、効果と負担もセットで出していく(べきだ)。この点が無いと、単にスローガン的なものとなってしまう。このあたりをしっかり打ち出してほしいと、評価させていただいた。
Q:物価対策と並んで大きな焦点とすべきは、社会保障改革、年金改革かと思う。社会保障改革を行うには、何かを減らすとか、負担を増やすことが明確にされていなければいけないのだが、今回、そのような責任感ある社会保障改革や年金改革を示している政党はあるか。
新 浪:年金改革においては、財源をどこから持ってくるのかということがきちんと語られている政党はないと認識している。先ほど申し上げた通り、(GDPが)1,000兆円になれば、120兆円程度の税収が増えるが、それで(財源を)カバーするというのは少々議論が飛躍し過ぎている可能性がある。どのような財源を持ってくるのかということをきちんと語られないといけない。基礎年金に関わることである。本会は第3号(被保険者)を廃止し、(その負担は)国が持つべきという提言を公表しており、この(第3号被保険者の廃止に伴う)財源は国として考えなければいけない。これは大変難しい点もある。(財源は)消費税なのか。場合によって考えなければいけないのは、キャピタルゲインに対する税率を上げること(である)。欧州並みに約30%程度にしても良いのではないか。現状日本は、約20%程度であり、これでは(税率が)低いので10%程度高くするようなことを考えていかなければならない。ただ、NISAは除く。このような増税の具体論を出していくことは、(政治家は)選挙になると嫌がってしまう。(給付など)いい話だけをすることをやっていたら、国がおかしくなってしまう。医療に関しては、ある党はしっかりと(社会保険料負担を)下げ、とりわけ(現役世代など)若い方々の手取りを増やすということを明確に示している。このようなプランを出しているところもあるが、もっと深く全政党が取り組まないと社会保障、特に医療については(今後)大変難しくなってくる。そして、介護については(どの党も)あまり触れられていなかった。
松 江:社会保障改革においては、歳出改革の重要性を本会も常に提言しているところである。具体的には、日本維新の会などは歳出改革の点で踏み込んだ提言をしている。あとは立憲民主党もチームを作って取り組むとか、様々なきっかけの点は打ち出している。しかし、本当にどのようにやるのかというところに関しては、まだ踏み込みが足りないと評価をさせていただいた。また、財源の負担という部分も、将来的に税と社会保険料のあり方自体をどのようにするのかと(いうことが肝要)。本会も、年金の提案においては、社会保険料を減らしていき、その分、税の負担を増やすことを中期的にやるべきだという方向を出している。今回、各政党の中でそのような将来的な税と保険料のあり方そのものを示している政党は、ほとんど無かった。社会保険制度の全体像をしっかり示すということは、今一度踏み込むべきだと、評価の中で強調させていただいた。
新 浪:あとは、応能負担についてである。払える人がもっと払うというところは、それなりに(公約や政策の中で)出てきているが、マイナンバーでどこまで把握して、どのようにするのかということが重要であり、これらを明確にすべきではないかと思う。(応能負担における)線引きは非常に難しいことは承知しているが、具体的な実現するための方法論をしっかりと述べてもらいたい。
Q:先週、フジテレビの株主総会が開かれて、経営陣の会社提案が認められた。大きな関心を集めた中で、どのようなことが求められているのか、(株主総会の)結果をどう捉えているか。また、企業のCM再開の動きも出た中で、サントリーHDもCMを再開するという発表をしたが、どのような点を評価してそのような発表に至ったのか伺いたい。
新 浪:まず第一に、第三者委員会から出たもの(調査報告書)、その後に会社(フジテレビ)から改革をする(という)提案内容(抜本的改革施策)、こういったものは十分評価できる。(その上で)株主総会で株主の皆さんのご了解が得られるかどうかが焦点にあったわけで、今回株主総会でも承認を得られ、改革をしていくという、明確に道筋が見えたのでこれでよいのではないかなと。後はこの改革をしっかりと実行していただけるという大前提で、サントリーHDは(CMを)再開すると決めたということである。 やはり、これで昔通りの会社である(以前と変わらない)ということであれば、再開してもまた(今回と)同じように申し訳ないが、ちゃんとやってくださいということになるかもしれない。しかし、今のところそうならないように清水賢治 代表取締役社長のリーダーシップでやっていただけるだろうと、期待をしている。
Q:多くの株主も同じようになったか(捉えたのか)を伺いたい。
新 浪:株主総会で全員ということではないが、株主の合意を得たことがまず重要だと。 その前にやる(CMを再開する)ことも、改革提案を見ればできないことはないが、やはりステークホルダーの大きな1つである株主が総会で了解したということは大きいうえに、無事に総会を終えたことで、(CM再開を)踏み切った。
Q:関税協議について、赤澤亮正 経済再生担当大臣が先日7回目の渡米を果たしたものの、カウンターパートであるベッセント財務長官ではなく、ラトニック商務長官との会談にとどまった。なかなかアポイントメントを取ること自体が難航しているのではないかとの見方もあるが、その進捗についてどのようにお考えになるかを伺いたい。また、トランプ米大統領は日本にとって一番の焦点である自動車関税について、一昨日25%の見直しをするつもりはないとの発言をしており、関税協議全体の先行きについてもご所見をお聞かせいただきたい。
新 浪:現状を考慮すると、大変遺憾である。(交渉が)まとまっていないという結果に対して遺憾であり、日本経済の先行きに不安をもたらす現状であると考える。大変(厳しい局面)ではあるが、やはり(交渉は)まとめなければならない。そうした意味において、現状は大変厳しくなっていると認識している。(加えて、)中国や英国をはじめとするその他の国々に先を越されてしまっている部分もあるため、米国との折り合いをつける方法論としては、大統領との直接対話以外に(打つ手は)ないと考える。今後、(仮に)ベッセント財務長官が(交渉の場に)出てこなくなる場合には、(日米)トップ会談をいかに(実現)するか、その振り付けをどう(設計)するかということを(真剣に)考えなければならない。自動車(関税)の25%は(日本経済にとって)極めて大きな痛手となるため、早急に事態の収拾を図ってもらいたい。時間的なメリットは日本側には全くなく、(むしろ)米国側にある。米国は依然として日本を最も信頼する国であると思っており、大統領も、また民主党・共和党双方も、日本を「Best Ally」と思っている。(ただし、)その(信頼)関係と関税(交渉)はまた別(問題)である。したがって、早期に関税(問題)を解決し、経済安全保障のような(より本質的な課題に)議論を進めていかなければならない。そのためにも、早期の(日米)トップ会談を(実現)できる仕組みを構築する必要がある。(関税問題は日本の)景気にも(直接)影響する。(赤澤亮正 経済再生担当大臣がこれまでに)7回も(米国に)足を運んで(交渉を重ねて)いることは、非常に大きなご努力だと思うが、(それでもなお、)もう少し踏み込んだ対応が必要だと(感じる)。(ただ、)その「踏み込み」が(具体的に)何だったのか、(残念ながら)十分に情報が伝わってこないためわからない。(現実的に、関税)10%をベースラインと考えざるを得ない状況にある中で、日本経済をいかにして良くするか(を真剣に検討する必要がある)。(関税が)10%課されれば、会計用語でCOGS(cost of goods sold)、つまり「仕入れ値」に10%が課されるため、一定の価格上昇は避けられない。その分を基本的に日本国内で吸収してきたのが従来の方法であり、その結果として採算性は悪化する。したがって、日本国内の経済活動をまず闊達にする(ことが重要であり)、特に日本への投資を呼び込み、国内企業が日本に積極的に投資する(環境を整えることが急務である)。そのためにも、先程の(GDP)1,000兆(円という目標を実現するため)の具体的な方策を講じて、国民や経済界に安心感を与える。そのために(必要なこと)は規制改革だ。(例えば)農業改革についても、安倍元首相の時代に終わっていたはずだが、結局十分に実行されてこなかった。改革は、実行しなければ駄目だ。規制改革にはまだまだできることがある。ライドシェア(の導入)も全く進んでいない。したがって、日本国内において企業が自国に投資をしやすい環境をつくり、安心材料を提供することが必要である。米国だけを相手にするのではなく、日本国内の経済を(GDP)1,000兆(円規模)に成長させるための策をしっかりと実行する。ライドシェアは既得権益者と(真正面から)向き合い、社会問題を解決しつつ新たなDX産業(として)育成していく(必要がある)。(現在のように、)ライドシェアすら(導入)できない国が(関税)10%に直面して真っ青になり、25%(まで引き)上げられても大丈夫と交渉できるような状況ではない。(仮に)25%(の関税)が課されれば、日本経済は大変厳しい。そうした事態を回避するためにも、日本企業が保有する約340兆円の資金を(国内)投資に振り向け、人手不足を補うDXを一層推進しなければならない。投資を加速させるために、例えば「5年間の減税(措置)を設けるので今すぐ投資してほしい」といった(具体的な)仕組みを作る、(あるいは)「投資庁」を設立し投資を促進する環境を作るなどの取り組みも必要である。(しかし現状では、)そうした動きが全く見られない。よって、まずは日本国内の景気を良くすることをまず考える必要がある。そうすれば交渉もしやすい。(GDP)1,000兆円(という目標)は非常に良い方向性であるが、その実現に向けては30年間も手つかずであった規制改革を実行しなければならない。農業改革にしても、(農地)中間管理機構が十分に機能しておらず、土地が1.8倍になったものの飛び地であるために生産性向上も実現できていない。規制改革を本気で実行し、日本の企業が国内に資金を投資できる仕組みを徹底的に構築することで、日本経済を(真に)レジリエントにしていかなければならないと考える。
Q:先ほどの関税(問題)に関連して、相互関税の上乗せ部分の延長期限が9日に迫っており、トランプ米大統領も関税を発動する旨の投稿等を行っている。もし仮に相互関税の上乗せ部分が発動された場合の影響について、どのように見ておられるか伺いたい。
新 浪:自動車業界を中心とした裾野は非常に広く、さらに(関税の)上乗せとなれば、大変な影響が及ぶであろう。生産地を大幅に変更するなど(の対応が必要となり)、先ほど申し上げた(関税)10%(の場合)と異なり、(企業各社が自らの努力で)吸収できるレベルではない(と考える)。おそらく、日本国内で(コストを)吸収し、米国では価格を上げない、もしくはある一定の(範囲内で)値上げを行う程度の対応しか取れないのではないか。したがって、これは絶対に避けなければならない事態である。(仮に)関税が発動されれば、米国市場での(価格)引き上げはTransfer Pricing(移転価格)の問題にも発展する可能性があるため、基本は国内の関連メーカーが(その負担を)全て吸収せざるを得なくなるであろう。それでもなお、米国での値上げを十分に転嫁することは非常に厳しくなると考える。今一番悩ましいのは、せっかく中堅・中小(企業)に対してもしっかりと価格転嫁を進めて良いという流れが形成されつつある中で、(こうした状況が)後戻りするリスクがある点である。(関税コストを吸収するために、)各社が(再び)コストカットに動かざるを得なくなるであろう。その際に、せっかく進みつつあった中堅・中小(企業)の価格転嫁の流れが大きく影響を受ける可能性が大いにある(と危惧している)。このように、(関税コストを吸収するという対応は)様々な形でコストカットが生じてくると思う。
Q:冒頭の質問であったフジテレビのCMの件で、再開を決めてもう始めているのか、 具体的なことはこれからであるかを伺いたい。
新 浪:話し合いをしているところだ。スポット(CM)であればいつでもできる。持っているコンテンツが我々自身(サントリー)にあるため、(どの)番組(で放映する)というのを検討中だという理解をしている。
Q:米国との関税交渉について、トランプ米大統領がSNSで「日本は米国のコメを受け入れようとしない」と非常に強い不満を述べている。日本は従来、主食であるコメに関しては一般の工業品製品とは全く違うということで独自の理論でミニマム・アクセス米等の仕組みを作って、自主的に流通を防ぐという形だったが、今追加関税が実施されようとする中で、コメをいつまで聖域として守れるのか、もしくは守るべきなのか、お考えをお聞かせいただきたい。
新 浪:大きな枠組みにおいての安全保障とは、食料安全保障をしっかり考えなければならないものだと思う。その中でコメが占めるものは大きい。ミニマム・アクセス(米)が77万トンあるということであれば、いわゆる食料安全保障とミニマム・アクセス(米)を備蓄米と併せて一体どのように(位置付け、活用するのか)という点は、今回の交渉において考えなければならないことだと思う。考えなければならないのは、経常的に米国から(コメを)輸入するということではなく、一時的にはそういうこと(米国産のコメの輸入)もあってもよいということだ。与党として、また政権としても選挙があるため、(そこまで)踏み込めないのだろうというのは容易に想像ができるところだ。だがやはり、(最終的には)どちらかを意思決定しなければならない。しかし、これはあくまでもミニマム・アクセス(米)の話ではあるわけで、これをうまく活用して(関税交渉を)やれないことでもない。どのような交渉の仕方をしているか分からないが、これに代わるものがあれば、例えば大豆や小麦(も交渉材料として)あるのかどうか(検討すべきである)。農業に関しては、コメを聖域化することは、ある一定のミニマム・アクセス(米)を認めたことで、完全聖域ではなくなっている。やはりどうしても現在のように備蓄米を放出している間に、備蓄米(の補充)は必要だ。何が起こるか分からないためだ。放出しているものはどこかで埋めなければならず、本来であればここ(コメ不足という状況下で)は出してはいけない。だからそこの部分を埋めるという意味で、米国から備蓄米を買い受けることは一つの方策ではあると思う。どこか(の地域)で突然長雨が降ったり、台風が発生したりだとか、このようなこと(災害)が起きた時、備蓄米がないと困る。その意味で備蓄米において、ミニマム・アクセス(米)を併せて(活用するという検討の)可能性はあるだろうと思う。ただ、政府は政府のロジック(論理)があるだろう(と思うため)、そのような(米国産のコメの輸入拡充の)話を何かしらの(理由があっての)ことでしていないのだと理解している。
Q:本日、日銀短観が午前中発表され、大企業・企業の設備投資計画が引き続き堅調で、日銀の担当者の方が米国の通商政策の影響も見られなかったとご発言・ご説明されていたが、実際企業の設備投資について、足元でどのような企業の動きが出ているのか、本日の設備投資(の)上方修正通りの動きなのか。またトランプ米大統領関連で、他国で関税の枠組みが固まり始めている中で、サプライチェーンの見直しが実際に出てきているのか、それとも日本はまだ7月9日の期限を前にして、まだ様子見というところが多いのか、実際企業の状況としてどのように見ているか。
新 浪:全般的には少しずつネガティブになってきていると思う。これだけ交渉が進まないことが、色々な意味で(影響を及ぼしており)、特に消費者(のマインド)も決していい雰囲気ではないし、これは関税問題だけではなく、実質賃金がマイナスであるということもある(のだろう)。ただ企業が今、投資意欲を持っているのは、人手不足がものすごく大きな影響を与えており、これは普遍的に変わらないため、(企業の)投資意欲は引き続きあると思う。(だからこそ)それ(国内投資)をもっと増やさなければならないというのは、先程申し上げた通りだ。従って、今の(投資)レベルをもっと超えるレベルに踏み込んでいかなければならないと思う。仰るように、(投資の)意欲は持っている。ただ、消費は弱くなってきている。やはり値上げが食品においてかなり多く、消費は決して強くない。しかし一方でB to Bもしくは人手不足のところ(企業)を補うような部分には、まだまだ投資意欲があると思う。ただこれからの(関税)交渉次第によってはそれも変わってくる可能性があり、予断は許さない。サプライチェーンを大きく変えるという動きは、まだあまり起こっていないと思う。全般的に雰囲気としてはまだ「TACO(Trump Always Chickens Out)」というのは思っているのだろう。(そのため、)最後は(交渉が)まとまるというのが全般的な見解だと思う。ただ、注意しなければならないのは、中国(との関税交渉)が先にまとまっていると(いうことだ)。日本との関係においては、この件は(日本を)もう懲らしめてやろうと思っている可能性は少なからずある。少なくともemotionalになっている。そこがすごく怖いなと(感じる)。むしろTACOと言われているトランプ米大統領にとっては、(日本は)あれだけ信頼できる国だけれどもやるんだぞ(というおじけづいていない姿勢を)見せることに、意味があるかもしれない。そこは気をつけなければいけない。もし本当にそうなれば、(投資が)冷え込んでくると思う。そしてサプライチェーンも変えていかなければならない。だが、最後米国にいかない(輸出しない)ものを、どこからどのようにサプライチェーンを変えていくかというのは悩ましいところだ。米国に行く(輸出する)ものを、他国を迂回するのもなかなか難しいだろう。先程申し上げた通り、日本国内で価格を上げた部分を持って(吸収し)、そして米国には値上げしないような形で持っていく(輸出する)、このような形にせざるを得なくなっていくのだろう。そうすると、賃金を上げるというのも、(本会)会員企業へアンケートをとってみると(景気定点観測アンケート調査中間集計によると)、昨年(2025年)と同レベル程度(2026年も)賃上げをしたい(賃上げ実施予定)という意欲が既にある(回答が多い)。しかしながら、この関税の交渉(の影響によって)下がってくる可能性がある。つまり追加で(米国の関税が)上がることになると、賃上げの動向が大変厳しくなる可能性がある。そのような雰囲気になってくると、今度は消費が厳しくなる。せっかく今まで(継続的な賃上げの機運が高まっていたものの)、下請け(の価格転嫁)の流れ等が冷えてきて、逆戻りする可能性がある。それが一番心配だと(思う)。ただ投資に関しては、先ほどから何度も申し上げたように、やはり人手不足のところがあるため、引き続き人手不足対策の投資は続くだろう。
Q:先週の経営者アンケートで、現政権に対する評価が50%超という非常に面白い結果が出た。各種世論調査と比べると、少し乖離があると思うが、このギャップはどこから出てきているのか。
新 浪:企業は、投資環境として悪くないと思っており、賃上げに関して政府と共に実現し、労働の循環も行われてきているという意味で、関税の問題以外においては悪い状況でもない。よって、経営者といわゆる国民の皆さま(の政権への評価)には、乖離が当然あり、それが示されたのだと思う。やはり、国民の皆さまは物価に対してものすごく頭を悩ませている。経営者は、どちらかというと投資もできるし、以前よりデフレではなくなり、そしてある程度の価格転嫁もできるようになってきた(と感じている)。B to BもB to Cもあるわけで、この乖離は起こるべくして起こっているのだと思う。物価高というのは国民感情、国民の感覚を示している。経営者のマジョリティーは、今の政権が維持・安定される方が良いと考えているのだと思う。経済を運営する上で、混乱は無い方が良い、そして政策の一貫性(がある方が良い)ということだと思う。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)