代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

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 冒頭、参議院選挙に向けた取組みとして経営者アンケートと各政党への公開質問状の実施について述べた後、記者の質問に答える形で、長嶋茂雄氏逝去、USスチール買収、トランプ政権による鉄鋼追加関税、政府のフジテレビ広告再開方針、公益通報者保護法改正案、自社株買い、韓国大統領選、年金制度改革法案等について発言があった。

新 浪:参議院議員選挙に向けて、いくつかの取り組みを行う。1つは、経営者である経済同友会のメンバーの方々にアンケートを実施する。そしてもう1つは、昨年の衆議院議員選挙で10年ぶりに行った各政党への公開質問状の送付と、それに基づく政策評価の実施である。今回の参議院議員選挙では、各政党が中長期的な国家ビジョンを掲げ、大衆迎合的にではなく、重要課題について責任ある対応方針を提示し、国民選択に資する政策議論が行われることが必要だと考えている。こうした問題意識のもとに、約1,700名の会員の皆さんと各地経済同友会の代表幹事を対象とさせていただき、重要政策課題に関するアンケートを実施する。アンケートの結果を踏まえ、現政権や政策についての経営者の認識、意見を取りまとめ、選挙公示前の6月中旬には皆様へ公表する予定である。調査結果は、政策立案者のみならず、有権者やメディアの皆さんにとっても、政策議論を深める一助になるものと考えている。また、各政党に対しては、本会として重視する論点に関する公開質問状を送付し、各党からの回答を得て公示日前に内容を整理し、公表する予定だ。これらの取り組みは、経営者の政策課題についての認識を可視化するとともに、政策立案者や有権者、そして報道関係者の皆様と問題意識を共有し、日本の将来について前向きで建設的な議論を広げることを目的としている。本調査並びに評価の結果は、本会のWebサイトでも公開し、広く一般にご覧いただけるようにする予定である。

Q:巨人終身名誉監督の長嶋茂雄氏が亡くなった。スポーツのみならず多方面で大きな貢献をされたと思うが、所感をお伺いしたい。

新 浪:まずはご冥福をお祈りする。長嶋選手といえば、何といっても明るさが日本の経済社会になくてはならない存在であったと思う。また高度経済成長の日本の象徴でもあるような感じがして、その意味でそういう時代がまた1つ終わったのかなという感じがした。やはりヒーローというのは素晴らしいもので、皆に勇気を与えてくれた方ではないか(と思う)。また先ほど申し上げた通り、明るさで皆も頑張ろうと、まさにそのように思わせる人物だったと思う。

Q:5月30日にトランプ米大統領が集会を開き、日本製鉄によるUSスチールの買収計画について、(両社の)パートナーシップ関係の意義を強調するなど、承認に向けて前進したと受け止められる動きがあった。これについての所感と、鉄鋼(に課す追加)関税が50%に引き上げられることの影響をどう見ているのかを伺いたい。

新 浪:まず、日本製鉄が米国のUSスチールを買収するという大枠のところは容認されたのだろうと思う。ディールを全部認めたのではないと言っているが、重要なことは、日本製鉄の持つ技術が米国の国益に役立つということを大統領が十分理解されたことである。そのような中で、USスチールという米国のフラッグシップ的な鉄鋼会社であることについて、どう整理をつけるか(が課題)だと思う。(そのために買収の)さまざまな仕組みを議論しているのだと思うが、大統領はまず根底のところを(容認したと)発表されたのではないか。(つまり、)米国にとって大切な鉄鋼会社を日本がパートナーシップを持って、鉄鋼業の復活をするということは詔(のごとく明白)である。ディテールは事務レベルで進めていると思うが、基本は買収が実現するのだろう。買収後、政治が関わってきた中でどのように日本製鉄が遂行したかったことや、企業価値を上げる統合プロセスがどのようになっていくのか(が大切である)。ぜひとも成功していただきたい。私は、基本的には米国の製鉄会社を強くすることに繋がると思うため、成功するよう祈念している。鉄鋼とアルミニウムと車(の関税)には、相当こだわっているのだと感じている。米国内で鉄鋼を生産しなければいけないという方向へどんどん追い込もうと(しているようだ)。(関税によって)実際にアルミニウムなどは(価格が)上がり、インフレにつながっている。よって、これら(の関税政策)がうまくいくのかというのは(わからない)。日本製鉄のような会社が米国での鉄鋼生産を成功させるかどうかにかかっていると思う。いずれにせよ、鉄鋼業の復活を行いたいということを改めて明確にしたということだと思う。自動車、鉄鋼、アルミニウム(の追加関税)は、こだわりの表れである。

Q:本日、林芳正 内閣官房長官が、停止しているフジテレビへの各省庁のCM出稿について、判断して再開する方針を明らかにした。(また、)再発防止策も着実に進んでいると評価している。企業側として、この現状をどのように見ているのか。

新 浪:(6月25日の)株主総会に向けて様々な意見が出ており、これをどのようにまとめていくかという(段階であると思う)。ここでガタガタすることがあってはならず、可能性が全く無いわけではない。やはり、株主総会(の結果)が(今後のCM再開判断の)争点の的になっているのだと思う、以前にも申し上げたが、株主総会をもって最終判断をするのが一番良いのではないか。(様々な)株主の登場により、場合によってはドラマ(のようなこと)になるかもしれない。大きな流れとしては、改革をしていくということが方向づけをされている。株主の発言によって面倒が起こるかもしれないが、今のところ、そのようなことは起こらないだろうと感じている。6月の株主総会を無事に終えることが、試金石になる。それを見て、(各企業は)最終判断をしていくということなのだろうと思う。サントリーホールディングスにおいては、たくさんのお客様の支持を得るという点を踏まえ、現場が(CM再開をしても良いと)判断しており、私は基本的に改革をする意思があると既に受け止めていることから、あとは詳細(の再発防止策など)が、株主総会において支持されるかということになると思う。

Q:企業の不祥事を社員が内部告発した場合に関係する公益通報者保護法の改正案について伺いたい。今国会で審議されており、公益通報を理由として解雇あるいは懲戒処分を行った場合には、刑罰の対象とするという内容になっている。一方で、よくあるとされる配置転換や、使用者側による嫌がらせ(といった行為について)は対象外とされている。この改正案について、代表幹事はどのように受け止めておられるか。

新 浪:(今回の改正は)一歩前進であると思う。ただし、これはきちんと調査を行う必要があるべきものであり、(通報を)された側と(通報を)行った側の双方(の事情)を踏まえ(る必要がある)。まず、会社のスタンスとして、(通報を理由に)組織的に処分などを行うのは適切ではないという点については、その通りである。(今回の改正を)さらにもう一歩進めるかどうかは、今後の運用次第であろう。(今回の改正自体は)非常に意義あるものと思うが、企業の実情は様々であり、残念ながら法律化せざるを得ない状況も理解できる。他方で、多くの企業が通報者側のことを考慮して(適切な)取り組みを始めたのも事実であり、行き過ぎた措置とならないよう配慮された面もあるのではないかと考える。どこで線引きをするかは難しいところであるが、まずは良いことだと思う。

Q:政府では、経済産業省の審議会において、企業における最近のトレンドである自社株買いの増加に対する疑義について有識者による議論がなされている。先ほどの国会審議においても、質疑の中で企業は株主のためにあるのかといった問いが投げかけられており、難しい問題であると認識している。これに関連して、2つお伺いしたい。まず1点目は、PBR(株価純資産倍率)1倍以上を目指すよう指導があったこともあり、(企業としては)自己資本を減らし、(株主)還元に回していくという流れがトレンドとなったという事実があると考えるが、どういった背景が直近の動きであるとお考えになっているか。2点目は、中期経営計画においてROE(自己資本利益率)目標を設定している企業が多い中で、実質的に自社株買いを制限されると、経営としては難しくなる可能性があると(考える)。代わりに設備投資や賃上げに回すべきと(いう指摘があるが)、そう簡単でもないのではと拝察する。この議論についての受け止めをお願いしたい。

新 浪:背景には、「マルチステークホルダー資本主義」という考え方があると推察している。その中で、(企業が)得た収益をいかにしてステークホルダー全体に還元していくかというときに、株主という観点においては、自社株買い、そして配当の増額の2つ。これらにより結果的に株価が上昇すれば、ステークホルダーの1つである株主への還元という意味ではOKだ。ただし、新しい資本主義の中でより考慮すべきは、社員(従業員)、得意先、そして社会といった様々なステークホルダーにとっても「本当に良いのかどうか」という視点である。極端に自社株買いばかりを行うと、「社員の給与(水準)はどうなのか」「賃上げをもっと行うべきではないか」といった議論となる(のは当然だ)と思う。人材投資が不十分なまま、株主ばかりに収益を還元することが適切かどうかが、いま問われているのだと理解している。これは極めて難しい問題であり、本来であれば国が関与すべきものではなく、自らの価値は企業の経営陣と取締役会(ボード)が決定すべき事項である。しかし日本においては、過去の経緯から、コーポレートガバナンス・コードなどが、国主導で整備されてきた(歴史がある)。私自身、安倍政権時代の「産業競争力会議」において、コーポレートガバナンスやスチュワードシップ・コードの導入に関わったが、これは企業側が(自発的に)取り組まなかったからこそ、国が主導することになったという経緯がある。現在、政策的に「実質賃金+1%」に持っていこうというのが政府の考え方であり、そこに直結する話でもあるので、バランスが問われている。すなわち、株主還元を進める一方で、賃上げ(や人材投資)を並行して行っているかどうか、バランスが重要である。そのバランスを見極めるのは、本来は取締役会の役割であると思う。また、ROEを短期的に上げていくのは必ずしも難しい話ではないが、それによって本当に企業の将来(的な価値向上)に繋がるかどうかは、やはり取締役会が精査すべき(課題)である。(企業)価値の向上とは、社員のやる気や人材への投資、そして社会からの評価(といった複合的な要素によってもたらされるものであり)、それが結果的に株主にとっての価値にもなる。その責任を負うのが株主の代表である取締役会であり、サステナブルな(企業)価値の向上に貢献することが不可欠だ。繰り返すが、単にリパーチェス(自社株買い)を行えばよいという話ではないという議論だと認識している。このように、安倍政権以降、特に岸田政権から「ベースアップ」などを重視する方向に変化していることを受け、企業も本来反省し、行き過ぎた(還元)は、改めてほしいという考えが今回の話にあるのではと思う。

Q:セブン&アイ・ホールディングスが3月に公表した2兆円(規模)の自社株買いについては、(規模の大きさからして、)多少行き過ぎている側面もあるのではないかと見ている。この点について、代表幹事はどのようにお考えか。

新 浪:個社の事例について何が良いといったことは差し控えたいが、意図するところは、あのようなケースにおいては、様々な株主が存在し、その株主からの圧力によってリパーチェスという結論に至った面があるということである。そのような圧力に対して、一定(以上)の規模は困るという考え方が、政府として存在する可能性はある。すなわち、アクティビストが登場し、株主の権利を主張するような場面において、もし十分な資金を背景にしているとすれば、そうした(行動が生じ得る)ことは否定できない。また、(企業が)ノンコア資産を保有している場合には、そうした(資産を巡る)アクションも発生し得る。どこで歯止めをかけるかについては、国が(一定の規律を)導入する可能性もあるが、過度に介入すればマーケットメカニズムを壊す恐れがあるため、どこまでやるかは難しい。「何%までなら適正か」といった基準は極めて難しい。ただし、社会全体の空気として、行き過ぎた自社株買いは企業のレピュテーション(リスク)につながることから、そのバランスを本来取るべきは、経営陣と取締役会であると思う。先ほどの事例については個別であるためあまり申し上げられないが、やはり「行き過ぎ」については真剣に考えるべきだ。現在のようにアクティビストが多数参入している状況下では、多様な視点が存在するが、私はアクティビストを一概にマイナスとは思っていない。長期的な視野に立つアクティビストも存在しており、一概にアクティビストが悪いとも思わないし、日本企業が2.4兆ドルものエクセスキャッシュ(余剰資金)を保有している以上、対象となるのは仕方ないと思う。キャッシュを持ちすぎている中、将来の成長に向けた資金活用が最も望ましい。過去30年間で蓄積した資産を、今後どのように用いていくかを、今こそ経営が真剣に考えるべきである。場合によっては、ノンコアを売却してキャッシュをさらに貯め、新しいM&Aに活用する、あるいは新たな事業に投資するなど、前向きな資金活用が、インフレ環境下では最も有効であるが、株主も存在し、株価の上昇も求められるため、バランス(が重要)である。したがって、(成長投資を)進めながらもリパーチェスや増配も行い、最終的にエクイティリターンを高めるという方向性が望ましい。問題は、その時間軸である。短期的な視野では、産業の競争力が損なわれるおそれがあるため、この点については(慎重に)考えながら対応すべきである。それが経済産業省の立場でもあると理解している。

Q:本日投票が行われている韓国の大統領選に関連してお伺いする。まだ決まっていないが、優勢が伝えられている野党の李在明(イ・ジェミョン)候補の対日姿勢について、選挙戦の後半で強硬派から少し方向性が変わったと思う。これも含めて、次期韓国大統領に期待する日本への姿勢や期待を改めて伺いたい。

新 浪:イ・ジェミョン候補が当選する確率が高いというような報道が出ているが、いずれにしても新しい大統領においては、いわゆる日韓の関係が大変良くなっている(現在の)状況、これは周りの地政学的・地経学的な背景からすると、韓国だけではできず、日本だけでもできない。そのような意味でこの2国が協力し合って、東アジアの安定を図っていく。これは間違いなくやらなければならないことである。そしてまた米国もその中に入って、3国でこれをやっていくことが大変重要だ。日韓が協力して米国を引きつけながら、この東アジアの安定を図っていくことは重要であるため、どちらの大統領になっても引き続き大きな流れが変わらないようにお願いしたいと思う。また、流れは多分変わらないだろうと(思う)。韓国にとっても我が国日本が考えているように、台湾有事や東アジアでの今の中国の状況を見ると、やはりこれは看過できないなとは思っているだろう。先ほど申し上げたように(韓国も東アジアの安定を)単独でできるとは思ってないであろうから、日韓が一緒になって米国も引きつけながらやろうという枠組みは変わらないだろう、また変えてもらいたくないと思う。

Q:野党側に政権が変わったとしても、急速な日韓関係の悪化は今の状態では考えづらいとお考えか。

新 浪:実はイ・ジェミョン候補が立候補して当選する可能性が高いという中で、元々大変日本にとっては厳しいだろうなとは思っていたが、今は現実的な方だなと(思う)。やはり今の状況を考えたら、何が韓国にとって良いかはちゃんと考えられているのだろう。その意味で出馬される前の色々な言質よりも、今の方が非常に現実的にプラグマティックにお考えになっており、それは大変いいことだなと思っている。一緒にやれる方なのだろうなとは思うが、逆にもう1人の方(与党候補)も当然そうであって、よって期待としてはやはり(どちらの候補であっても)一緒にやれるのではないかと期待している。

Q:先ほど長嶋茂雄氏について、高度成長の日本の象徴である感じがしたと発言があったが、逆に長嶋氏やプロ野球の存在が(国民の)マインド以外で日本経済に影響を与えたものはあるか。あるいは、現在と比べて何か感じることがあれば伺いたい。

新 浪:ああいう野球選手になりたい、という夢にもなったのではないか。当時はおそらく内閣総理大臣になりたいという夢も多かった。あまり遠い存在ではなかったような感じがする。(現在よりも)何になりたいという夢があったのだろう。そのようなタイミングでスターとして現れた方だと思う。そのようなライジングスターが現在はなかなか(現れにくい)。例えば、現在において内閣総理大臣になりたいという子どもがどの程度いるのか。そのような意味で、長嶋氏のようになりたいと高校野球に励んだとか、(理想や憧れの)像だったのだと思う。今、そのような像になる方がどれだけいるのか。(また、現在は)グローバルになったことから、大谷翔平選手のように海外で活躍するというケースもあり、先ほど申したとおり、身近に感じたのは日本で活躍していたからということもあるのかもしれない。やはり、(長嶋氏は国民にとって)こうなりたいという夢だったのだろうと思う。

Q:今国会で焦点になっている年金制度改革関連法案について、自民党、公明党、立憲民主党で一応合意したことについて、どのように見ているか。

新 浪:まずは、(合意を)おこなったことは良いことだと思う。グランドデザインとしては良いことであり、基礎年金がきちんともらえるように(基礎年金の底上げを)することは非常に良いが、いくつかまだ考えなければならないこともある。早く考えていただきたいこととして第一に、国が負担する部分について、どのような財源でまかなうのか。また、マクロ経済スライド(早期終了を判断する時期)が5年後という点も、本当にそれで良いのか。安心という面では一歩進んだが、まだ(十分に)安心できる状況ではない。そして、第3号(被保険者制度の廃止)をどうするのか。年金について(の議論)は、是非 第3号(被保険者制度)をどうするのかという検討も進めてもらいたい。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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