新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
記者の質問に答える形で、1-3月期 GDP速報と個人消費低迷の受け止めや、上場企業決算、中国で拘束された日本人の実刑判決と日中関係、本日施行の「セキュリティ・クリアランス」制度、日産自動車の再建策への評価等について発言があった。
Q:今日発表された1-3月期のGDP(速報)について、四半期ぶりのマイナス成長となった。個人消費の低迷への受け止めと今後トランプ関税の影響等々が出てくると景気後退局面に陥るのではないかという見方があるが、それらについてのご所見を伺いたい。
新 浪: 一喜一憂すべき状況ではないと思うが、おっしゃったように重要なのはトランプ関税を始めとした不安感、そして先行きが見通せないという状況、(そして米中関税交渉における一部関税の)90日(間の停止または撤廃の合意がされた)というようなことが続くのは、ひょっとしたら(方針が)変わるかもしれないということだ。この不安定要因が世界中、米国においてもそうであり日本も例外ではなく(広まっており)、消費マインドを冷やしているのは事実だと思う。油価が安定して下がっていることは一方で良い情報でもあり、全般的にインフレで(物価が)ドンと上がっていき景気を冷やす状況ではないが、やはり何が起こるかわからないということだ。ご案内の通り、赤澤亮正 経済再生担当大臣が今度また(関税交渉に)行かれて、そろそろどう落ち着いていくのかどうか。米中の関税交渉を考えると日本も期待ができる。このような良いニュースが出てくれば、少し消費者心理も和らいでいくのではないかという期待はしている。
Q:2025年3月期の上場企業の決算が、ほぼ出揃った。大手証券会社の集計によると、各社純利益の総額は4年連続で過去最高であった一方で、2026年3月期は平均で3.5%の減益予想となっている。米国の関税への警戒や先行き不透明感が強いことを示しているという見方もあるが、日本経済および賃上げの動向への影響を含め、どのように受け止めているか。
新 浪: (ドル・円の)為替(相場)の動向も、1つ(の要因として)あるのだろうと思う。大幅な減益というようなことになってくれば、賃金への影響が出てくる可能性があるが、大企業を中心に持続的なCPI(消費者物価指数)を上回る賃上げを行うというコンセンサスがあると理解している。よって、それらを含めた収益(予想)の集計(結果)なのではないか。今までと同じレベル(の賃上げ率)をするかは別にしても、賃上げの継続は実施していくのだと思う。関税は最終的に落ち着くところに落ち着くと思うが、10%のベース部分は(仕方がないと)覚悟しなければならない。(この10%が)日本にとってどれだけの影響があるのかという点は、ある一定のレベルで克服できると思う。今後の大きな要素として、ドルおよび米国の景気次第によっては、FED(連邦準備制度)が(金利を)切り下げていく可能性があり、少し円高になっていく局面もあるかもしれない。企業収益は円で換算するため、その点も含めて3.5%程度の減益レベルであれば、本年に近い賃上げ(率)を持続的に行い、賃上げに対して水を差すことにはならないのではないかと思っている。これ以上、例えば一割とか二割など大きな減益になれば、(賃上げ率を)再考することになるかもしれないが、CPIを上回る賃上げは各社実施していこうというノルムにはなってきていると思う。
Q:従来、純利益が増えたから賃金を上げられるという考えが大宗の見方だったと思うが、仮に減益だとしても、物価を上回る賃上げを実施していくノルムになりつつあり、それを行わなければいけないということか。
新 浪: その認識である。それが、人への投資の大きなポイントであると思う。
Q:先日、中国で拘束された方が12年という重い年数の刑を受け、また、昨年12月には学校を経営していた方が拘束されていたと新たに報じられている。景気の先行きが不透明な中、日米関係のみならず、日中関係にも影響が及ぶのではと考えられるが、この点についての受け止めを伺いたい。
新 浪: 中国における公安関係の(拘束)事由が不明確であるという点が、一番重要なポイントで(あると考える)。すなわち、何をしてはならないのかと(いう基準が)明示されないまま拘束されている(という現状がある)。そのような中で今回のような判決が出されたことについては、もっと透明性が確保されるべきではないか(と考える)。中国においては、いったん拘束されると(ほぼ)確実に有罪(判決)となっており、拘束に至る時点での事由がより明確になっていくことが求められる。しかし、(中国の場合、)外交・通商と公安(の領域)が全く連動しておらず、(それぞれが独立して動いているという構造的な問題がある。)なぜ一方で「協力していきましょう」と(外交・通商の場で)呼びかけながら、他方で(公安部門が)全く別の動きを見せるのか。まさにそこに中国の大きな課題があると思う。一般的に言えば、日中関係の改善を目指すのであれば、(まず)拘束の理由を明確にすべきである。しかしながら、中国という国は、そもそもこうした(部門間の連携がないという)特徴を有しており、そのような事情があるからこそ、たとえ良好な関係を築こうとする意図があっても、そこに躊躇が生じてしまう大きなポイントである。よって、(現在起きていることの本質は、よく)「分からない」ことにある。外交や通商、投資に関して「共にやりましょう」と呼びかけている一方で、公安部門が違う動きをしているという現実を、我々としてもしっかり理解する(必要がある)。
Q:現在、米国がこのような状況にある中で、やはり日本としても貿易における輸出相手国として中国が最大となっているのが現状である。今後も、日本の(経済)成長率には中国との関係性が影響してくる(ものと考えられる)が、今後の(中国との)向き合い方や関係のあり方について、どのようにお考えか。
新 浪: 本件については、外務省をはじめ関係各所がしっかりと理由の説明を中国側に求め、(適切に)コミュニケーションを取っていただいているものと理解している。今後の中国と(の関係について)は、実際には両国は切っても切れない関係にある。(日本は)中国から輸入せざるを得ない製品が存在し、同様に中国も日本からの輸入が不可欠なものを有している。そうした切っても切れない関係が存在しているのは事実である。たとえば、グリッド(送配電網)に関しては、日立製が用いられており、これは非常に(高い)国際競争力を有している。グリッドが機能しなければ、電力の流通が停止する。一方で、日本にとっては中国のレアメタル等が不可欠である。こうした「どうしても必要とされるもの」が両国に存在する関係こそが、戦争のようなまずい状況を回避するための重要な環境を形成していると思う。通商(関係)というのは、英語で言うところの“deterrence”(抑止力)の一部であり、なくてはならないものをベースに、通商関係を発展させていくことは、民間外交(の一形態)となりうると考える。そのような意味において、中国との関係(構築)は東アジアの安定に資するものであり、通商努力を継続することは良いことだと(思う)。当然ながら、そこには経済的メリットが双方に存在するからこそ成り立つ(関係であり)、その経済的相互依存こそが、ある意味国防の観点からもプラスに働くものであると理解している。
Q:本日いわゆる「セキュリティ・クリアランス(適性評価)」制度を含んだ重要経済安保情報保護活用法が施行されたが、同友会では昨年12月にパブリックコメント(経済同友会 経済安全保障委員会「『重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに 適合事業者の認定に関し、統一的な運用を図るための基準(案)』に対する意見」2024年12月25日)を公表しており、その中で主に5点言及していたが、今回の施行によりそれらの懸念が払拭されたか否かについて伺いたい。
新 浪: 払拭のための努力は相当していただいていると思う。まだクリアになっていない部分もあるが、(法律の趣旨の正しい周知とそれを実現する)運用方法が重要であり、(政府と企業が)都度、互いにコミュニケーションを取ることが不可欠である。そうした議論は引き続きの課題だと思っている。(すでに)事前説明の実施や企業への説明も行われているため、(理解醸成に向けた)努力はしていただいていると思う。しかし、企業は常に新商品・新技術を生み出しているため、個別事案を確認したとしても(政府で)判断することが難しい部分もあるだろう。そのため、今後の運用においては、双方の対話を一層深めていくことが重要である。ウクライナ侵攻において、ロシアの兵器の部品の一部に日本製が含まれていたとの報道があった。こうした事象が発生した背景には、2点要因があると考える。1点目は、(ロシア側が)故意に日本製を輸入していたということである。日本が輸出を望まなくとも、別の方法で入手されていたという事実は「故意」にあたるため、輸出管理の規制や禁止に取り組まなければならない。2点目は、(企業が)認識していたのにも関わらず、対応を行っていないということである。新しい部品の対応については、企業と政府の間で対話が必要であり、特にそのような仕組みを持たない中堅・中小企業への対応が重要である。特に輸出管理の規制対象となるのは、どちらかと言うと中小企業である。良い部品を生産している企業は、(海外からも)目を付けられているため、そうした企業に対して政府はしっかりと指導を行う必要がある。法律の内容を十分に理解することは、(政府の秘密情報に接する可能性のある)中小企業にとって非常に難しい面もあり、(企業の設備を制度に適合させるには相応の投資や負荷も発生するため、)運用面(も含めて)丁寧にサポートする必要がある。
Q:日産自動車が国内外を含む2万人の人員削減、7つの工場閉鎖という再建策を明らかにした。詳細はこれからだが、雇用への影響や今回の再建策が大鉈を振るったと言えるのか、その再建策への評価などあれば伺いたい。
新 浪: 個社の話であるためその評価を私ができる立場ではないと思うが、1つ事実として言えることは、ゴーン氏以来何度も(再建策を)やっていますよね(ということだ)。再建を本当にどのようにしていくのかは、特に自動車産業は日本のもの作りの根本、いわゆる基幹産業であるのは事実で、ぜひとも再建に向けてしっかりとやっていただくということが期待としてある。また、相当な人数(の人員削減)を世界的にやるということであるため、日本においても今人手不足ということもあり、そういう(人員削減の対象となった)方々が必要に応じたリスキリング等を受けられるように、国としても安心材料を提供していくと(いうことだ)。元々そのような話(制度)があるわけで、早期に人への投資に適用できるようにしていくことが必要だと思う。少し最近このような(人員削減の)話が増えてきたという感触を受けているため、企業サイドも今人手不足が故に社会的に受け入れられるという感覚もあるのかもしれないと思う。当然のことながらこれ(人員削減)をやらなければならないため、リスキリング等はしっかりと国が雇用調整金等を使って早期にやる必要があると思う。一方で、再建の中では今後、中堅・中小(企業)をはじめ国際競争力を持つ上では自社だけでは解決できない問題もあるだろう。合従連衡というものも再建のためには、日産自動車という意味ではなく、日本の産業界全般で必要なことではないかと思う。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)