代表幹事の発言

新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

 

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冒頭、代表幹事米国ミッションの所感を述べた後、記者の質問に答える形で、トランプ大統領の関税政策やゼレンスキー大統領との会談、通貨安に関する発言、政府効率化省(DOGE)への評価、米中貿易摩擦、また25年度予算案等について発言があった。

新 浪: ワシントンD.C. 、ニューヨークを中心に、代表幹事ミッションとして約1週間、米国を訪問した。米国では、共和党の上院議員や民主党の有力議員、シンクタンク関係者、そして元バイデン政権関係者などから現状および今後(の展望)について話をうかがった。また、ニューヨークでは主要大手企業の経営者からトランプ政権の経済運営に対する見解を共有いただき、意見交換を行ってきた。前者は、関税に対する考え方、またそれに関連する2年後の中間選挙を見据えた施策について(意見が交わされた)。明確な共通認識として、歴史的に2年後の下院(選挙)では敗北する可能性が高く、それをいかに防ぐか(が大きな課題であるとされている)。大統領(の任期)は4年しかないため、(最初の)2年間でインフレをしっかりと抑え込まなければ、(政権が)レームダック化する。そのため、(現在の政権は)猛スピードで政策を推進しており、日々様々なことが起こっている。経済(政策)については、当初若干のインフレを伴う可能性があるものの、将来的には3つの方針でインフレを克服していく(計画である)。1つ目が、燃料価格の引き下げである。米国は車社会であり、EVの普及が進んでいるとはいえ、やはりガソリン価格の低下が顕著にインフレの対策になる。そのため、(国内での石油)採掘を増やし、価格を引き下げるとともに、中東諸国に対して増産を要請している。2つ目に、規制緩和の推進である。現在、住宅価格が高騰しており、これを抑制することでインフレ対策を図る方針である。いわゆるディレギュレーション(規制緩和改革)によって、物価の上昇を抑えることが狙いである。3つ目が最も重要で、戦争の終結による世界のサプライチェーンの安定化である。ウクライナ(情勢の沈静化)のみならず、中東の安定を図ることで、原油価格の急騰を防ぐ方針である。このような3つの対策によって、最終的にインフレの抑制を目指している。そこでの課題は関税もあるが、出だしは関税政策も使いながら後半戦では矛を収めるような戦略をとってくるのではないか。特に中国との間でも(調整が)起こるだろう。また、他の問題として移民がある。現在、(米国への)不法移民流入は抑制されているが、ホテル業界や石油・ガスの採掘業、農業などでの労働力不足が(起こると)指摘されており、今後2年以内にインフレを悪化させない範囲で移民政策の調整が進められる可能性がある。このように、(米国は)経済運営に重点を置いていることが明確だと感じた次第である。しかし、外交政策については不透明感が強いとの意見が多く聞かれた。ワシントンD.C.では、著名な経営者とも面談し、意見交換を行った。そこで共通していた認識は、政権が経済政策としては2年後のインフレ抑制を重要課題としていることであった。一方で、外交政策の方向性は不透明であるということだった。(外交は)インフレ経済にも影響を与え(る要素であり)、特に大手企業の経営者は、CEO自ら走り回って情報収集を行い、分析し、先を考えて経営の意思決定をしている。同様に米国のCEOも地政学やインテリジェンスに多額の資金と時間を投じており、ある著名な経営者は、(業務の)3分の1を地政学的な情報の分析に充てていると語っていた。このように、経済の先行きを見通すことが経営者には求められている。(今回の訪問では、)日本がドイツの二の舞にならないように、しっかりと考える必要性についての指摘を経営者やシンクタンク関係者等から数多く受けた。具体的には、米国に依存して安全保障を確保しようとする国に対して、トランプ大統領は非常に冷たいと(いうことである)。米国は「自国の防衛は自国で行うべき」との立場を取っている。そういった意味で、石破首相とトランプ大統領との会談は大変うまくいき、尖閣(諸島)の防衛についても言及されたが、実際に(有事の際に)米国がどこまで対応するかは不透明である。欧州に対してはロシアと勝手にやってくれというような意志が強くなってきている。日本も自分で自国を守るという仕組みを作らない限りは、米国がこれまでの日米安保協定(の枠組み)で守ってくれることはないと今回かなり指摘された。ドイツの二の舞にならないよう、日本も先手先手を打つ必要がある。(日本は)隣に北朝鮮や中国がある中(に立地しているが)、米国現政権は台湾問題への関心が薄いとの指摘もあった。冷戦終結後守られてきた世界の秩序は大きく変化しており、日本はその中で立ち位置を考える必要があると強く感じた。米国が最近、日本でいう国際協力機構(JICA)のような米国国際開発局(USAID)をやめ、国際的なソフトパワーの発信を急激に縮小させ、長年にわたって築いてきた国際的な影響力を放棄しつつある中で、アフリカなど(の新興国)が新たな支援先として中国を頼る傾向が強まると予測される。この状況を踏まえ、日本は中国とどう向き合っていくのか(を考え)、またJICAなどの機関を活用し、国際的なソフトパワーをもっと強化する必要がある。そういった民主主義国家への支援の強化という点で、日本の役割がますます必要になってきた。トランプ政権の後に(米国が)再び(国際的な影響力を)取り戻す可能性はあるが、そのようなウィッシュフル(楽観的)な見方に依存するのではなく、日本自身が現実を直視し、自国をどう防衛するか今一度考えなければならない。今回の訪問を通じて、平和ボケした日本(の状態)はまずい(と感じた)。特に、経済(力)の強化が不可欠であり、税収の確保が国家の安定に直結する。絶対に軍事国家になってはならない。自国を守るための一番の要は、若干の痛みを伴ってでも失われた30年から立ち上がりつつある経済力で、その礎となる技術をしっかりと磨いていく、こういった日本でなくてはならないと思っている。

Q:先週末にトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談が破談に至った。非常にショッキングな出来事だったと思うが、ロシア寄りの姿勢を強めているトランプ政権の動きが米国、欧州、ロシアの分断に繋がる可能性も指摘されてきている。経済界への影響や懸念などについて受け止めを伺いたい。

新 浪: 第一に米国と欧州との分断が明確になったと感じる。その意味で当事者(ウクライナ)、またそれをバックアップ(支援)している欧州を外してロシアと米国と(の間で停戦交渉を)やるのは、やはり分断をよいと考えてやっているのだろうと思う。ゼレンスキー大統領があのような口の利き方したのは課題もあるかもしれないが、やはり心情的には欧州の人たちも非常にシンパシーを感じたのだろう。ただし、米国抜きで(ロシアと)戦い続けるには大変厳しい状況にあるため、あのようなコミュニケーションを世界中が見ている中で行ったのはあまりスマートではなかったかもしれない。しかし一方で、気持ちは分かる。早速に軍事支援がなくなってしまったことを考えると、やはり一国のトップというのは結果に対しての責任があるため、これからどうやってこれ(米国からの支援)を取り戻していくか(が重要だ)。これで終わりということではないと思うが、非常にまずかった。もう少し上手い試合運びをすべきだったのだろうと思う。心情はわかって(いるものの)、感情で交渉してはうまくいくこともうまくいかなくなってしまうため、まずかったのだと思う。ただ、(戦争)当事者たちが外されて、交渉するのは欧州の歴史であり、ポーランドもそうだった。そのため、ゼレンスキー大統領は会談の場で感情的ではなく(振舞うべきだったが)、歴史は繰り返す。その意味で、プーチン大統領に有利な状況を生む結果になったと(思う)。ただ、元々の意図として米国はもう欧州を外して自分たちで(停戦交渉を)やろうと考えており、欧州のことをけしからんと思っている。先ほど申し上げたように、(欧州のことを)フリーライダー(と認識しており)、本来であれば自分たち自身で(自国防衛を)行わなければならないため、米国は(なぜ)こんなに(世界の警察としての支援を)担わなければいけないのだという思いを持っているのがトランプ大統領だ。それが悪いということではなく、そう思っている状況の中で会談が行われたため、結果としてあのような言い合いを世界(が見ている中)でやってしまった。そして結果が良くなくなるのは当然のことだと(思う)。やはり米国無くしてウクライナを守るというのは大変厳しい。今後欧州が全部(支援を)担ってくれるかというと欧州の経済(状況)を見ると大変厳しい。その意味で、米国との対話をもう少しうまく行わなければいけなかったと思う。だが何度も繰り返すが、心情的には非常にシンパシーを感じる。例えばロシアに占領されたウクライナの地域の方々はロシアのパスポートにならないと医療を受けられないということが行われる等、非常に非人道的なことが行われている。それらを考えると、米国自身が当事者(ウクライナ)を外して、ロシアと和平を結ぶような仕組みを作ろうとすることに対しての感情があのような(ゼレンスキー大統領の)言動になるのは理解できる。

Q:トランプ大統領は、予定通り3月4日よりメキシコとカナダに対して追加関税を発動する旨を発言した。両国には日本の自動車メーカーの工場も多いが、追加関税が日本経済に及ぼす影響をどう考えているか。

新 浪:大変な影響があると思う。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づき、日本企業に限らず米国企業もサプライチェーンを構築してきたため、(前提が)突然このように変わると、米国内で(最終製品を)製造することも非常に難しくなる。そうした意味では、日本(企業)は今後どうすればよいのか(は難しく)、すべて(の製造拠点を)米国内に移転しても、また(米国の貿易政策が)転換するかもしれない。すなわち、4年後には別の大統領が誕生して別の政策を考えるかもしれないため、収益的な観点だけではなく戦略的にどうするべきか大変悩ましい状況である。一方で、米国経済は世界で最も信頼できる(成長力のある)経済であることも事実であり、主要先進国で最も生産性が高く、生産性の高さにひかれて資金や人材が集まっており、(個人)消費も非常に強いため、どうしても米国市場を獲得したいというのは当然である。そうした状況の中で、(日本企業は)とりわけ労働力が安いメキシコで(生産を)行っているため、(メキシコへの追加)関税自体の影響は大きい。加えて、日本からの(対米)輸出に対して追加関税が課されるとなると、(為替が)円高に振れることも含め、日本(経済)に対する影響はGDPを0.5%程度押し下げる可能性がある。このマイナスを最小限にするためにも、財政ではなく、(民間企業が)もっと日本国内に投資しやすい環境を作っていく必要がある。米国がこのまま(関税引き上げを)進めると、中国に対しても(従来の)10%プラス(追加分の)10%の関税を課すため、(米国内の)インフレ率を2%程度押し上げる可能性がある。(トランプ大統領の)支持率は少し落ち気味だが、本当に(インフレ率が)高くなったら支持率は大きく下がるだろう。そうなる前にトランプ大統領は何らかの対応を行うことになると思う。先ほど申し上げたシナリオの中で、上昇したインフレ率が(中間選挙までの2年間の)最後の頃に低下すればよいとしても、あまりにもインフレ率が上昇しすぎるとトランプ大統領に対する(支持層の)信頼を大きく失う可能性があるため、本当にずっと(関税引き上げを)続けるのかどうか(は疑問だ)。もし続けるとしたら、トランプ大統領が行いたい政策を実行できなくなってくるだろう。(トランプ大統領支持で)一枚岩になっている上院共和党の議員も自らが各州で落選する不安のために(トランプ大統領から)離反する恐れが高まり、(各国への追加関税を)同じように行われると困るという声が(共和党内で)大きくなってくる可能性もあるため、(トランプ大統領は)例えば大幅減税などの何かしらの対策を打ち出すかもしれないが、(予算や税は)議会が決定することであるため、減税を進めるのはそう簡単ではない。片方(の関税)は大統領が決定でき、もう一方(の国内の税)は議会が決定することであるため、今回の(カナダ、メキシコ、中国への関税引き上げの)決定は、トランプ大統領が実行したい政策を進めにくくする可能性を高めるという影響も考えられる。日本企業にとって(追加関税は)大変なことではあるが、米国の自動車業界なども同様の状況にあるため、全企業が値上げを行うことになると思うし、そうなれば(米国内で)各社ともに売り上げが低下するという影響が考えられるが、日本企業だけではないということは述べておきたい。とはいえ、日本から(米国に)輸出する自動車や部品にも関税がかけられるため、米国メーカーに対する競争優位性が低下する可能性はあることから、日本経済への影響はあるだろうと考えている。ただ、だからと言って、米国にすべて(の生産拠点)を移して米国内で生産するべきかとなると、モノづくりが苦手な国家に米国はなってしまっており、労働力も豊富とは言い難いうえ、工場がすぐに建設できるわけでもない。したがって(米国内での供給が不足するため)、物価が上昇して(米国の)消費者が負担を強いられるということになると考えている。

Q:トランプ大統領が日本の円について円安に誘導していると批判し、外国為替市場にも影響が出ている。こうした発言、ならびにこの影響をどのようにお考えか。

新 浪: 実質金利が大幅なマイナスとなっており、楽観視できない。ざっくばらんに言うと、辛い。物価安定目標の2%を超える状況に対し、ビハインド・ザ・カーブで金利を調整してきた。そうした対応について指摘されると、意図的ではないと反論するのは大変難しい。しかし、為替を操作する意図で取り組んでいたのではなく、国内経済のインパクトを考慮して、ビハインド・ザ・カーブを採っている。消費者だけでなくB to B企業にとっても、20年強続くデフレマインドをインフレマインドへ転換するのは容易ではない。金利を一度に0.5%から1.0%、1.5%まで引き上げた際の国内経済への影響を加味してインパクトを上手く調整している。実際に、0.25%、0.5%と段階的に利上げを行っており、日本経済にダメージを与えないようにしている。そのため、意図的に通貨安政策を行っている訳ではないが、客観的に見ると実質金利が低すぎるのは不自然だと批判されてしまうのは自然なことである。一方で、失われた30年間の中、まず金利を引き上げているため、意思はあり、日本経済が不安定にならないよう取り組んでいる。そのことをしっかりと説明する必要がある。より日本の金融政策を世界に説明しなければならなかったと思う。非常に辛いところを突かれたと思っている。物価上昇率が3%程度のため、政策金利の状況を踏まえると、低水準であると指摘されるのは十分あり得る。しかし、過去の状況を踏まえた判断だということを米国側に理解してもらうように話をしなければならい。しかし、突然0.5%の利上げを行うと、中小企業の経営状況がより厳しくなることは明白であり、日本経済が悪化する要因になるようなことは避けた方が良い。日銀はインプリケーションとして、段階的に金利の引き上げを実施する旨をフォワードガイダンス(先行き指針)で公表している。そのため、為替を意図的に操作しようと取り組んでいる訳ではないと、しっかりと説明すれば理解されるのではないか。

Q:米国へ日本の財務トラックを説明する必要がある。石破政権は、トランプ大統領の発言を解消するためのしっかりとした説明ができるとお考えか。

新 浪: 日米財務大臣会談が既に行われているため、コミュニケーションという意味では問題ないと思っている。しかし、金融政策はFEDと同様に日銀が完全に独立しているとは言い切れないものの、一定程度独立している。そのため、国として為替操作をしていないことは、加藤勝信 財務大臣とスコット・ベッセント 米国財務長官、また事務レベルのコミュニケーションが十分できると思っている。そして、スコット・ベッセント 米国財務長官は日本の経済について非常に詳しいと言われているため、そうした意味でもコミュニケーションしやすいのではないか。

Q:2025年度予算案が、本日衆議院本会議を通過する見込みだが、その中で年収の壁については、与野党協議の末、与党案である所得制限付きの160万円に引き上げすることで落ち着きそうである。これについては、税収減を抑えたのではないか、あるいは、新たな壁を作っているのではないか等、色々な見方があると思うが、新浪代表幹事はどのように見ているのか。

新 浪: 基礎控除を引き上げたことについては、(これまで)対象だった方々が(これまでの)壁を抜けたという点で意義があり、(目的を)達成できたと思う。しかし、年金や社会保障の壁があるという議論が抜けている。支援強化パッケージも2025年で終わってしまう。よって、(支援強化パッケージの期間を)3年程度延長していく(ことの検討も必要)。人によっては、数十万円程度(所得が)減少してしまう。つまり、壁がなくなったわけではなく、これらは年金にも関わる。私たちは第3号被保険者の廃止を主張している立場でもあるが、このような(年金なども含めた)議論をしていく(必要がある)。(1つの壁を抜けても)別の壁を抜けているわけではないため、これらをきちんとしていかなければいけない。また、(支援強化パッケージが)終了してしまうと(大幅に年収が減ることが)心配であるため、壁を乗り越えようとせず、(支援強化パッケージを)利用していない方が多くいる。基礎控除を引き上げた点は、これで正解だと思うし、基礎控除(の引き上げ)は我々のような経営者にはいらないことから、所得制限を設けたことも良いのではないか。さまざまな議論はあるわけだが、大前提としてやはり年金や社会保障に関連した壁(の議論)から逃げてはいけない。支援強化パッケージを延長し、その間に年金をどうしていくかなどの議論をしていただきたい。連合も賛成している第3号被保険者の廃止を行い、第1号、第2号へ集約していくためには、財源をどのようにしていくのかといった議論を展開させ、基礎年金をきちんと貰えるという安心感の醸成に繋げていっていただきたいと思う。

Q:中国も米国に対して、一部農作物で追加関税を課すという(報復措置をする)ことで、米中の貿易摩擦が激化するという見通しにもなってきたが、日本経済への影響はどう見ているのか。

新 浪: 中国経済が非常に厳しいということが巷間で言われている。日本経済は世界中と繋がっており、関税の(報復措置の)やり合いが始まれば、世界経済が間違いなくマイナスとなり、日本の経済にとっても大変マイナスとなる。(関税措置を進める)トランプ政権によって、IMF(経済見通し)もマイナスになるだろう。よって、日本(経済)にそのようなことが起こるであろうと(いう想定で)、我々経済界や企業は準備を進めなければいけない。その準備とは、収益性の弱いものから強いものに集中していくような、経営のあり方を考えていかなければいけないということだ。つまり、経営のレジリエンスを高めるということだ。場合によっては、合従連衡もしながら競争力を上げていく。その中で、どの程度まで関税(による報復)合戦が行われるのかを予想し、そして原材料等の高騰などを予測しながら経営をしていかなければならず、相当厳しい経営(の舵取り)となってくる。世界と戦っていく中で勝てなくなってはいけないため、やはり合従連衡や不必要である(と判断した)ノンコアビジネスの売却など、企業行動を(これまでと)変えていかなければならない。いざという時にそれらを行える準備として、マルチシナリオプランニング、経営計画を1つだけではなく、3つ4つと用意する。4つ目(の計画)となっても、赤字に陥って困らない仕組みを準備していくという、プリペアドネスの仕組みが必要な事態となっている。そして、予測不可能では経営ができないため、何が起こるのかをしっかりと情報収集する(ことも肝要だ)。米国の社長やCEOは、(情報収集に)3分の1の時間を費やしている。(情報収集は)経営のボトムラインに影響することであるため、世界中を飛び回って情報を得る。そして経営計画を練り直していくことが必要で、リスクを最小限にするために行動する。社長がものすごく忙しくなると(いうことは)、冗談抜きにそのような(経営判断が迫っている)時が来ているのであろう。冷戦以降、平和だった時期が長かったが、そこから経営体制を大きく変えていかなければいけない。経済のみならず、地政学的にどの国と付き合うべきか、付き合わなければならないか、このようなことを(視野に入れて考えていく必要がある)。やはり政府には、エネルギーの確保と、CPTPPのような同じ問題意識を持った国々と(の連携を果たしてほしい)。日本は自由貿易が無いと、エネルギー1つと取ってみても成り立たない。(友好国と)協定を結び、貿易がしっかりと出来る仕組みを政府に作ってもらうことが、我々民間として非常に期待するところであると思う。米国は、WTOはじめとしたものを完全に無視していこうとしている。つまり、米国を頼りにしてきた、冷戦以降の仕組みは大きく変わるという(前提の)中で経営計画を立てていくということである。日本政府は、隣国に北朝鮮のような大変難しい国がある中で、どのように日本自らを守ったら良いのか。万一、米国が台湾を守らないとしたら、どのようにしたら良いのか。これらを至急考えていかなければならない。民間だけではできないことがたくさんあるため、現政権には意識を持ち、民間の現状を理解しながら、無駄な金を使わずに経済に資する体制をお願いしたい。民間は2.4兆ドルの資金があり、米国ではなく日本に投資をしてもらえるようにすることが、(日本の)経済をレジリエントにする。日本(国内)で投資をしやすい環境を(現政権に)作ってもらうということだと思う。米国において5年連続で日本が最も投資をしているが、日本(国内)に一層投資をすることができる環境を作る。そのためには、エネルギー(の安定性)である。エネルギー価格が高くて不安定な国への投資は、すごく(リスクを伴う)。もう1つは、一層の労働流動化である。岸田政権下の新しい資本主義の(労働市場の)流動化を(さらに)やっていくことだと思う。これまでと180度異なる発想をしていかなければならず、非常に大変なこと(ばかり)である。トランプ政権になり、思っていた以上に、全てが一気に(推し進められている)。(中間選挙までの)2年間の中で(戦略を)進めようとしており、毎朝起きて確認することが多すぎ、またそれらを(一つひとつ)ジャッジしていかなければならない。総理も大変だが、社長も大変である。

Q:今回の米国ミッションでイアン・ブレマー氏と意見交換を行われたのか。また新浪代表幹事は現在の国際情勢をブレマー氏が言うG-Zeroの世界と考えているか。

新 浪: 今回の米国ミッションの期間中、2日間にわたりブレマー氏と議論した。彼からは、ドイツのような状況に陥らないように日本は目覚めなければならず、米国を頼りにしてはならないとの助言があった。実際、(トランプ政権の外交・安全保障政策の方針について)様々な証左が出てきている。G-Zeroとは、米国が覇権を唱えて世界の警察官を務めることをやめ、中国もそうした(米国の代わりに世界の警察官を務める)意欲がなく、国際紛争を解決できる存在がいない(という国際環境を指している)。トランプ大統領が(ロシア・ウクライナの)戦争を止めようとしている点では(終結に)介入しようとしており、それは悪いことではない可能性もある。しかし、(トランプ大統領は)決して世界に覇権を唱え、世界中の紛争を全部抑制していくという姿勢ではないため、引き続きG-Zeroは悪化していくだろう。ブレマー氏は米国国際開発局(USAID)が縮小されることを懸念しており、世界に対して援助を行う資金が大幅に削減されたことにより、地政学や軍事(的なプレゼンス)だけではなく、ソフトパワーまで(トランプ政権が)縮小させていくことに大変な危機感を持っていた。そのため、日本がこれまで行ってきたアフリカ開発会議(TICAD)などの苦しんでいる国々への援助を強化してもらえないか(と述べていた)。中国がそうした分野に参画することへの是非については様々な議論があるが、西側諸国がどういった意思や意図で取り組むのかが問われている。ただ米国を中心とした西側諸国の連携が失われていく中では、日本が世界に対して行えることは多くあるとブレマー氏は述べており、私も同感である。グローバルサウス諸国に対して、日本ができること、日本だからこそ信頼されていることが多く存在する。今回(のUSAIDの縮小を受けて)、日本は軍事力ではなくソフトパワーで世界に貢献できることが多くある。ただ、日本経済を強化するために国内向けの投資を行っていかなければならず、そのバランスも考えなければならない。ブレマー氏の発言には、日本として自国の防衛をどうするか(という問いかけ)と、米国が抜けたところに日本の優れたソフトパワーを展開すべきという重要な示唆があった。特に防衛については、台湾や日本の防衛のために米国が行動しないというこれまで考えたことがないような事態さえも、きちんと考えておかなければならないとの発言があった。

Q:イーロン・マスク氏が率いるDOGE(政府効率化省)をどう評価しているか。

新 浪: 良いところと悪いところがある。ご案内の通り何も分からずに効率化を進めているというところもある。ただ、米国全体であまりに国(政府)が大きすぎて大きな顔をしているという感覚があった中で、いわゆる詔(設立目的)はすごく評価されている。しかし、実際やってみると素人軍団で行っているため、大きな問題も起こっていると(言う状況だ)。こういうことをやると必ず何か問題が起こるわけで、決して何か悪いことだけではなく、良い面と悪い面の両方があるのだろう。経済界の方々は多くが、やはり大きくなり過ぎた政府をどこかで縮めなければならないと思われており、一方でやりすぎたところも言われており色々な失敗もあるわけで、両方なのだろう。ただ(DOGEに対する)期待感は結構経済界にはあるなと思った。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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