新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
冒頭、「沖縄科学技術大学院大学(OIST)との合同シンポジウム」について述べた後、記者の質問に答える形で、トランプ政権のカナダ・メキシコに対する関税延期や関税政策の影響、フジテレビへのCM出稿、問題を受けて大株主からフジ・メディアHD取締役相談役へ辞任要請があったことへの受け止め、2025年春闘の中小企業の価格転嫁について発言があった。
新 浪: 沖縄科学技術大学院大学(OIST)との合同シンポジウムについて案内したい。OISTは開学以来、5年一貫制博士課程を有する大学院大学であり、シュプリンガー・ネイチャー社による研究機関のランキングで世界9位に選ばれた、国内トップの学術機関である。サントリーもOISTと研究開発(R&D)分野で協働している。このような取り組みをより多くの企業に理解してもらい、OISTの活動を後押しするため、昨年から合同シンポジウムを開催している。日本の課題としてR&D投資の低迷が挙げられる。米中と比べても大幅に低く、このような状況を鑑みて、OISTの取り組みから学びながら、また経済同友会として基礎的なR&Dの重要性を認識することが必要である。まずは、どのような取り組みがあるのか研究発表を聞くことで、研究者と企業との関係(を深化させ)、参加者が自社とOIST との共同研究を行うなど、(産学連携を)推進できれば良いと考えている。また、沖縄経済同友会との交流も深めていきたい。昨年も非常に実りあるシンポジウムだったため、今年も大いに期待している。
Q:米国のトランプ大統領がカナダとメキシコに(対して)4日から発動する予定だった関税引き上げを1か月延期すると発表した。この受け止めと米国政府や、今週後半には日米首脳会談を控えているが日本政府に今後どのような動きを期待するのか伺いたい。
新 浪: まずカナダとメキシコだが、(関税引き上げを)1ヶ月延ばしたのは大変賢明な米国(トランプ)大統領のご判断だったと思う。またこれに応じたカナダ、そしてとりわけメキシコ(は)フェンタニルといった麻薬を徹底的に取り締まることが1つの大きな目的になっているが、これがゆえに3国間におけるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)がおかしくなることは米国の一番重要な(課題の)インフレに影響を与えることもあるため、お互い良いことが起こらないということだ。フェンタニルに対しての対応をきちんと両国でやることがこの1ヶ月で明確になれば、このような25%という本当に大きな関税になることはなくなるのだろうなと(思う)。米国は、メッセージとしてきちんと期待していることをやってくださいということを関税を武器にしてやっているのだと(思う)。これは1つのやり方でもあると思うが、やはり中国から来ているいわゆる麻薬に当たるものがなくなっていくことは重要なことである。また米国が両国と(関税の引き上げを)25%やれば、サプライチェーンはUSMCAでものすごく繋がって(おり)、米国が自分でやって自分の首を絞めることも明らかであるわけで、この三国の関係はもう切っても切れない関係にあるため、お互いが協力し合うことが始まると非常に良い方向になるだろうと思う。それと日米(政府への期待だが)、新聞紙面上でも色々報道されているように、まず日本と米国の関係というのは、(日本は)世界で一番米国と一緒にやっていこうということで投資をしており、そしてもの作りが多いということでいわゆる雇用も生んでいる。その中でトランプ米大統領が言うように米国で物を作っていくことに貢献をしている国であることは、よりご理解いただくということ(を求めたい)。(これ)と一緒に、例えば今回AIの取り組みをやろうとか、色々な取り組みをやろうということを提案していくことは、お互いにとってすごく良いことであり、例えばAIにおいてはやはり日本は米国に比べて遅れているわけで、一緒になってやることは意味がある。一方で、日本はグリッド、いわゆるAIに必要な電力供給のところ(電力網)や半導体の原材料、部品、また製造装置も東京エレクトロンをはじめ(として)あり、これらは日本なくては作れない。日本の持つ強みと米国の半導体のデザイン力、そして電力が安いということ(部分)で、日本と米国が一緒になってやれば非常に世界(で)の競争力が(確保)できる。その意味でwin-winになれる関係を再度より深く(構築)できれば、これはもう本当に素晴らしいことだと思う。今回の石破首相の訪米は大変期待するところである。大いに成功裏に終わっていただきたいと祈念している。
Q:連日報道されているフジテレビの問題について、CM出稿しているスポンサー企業も数多くAC(ジャパン)のCMに差し替えたりキャンセルを決めたりと影響が拡大しているが、この問題の受け止めとフジテレビの一連の問題の対応についてどうご覧になっているかお伺いしたい。
新 浪: 何といっても第三者委員会できちんとなぜ今まで分かっていてやらなかったのか、会社で何が起こったかを明確にすること、これしかない。そしてそれ(問題)に課題があったとすると、ガバナンスのあり方をしっかりと検証していくこと(が必要)であるなと(思う)。第一にやはり人権の意識、そしてコンプライアンスの意識、これらがどのようにあったのか、その意味で説明責任を果たしていただくことだと思う。その上で、スポンサー企業の皆さんは納得がいけば(CM出稿を)また再開ということになるだろうが、やはりそこがないとなかなか厳しいだろうと思う。ぜひとも早期にこの第三者委員会のもとに、ガバナンスの状況がどうであれ、またそれをどう改善していくか、このような話がフジテレビから世の中に早く発せられることを期待している。
Q:米国の追加関税に関して、本日午後に対中国では引上げを実施するとの速報が流れた。引上げ実施をめぐる情報が短期間のうちに錯綜するのは、企業にとって非常に負担が大きいと思われるが、日本企業はトランプ米大統領の政策運営にどう対応していけばよいか。
新 浪: ポイントは2つある。従来は1つのシナリオだけで経営をしていけばよかったのに対し、(想定するべきシナリオが)2つ3つあるということだ。(変更が)何もないことが最も良いシナリオであり、2つ目(に考える必要があるの)は最も悪いシナリオであり、その中間が何かしら実際に起きる事態なのだろう。ただ、(トランプ米大統領は)必ず中間選挙に勝たなければならない。この目標があることは間違いなく、中間選挙に勝つためにはインフレを抑制することが必要だ。歴史的に見れば、中間選挙で(大統領の所属する党は)下院で敗北している(例が多い)。その中で、(トランプ米大統領は)4年間の任期できちんと成果をあげたいという意識があるため、2年後の中間選挙(の時期)には現在のインフレが収束している(状態にする)ことが大前提となると考えると、自国に大きなインフレが戻ってくるような政策は大変厳しいと思う。したがって、シナリオとしては、(インフレ抑制を)大前提に考えつつ、10%(の追加関税は)あるだろうという考えですべてに臨むべきであろう。それ以上(の関税引き上げ)は、各国それぞれの反応に応じた判断となるのではないか。対象となるのは米国にとって貿易赤字の大きい国と思われるため、(各国の違いに対応する)シナリオを備えておく必要がある。米国は、EU全体に対しては非常に大きな貿易赤字を抱えており、中国やベトナムなども同様であるため、これらの国々への投資にあたっては(トランプ政権が追加関税を課す)可能性が大きい。メキシコと同様、こうした国々(への投資)には対策を考えていかなければならない。(各国への追加関税が)なければベターなシナリオであり、対策(を講じること)が普通のシナリオとなるだろう。我々の見通しでは、米国がインフレをどこまで許容できるかを考えると、(関税の引き上げ幅は)恐らく10~20%(が限界)だろうと見ている。(追加関税の米国内での)何らかの対応として、いわゆる規制緩和の推進とそれによる新たなビジネスやイノベーションの創出を図り、経済が活性化する中で人件費も払えるようになると、(追加関税によって)上がった物価分を十分にカバーできる勢いが米国経済に生まれてくる。つまり、(関税を)10~20%引き上げたときに、それに(よるインフレに)見合う経済の強さの結果、人件費も払えるようになり、インフレが(国民生活に)あまり影響しないという状況を作れるかどうか。(引き上げ幅は)恐らく20%が最大の上限だろうと考えている。そのため、平均で20%以上の追加関税となると(米国経済は)大変なことになるだろうし、2年後(の中間選挙)は勝てない。2年後に勝てなければ(トランプ政権は)レームダックになり、何もできなくなってしまう。トランプ米大統領の任期は4年しかないため、絶対に中間選挙には勝たなければならないというのがポイントだと私は思っている。この点では、現在、政府機関を設置し、軍まで導入して進めている不法移民の送還についても、過度に行えば、当然人手不足が深刻化して人件費がさらに上昇し、コストプッシュ型のインフレを招き、2年後(の中間選挙)が大変なことになる可能性もあるため、(トランプ米政権が)どこまで強行するつもりかを見定める必要がある。日本企業が最も重視すべきは関税政策であり、その見極めには、米国が各国に対してどの程度の貿易赤字を抱えているか、そして、各国政府がどう対応するのかを見極め、各国の経済情勢がどうなっていくのかという見通しを持たなければならない。10~20%というのは追加関税の平均値であり、米国のマクロ経済上は20%だと厳しいと思っている。平均値のため国によってはゼロ%かもしれないし30%かもしれないが、米国全体での引き上げ幅が10~20%までは何とか対応できるのではないかと思う。ただ、既に米国はインフレが進んでおり、連邦準備制度理事会は金利を引き上げるのではないかという状況にある。その中で(日本企業が)どう対応すべきかという観点からは、今回、メキシコとカナダが何かしら対応しようとしたことには非常に安堵感がある。
Q:サントリーHDもフジテレビへのCM出稿を中止している状態だと思うが、(フジテレビの)人権に対する意識やコンプライアンス、ガバナンスの改善について、いったいどのようなことが確認できると(CM出稿を)再開することを考えていくのかを伺いたい。
新 浪: 以前から今回の話を把握していたのに、どうして(当該のトラブルを)放置してしまったのか。(その後、)大事になって第三者委員会(の設置)にまで追い込まれた。なぜ会社としてそうしたのかということが明確になっていくこと(がCM出稿再開の判断材料)であると思う。第三者委員会がそのようなことを調査し、(事実が)わかり、改善策が打たれることで、私たちは(フジテレビの)体制が変わるという(ことが確認できる)。(CM出稿再開を考える上でのポイントは、)放置したことに対する対応策がしっかりできていることだと思う。
Q:そうすると、第三者委員会の結論を見てみないと、再開(の判断)は難しいということか。
新 浪: その通り。やはり、(第三者委員会の結論を確認し、)その上で(の判断)ということだ。
Q:春闘においては、中小企業の賃上げが波及するかということが焦点であると(新浪代表幹事は)おっしゃっているかと思う。中小企業を取材していると、大手企業との間における価格転嫁は改善されて(浸透が進んで)いると言われているが、中小企業間の価格転嫁は、古い商慣習が残っており、なかなか克服ができていないという話が挙がる。それに対し、(その実態を)大企業にも知ってもらい、(改善を)呼びかけてほしいという声があるのだが、大企業はどのようなことができるのかについて、考えを伺いたい。
新 浪: 大企業と中小企業との間での価格転嫁は確かに進んでいる。(一方、)トラック業界をはじめとして、二次請け、三次請け、四次請け(の間での価格転嫁)は、まだ(浸透が進んでおらず)抜けているところである。(価格転嫁は)上流から転嫁されなければ、二次請けには反映されないことから、まずは大企業から(元請けへの価格転嫁が)徐々に進んできた。また、公正取引委員会も厳しく取り組んでいる。その上で、二次請けから三次請け、三次請けから四次請け(への価格転嫁が浸透する)となっていく。もう1つの要素として、(中小企業も)価格転嫁を上げる交渉を行わなければならなくなってきているということだ。例えば、トラック業界などにおける三次請けの会社は、(価格転嫁ができないと)経営が厳しくなり、人材もいなくなってしまう。これまでは「仕方ない」で済ませてきたが、価格転嫁をしてもらわなければできないという交渉が必要になっている。大企業と中小企業の間においても、このような会話がなされるようになった(から、価格転嫁が進んだ)わけである。つまり、デフレからインフレに転換したことはどの企業もどの担当も認識し始めていることから、中企業から中企業、中企業から小企業(への価格転嫁)もどのように交渉していくかということだ。人材が確保できなくなると事業ができなくなるため、人件費が上がることを認めざるを得ない。2025年、そして2026年は、明確にそのような流れとなると考えている。そのためには上流(大企業から中小企業への価格転嫁)から実施されなければならない。この点を徹底的にやることが今年の一番の課題であり、それが進んできているということはおっしゃる通りである。
Q:フジ・メディアHDの大株主のダルトン・インベストメンツから、日枝久取締役相談役の辞任を求める書簡が送られたと報じられているが、それについての受け止めと評価を伺いたい。また、ガバナンスの改善の中で、長年にわたり経営陣の一角を占めてきた日枝氏の処遇をはっきりさせることの必要性についても伺いたい。
新 浪: 先ほど申し上げたように、第三者(委員会)の方々がどのような結論を出されるか次第であると思う。私も社内に身を置いていたわけではないので全くわからない。どのような要因で(トラブルを)放置してしまったのかということが重要である。よって、ダルトン・インベストメンツも社内にいるわけではないため、どうしてそのような書簡が出たのか、よくわからない。(第三者委員会の結論を待ち、)そんなに(対応を)慌てなくてもよいのではないか。他方、我々はやはりCM出稿をしたいので、慌ててもらいたいという面もある。早く(調査結果を受けて)何を(再発防止や改善策として)するのかを明確にしてもらうことが重要だが、私たちはアクティビストではないため、第三者(委員会)の結論、そして次に何を講じるかということを待つことが重要だと思っている。
Q:トランプ米大統領の関税について、中国政府から対抗措置として米国に対しても関税をかけるという発表があった。日本にとっても中国に製造拠点を持つ企業も多いと思うが、実際に報道にある通り2月10日から報復関税がなされたときにどういった影響が日本企業にあるとお考えになるか。
新 浪: 日本と中国は互いに輸出入の関係にあり、その関係にひびが入ることはない。ただ、当然のことながら米国で製造業を営んでいるので全く中国から輸入していないということはない。よって、先ほど述べた(関税)10%という水準は、周囲の状況次第では耐えられるレベルである。最も困るのは、(米国から)中国(への関税が)10%なら、中国が(米国へ)20%の関税を課すなど、「やり返し(tit for tat)」の応酬を始めた場合である。このような事態になれば、世界中のサプライチェーンが混乱する可能性がある。米国国内での製造コストが大幅に上昇する(恐れがあり)、双方が10%、20%、30%、40%と(報復関税を)エスカレートさせることのないように(する必要がある)。実際、大恐慌の前にも同様の事態が発生しており、米国が(関税措置を)始めたことが、結果として大恐慌を招いたという経験がある。そして、その最終的な結果として、戦争へと発展した歴史もある。(こうした教訓を踏まえ、)ガット(GATT)の成立を経て、自由貿易のルールが確立された(経緯がある)。中国にも、自国(市場)の開放が不十分であったという責任があり、その結果として中国へ影響が向かう事態に至った。世界のスーパーパワーである米国と中国がどのようにお互い解決策を見出すか(が問われている)。中国はEV(産業)をはじめ、国が多額の支援金を出して輸出を促進しているが、一部はWTO(規則)違反の(可能性)がある。一方で、中国には14億〜15億の人口があり、作るコストが安い。その結果、(中国で)製造するコモディティ製品や差別化されていない商品が安い。しかし、国内のデフレ環境の影響で消費が伸び悩むなどの理由で、輸出に依存する傾向が強まっている。このような状況下でインフラを作らなくなり、鉄鋼業などがダンピング的に輸出を行う(ことも問題だ)。安い商品は消費者にとってはメリットがあるものの、中国製品の排除が進み関税が上がっていき、欧州も米国と争い始めるようなタリフ戦争へと発展する可能性がある。過去に世界はそういった経験をしており、賢明な意思決定をしてもらいたい。中国は米国に対して巨額の(貿易)黒字を抱えている。自由貿易の(原則が成り立つ)ためには、ある程度双方にベネフィットがあることが不可欠である。単に中国が安い製品を提供するだけでなく、中国側も(市場を)開放し、例えば米国産の牛肉を輸入するなどの対応を取る必要がある。こうした提案をしていかなければ、中国自身も大きな影響を受け、(最終的に)世界経済が大変まずい(こととなる)。中国の対抗措置に対し、米国がさらに上乗せの対抗措置を講じるという(悪循環を)防がなければならない。当初、私は中国がWTOに提訴することで対応を終えたらいいなと(考えており)、トランプ米国大統領は習国家主席と会いたいともおしゃっていたので、そういう(対話)で解決するのであれば、世界経済は救われると考えていた。しかし実際に報復関税を発動すれば、さらなる応酬に発展する可能性があり、大変心配をしている。一方で、メキシコとカナダとの問題は非常に賢明な形で解決に向かっている中で、(この流れを受けて、)中国と米国もぜひ対話を(重ねるべきである)。米国が中国からの投資を受けない以上、貿易の流れを確保するためには、もっと(中国が)米国製品を買うといった解決策を見出していってもらいたい。中国側には対応の準備があると理解しているし、例えば米国産農作物を買うなどの策を通じて、トランプ米大統領の顔を潰さない対応策を今後提示するのではないかと(考える)。あくまで両首脳がきちんと対話をする準備を行い、またその実現をすれば、世界経済の混乱は回避される。ある意味では悲観的に捉えず、そういった期待をしている。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)