新浪剛史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 新浪 剛史
冒頭、『「企業版ふるさと納税」活用促進に向けた提言』の手交、夏季セミナーの振り返り、新潟経済同友会「30周年記念行事」での挨拶について述べた後、記者の質問に答える形で、企業版ふるさと納税提言、米国大統領戦の行く末、トランプ前大統領の暗殺未遂事件などについて発言があった。
新 浪:冒頭、2点申し上げたい。(1点目に)企業版ふるさと納税の活用促進に向けて、インパクトスタートアップ協会、新公益連盟と、『「企業版ふるさと納税」活用促進に向けた提言』を取りまとめ、本日、松本剛明 総務大臣に手交した。また、先週、鈴木俊一 財務大臣にも手交済みである。今後、宮沢洋一 自由民主党税制調査会会長をはじめとした(関係の)皆さまに理解いただけるよう話をしていきたい。(本提言では、令和6年度までとされている)税額控除の特例措置について、少なくとも5年間以上の延長、制度自体の恒久措置についても言及している。さらに、本社所在地への企業版ふるさと納税を可能にすることや、税額控除が最大となる寄附金額の上限を現行の課税所得の約1%から約5%へ引き上げることを提言している。ぜひとも社会問題の解決に向けて、企業やソーシャルセクターと共に取り組みたい。その結果、使いやすくなった企業版ふるさと納税を(企業が)活用し、企業が社会になくてはならない存在になることで、企業価値の向上を実現していきたい。
2点目に、夏季セミナーの振り返りをしたい。(今回は)日本社会や(日本)経済が抱える問題を網羅的に議論することができたと思う。1つ反省としてお伝えしたいのは、対日投資の促進を議論したセッションで「官僚のアホさ、政治家のアホさ」と乱暴な言葉遣いをしたことである。大変申し訳なく思い、猛省している。FDI(海外直接投資)と対日投資が大変少ない中で、(政府が)対日投資の増加という目標を掲げていることから、真剣度があって然るべきではないかという問題意識により礼を失した発言になったと反省している。ぜひとも官民一丸となって対日投資を促進してもらいたい。
(また夏季セミナーにおいて)エネルギー(のセッション)について非公開とさせていただいた。非公開としたことにより、議論が活発にされたこともあったと思うが、そのような中で(エネルギーに関して)ぜひともお伝えしたいことが2つある。1つが、今後策定される第7次エネルギー基本計画については、第6次エネルギー基本計画の振り返りをきちんとしていただきたい(ということである)。とりわけ、(現状においては第6次エネルギー基本計画の)蓋然性が欠けてしまった。その中で、予見性も具体性も低くなった。第6次エネルギー基本計画は、当時の経済や省エネ(推進)を加味し(て策定されたものであり)、ある意味では仕方がなかったと思うが、(一方で)再生可能エネルギーを拡大していく計画であり、そして原子力をもっと活用し、結果的に2050年のカーボンニュートラル、2030年46%削減(2013年度比)を目指すものだった。企業もこれに基づいて計画をし、世界とコミットしているため、(第6次エネルギー基本計画の)蓋然性がなくなってしまうと(計画が)ずれてしまう。第7次(エネルギー基本計画)においてはこのようなことが無いように、蓋然性、予見性、そして具体的な方策(を期待する)。今後、年末に向けた議論の中でお願いしたい。非公開の(セッションの)中で、このような議論が出た。エネルギーの問題解決を無くして日本の将来は明るくない。低廉で持続的なエネルギーの供給によって、私達の経済社会は豊かになっていく(ということである)。少なくとも、現在の延長線上では大変厳しい。エネルギーは、やはり政府の役割が大変大きいものであり、これ(エネルギーの問題)をきちんと行わないと、日本が衰退の憂き目に遭ってしまう。このままではいけないということは、齋藤経済産業大臣がおっしゃる通りで、(政府にも)問題意識を持っていただいている。まだまだやれることがある。さまざまな権利を持っている方々と本当に交渉していくのか(ということも肝要)。例えば、水力(発電)においては(利水と治水の融合等)をやり始めるということになってきている。地熱(発電)も挑戦(交渉を進めることを)しないのか。風力(発電)においては、漁業権などもある。衰退してしまう国(の道)を選ぶのか、もう待ったなしのところに来ており、政府においてもそのような認識をしておられる。第7次(エネルギー計画)では、本当に有効となる手(計画)を打ってもらわないと(ならない)。(夏季セミナーのセッションは、)挑戦していく日本か、衰退していく日本か、ちょうどその狭間に来ているという議論であった。このことを皆様にもお伝えすべきだと思った。当然、挑戦する日本でなくてはならない。しかし、この姿(のまま)で進めば衰退する、こういう結論を得た。(決して)私達は衰退を望んで議論をしたわけではない。企業はグローバル化されている中、世界の批判を浴びるようなことではいけない。(ひいては)日本企業が活動しづらくなってしまうことも事実だ。低廉で競争力のあるエネルギーは、ニアリーイコール、継続的に生産性を向上でき、データセンターやAIの活用ができるということだ。これらが活用できないと、DXが進まず、生産性が上がらない。つまり、賃金が上がらない。エネルギーは、賃金を恒常的に上げるための要である。このような認識はされているものの、第6次(エネルギー基本計画)に基づいたアクションが行われてこなかった。このままでは衰退をしてしまう。危機感を持って議論し、不都合な真実はしっかりと国民へ共有して、こうありたい、こうあるべきだということ(あり姿)をしっかりと政策で述べていただき、実現していただきたい。もう1点が、(先週)新潟経済同友会(の30周年式典)に出席した際、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働について、お願いをした。原子力規制委員会も認可をしているわけだが、新潟県内では「安心」はしていないことが実態だ。しかし、これを進めるべく、新潟経済同友会に我々と協議をしていこうと(いう話も挙がった)。未だに不安もあり、能登半島地震を受けて(住民)避難の確保などの課題が起こっていることも承知している。これらを考え合わせながら、どのように課題解決していくのか、新潟経済同友会から出てきた話に、首都圏中心に(多くの)電気を新潟から供給していることを評価していただいていないのではないか、当たり前のように考えているのではないか、というご指摘が多く寄せられた。遡ること大正時代から(新潟県内の)水力発電が山手線に電気を供給してきた。まさに、首都圏の電気のふるさとである。(県内の)地元ではなく首都圏で使う(電気である)ことをしっかり理解した上で、今どのような議論がされているのか。供給を課される新潟県、その恩恵を受ける首都圏。新潟県に対してありがたいと思っているのか(という点は)、重要なポイントだと思う。水力発電も柏崎刈羽原子力発電所も、我々(首都圏)にとっての(重要な)ポイントであり、きちんと「ありがたい」と思う首都圏にしていかなくてはならないと思い、帰京した次第である。
Q:企業版ふるさと納税の提言について、いわゆるインパクト投資に対する評価はすごく難しいと感じるが、例えばどんな評価であれば受け入れられていく、企業などが分かりやすいと感じられるのか教えていただきたい。
新 浪:例えば子どもの勉強(就学)において大体2年生3年生ぐらいになると大きく分かれると(いう)。子どもの中では勉強する(環境が整わない方が)いる一方で、恵まれた方は塾まで通う。例えば「Learning for All」のように学生もしくは私達社会人が勉強を教えて差し上げる。これによっていわゆる貧困の連鎖がなくなっていく。そのようなことを社員がやってくれるとかまたそれを何かしらの形で金銭面を支援して、その会が続けられる(ようにする)。この結果として、貧の連鎖が少しでもなくなっていくことが相当大きいインパクトになる。これを定量化するのはどうしたらいいか悩んでいる。しかし、明らかにこの間も子ども食堂に行ってみて(感じた)が、地域の子どもたちが明るく遊ぶ姿を私達は作ることができる。その結果として未来に繋がることができる。それをどう評価するか。インパクトがあることは定性的に分かるが、定量的にどう評価するかということは企業の価値にも繋がっていくため、取り組んでいかなければならない。世界中がその定量化を一生懸命やろうとしており、やれるところもある。これはやりながら(分かったこと)だが、こういうことを定性的にやることで、少なくとも若い世代の社員は、これがパーパスなのだと、うちの会社はやっぱり社会に尽くすのに見合ったことをやっていると(感じる)ことでモチベーションが上がり、いい人材が集まる。これはすごく定性的だが、価値が上がることをどう理解してもらうかが必要だ。企業版ふるさと納税のお金はやはり非常に重要なため、それを企業として提供できる体制を作っていきたい。
Q:企業版ふるさと納税の提言の趣旨は非常によくわかるが、一方で経済的な見返りを求めたことが疑われる事案が最近問題になっており、どのように防いでいくのかという課題が生じている。これらをどのように是正していくかがこの提言を進めていくためにも必要なことだと思うが、この辺りについての所見を伺いたい。
新 浪:我々企業は、ソーシャルセクターと本当にソーシャルでポジティブなインパクトを作りたいと(思い)やっている。先ほどのお話の事例は一罰百戒だと思う。自治体と組んでやったことが自分のところにお金としても、ビジネスとしても戻っていたという事例は、我々自身もまさにソーシャルセクターの皆さんと組んでやっていくときに気をつけなければならないと思う。組む相手のソーシャルセクターの皆さんと、やはりそこはしっかり監視してやっていかなければならない。また企業に(見返りが)戻っている事案のため、企業もこういう(問題)意識を持ってやっていかなければならない。実はまだソーシャルセクターと企業の間の信頼関係はそう強くない。まだ始まったばっかりであり、このようなことがすぐ出てきてしまったのは、大変遺憾であり、我々経済同友会としてはこのようなことのないようにきちんと見ていかないといけない。今まで以上に気を配りながらやっていかなければならないと強く感じている。制度そのものはなかなかパーフェクトにはならないが、こういうことが起こったことの戒めをしっかりと我々の委員会活動に繋げていきたいと思う。
Q:米国の大統領選に関して、暗殺未遂事件の対応でトランプ前大統領が優勢な状況にある中で副大統領候補にバンス氏が指名された。バンス氏は貿易政策的には非常に保護主義的な人と言われているが、日本経済へ与える影響についてお考えを伺いたい。
新 浪:2つある。1点目はまさにトランプ前大統領が考えていることを、具体的に、本をはじめ発言してきた方を選んだという点である。まさにラストベルトの人々をいかに救うかというのがトランプ前大統領の大きなメッセージであるということを強く表現したのがバンス氏の指名(に表れていた)と言え、(今回バンス氏が副大統領候補に指名されたことは)驚くことではなく、やはりトランプ大統領候補が自分のメッセージを強く伝えるために今回(バンス氏の指名)を行ったものだと思う。2点目は、バンス氏でなくても、保護(主義)的な政策は既に米国内で(行われており、)バイデン米大統領も行っている(ということだ)。(例えば、)IRAやCHIPSはどれも米国内での生産強化(を目指していて、)これは既に米国そのものがある意味で自由貿易から離脱し、自国のために経済をまわしていくということであり、(今後)それを加速する可能性がある。それも驚きではなく、車を作るにも(パーツに至るまで)いろいろなものを米国で作るということになっており、そういった意味で米国では既に世界との分断、社会の分断が起こってきている。(その意味で)これから米国は大変難しくなる(と感じている)。今まで日本では「もしトラ」という言葉があったが、その(「もしトラ」の)シナリオから(今回のバンス氏副大統領指名は)大きく逸脱するものではないし、ライトハイザー氏がどういうポジションになるかは分からないが、60%を中国に課税するとか、(日本のような)ライク・マインデッドカントリー(に対して)も10%(の課税を)行うとか、いわゆる貿易赤字というものにフォーカスするスタンスは明確になったと(捉えている)。日本は既に米国で相当いろいろなものを生産しているが、中国との関係という意味で米国でのインフレが厳しくなる可能性もあるし、NATOをはじめ欧州との連携も(今後)大変厳しくなる可能性もある。バンス氏もむしろ(他国との連携を)反対をしている方のため、やはり米国の孤立化(が進み)、日本は経済面以上に自国を守るときに米国をどれだけ頼りにできるのかを本当に考えないといけない。そういうタイミングに来ていると(捉えている)。米国の安保は大変重要なものだと思うが、米国サイドがこれからますます揺らいでくる可能性がある。その意味で、今回の暗殺未遂(事件について)も、米国のデモクラシーというものが非常に難しいものになっていると感じており、世界の頂点にいた米国が、これからますます混乱の中に入っていく(と捉えている)。その中で、日米が今後ますますタイアップしていかなければならない(局面にある)が、(米国が)日本と一緒に何かをやるのがどこまで(可能なの)か少しぼやけてきた感じはしている。いずれにせよ、大変日本にとって憂慮すべきことだと思う。(これからは)トランプ前大統領が(次期大統領になる)前提で物事を考えていく必要がある。その意味で、バンス氏が(副大統領候補に)なることが驚きではないと思っている。
Q:トランプ前大統領の暗殺未遂事件について、新浪代表幹事の所感をお聞かせいただきたい。また、今回の事件を受けて、バイデン大統領・トランプ前大統領の二人ともが団結を訴えられていることから米国社会の分断が収まっていくのではないかとの期待もあると聞くが、今後の大統領選挙への影響をどう見ているか。
新 浪:大きくは民主主義への挑戦であり、こういう(暴力に訴える)ことは絶対にあってはならない。あってはならないことが起きてしまったのは、やはり(米国社会の)分断の象徴ではないか。反対する意見を持つ中で、こうした行ってはならないことを行ってしまう人がいるというのは、本当に米国の病んでいる社会を表している。そうした意味では、模範となるべきデモクラシーの国米国が大きく変質してきたのではないかと思う。(米国社会に)分断は元々存在しており、(共和党・民主党の間の差の)多くはやはり貧富の差であったが、民主党(支持者層)の中でも貧富の差が拡大してエリート層が台頭し、本来であれば共和党という逆の(富裕層に支持者が多い)立場を取っていた政党がまさにバンス副大統領候補をはじめとするラストベルトからの支援を受けており、今まで(の政党間対立の構図)と逆転している。しかし、全体的に言えるのは、(経済的に)恵まれない人々の不満と、自由貿易は世界にデモクラシーやリベラルな社会を創るために必要だという民主党との大きな対立が生じている。今回の(暗殺未遂事件)によって構図は変わらない。当然、共和党は団結を強くしたが、(米国社会の)根底にある分断、民主党と共和党の分断はますます大きくなっていくのではないかと感じている。
Q:夏季セミナーでは、政治改革のセッションの中で、シンクタンクを設立して、政党に対する評価などの様々な検討を行うという意見が示された。その後の進捗はどうか。
新 浪:先ほど開催した正副代表幹事会において、政策やその効果はどうなのかをタイムリーに検討していくため、私が中心となって、シンクタンクかそれに準じる組織を検討することとなった。経済同友会は、利権を守るという発想ではなく、何事についても(政治的に)ニュートラルに議論しようと発足した組織である。ニュートラルとは何かという難しい議論は別にして、特定の企業や産業を応援するために何か(ロビー活動など)を行うことはなく、自由で開かれた競争を前提に、必要な(政策的)サポートを考え、あるべき社会を実現したいというのが我々(経済同友会の)狙いである。先日の夏季セミナーでは、そうした観点から(与党の政策運営は)どうだったか、政策の成果やマニフェストをどう評価するかなどをきちんと検討できる体制を作っていきたいと感じた次第であり、(これから)体制づくりを検討してきたい。(政治的に)ニュートラルであるということをどう担保するかは非常に重要であり、我々だけではなく、アカデミアの方々にも参加してもらい、話を傾聴していくことが大切だと思っている。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)