代表幹事の発言
『経済財政運営と改革の基本方針2025』等の閣議決定について
公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史
代表幹事 新浪 剛史
本日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(以下「骨太方針2025」)等が閣議決定された。
米国の関税措置や地政学リスク等によって世界経済の不確実性が高まる中、自由で開かれた貿易・投資体制の維持・強化に向けて、わが国が主導権を持ち各国に働きかけることを期待する。それとともに、日本経済のレジリエンスを高めていくことが不可欠であり、その鍵はGDPの5割以上を占める個人消費を活性化していくことにある。円安が是正され、企業の減収予測も出てきている中で、この1年が、賃金上昇と消費増大という正のサイクルを持続的に回していけるかの正念場となる。
骨太方針2025に基づき、以下に掲げる、令和の時代にあった経済社会構造への転換が大胆に進められることを期待する。
- 「消費者物価指数以上に賃金が上がる」というノルムの定着が何より重要である。この点で、骨太方針2025の「賃上げこそが成長戦略の要」に基づき、1%程度の実質賃金上昇を定着させる方針が掲げられたことは評価する。また、今年の最低賃金についても、5年以内の全国平均1,500円の達成に向け、着実に引き上げられることを期待する。このため、雇用の7割を支える中小企業の生産性向上、価格転嫁のための対策を一層強化するとともに、とりわけエッセンシャルワーカーについては、職種別最低賃金制度の導入により大幅な最低賃金の引き上げを検討していただきたい。
- 恒常化する人手不足への対応と、世帯の可処分所得の増加に向けて、働く意欲のある方が活躍できる環境を早急に整える必要がある。いわゆる年収の壁の解消に向けては、支援強化パッケージの活用拡大とともに、第3号被保険者制度の廃止に向けた道筋が早期に示されることを期待する。また、働き方改革の見直しについては、多様な働き方の観点から、健康の確保を大前提として、自律した意欲ある人材を対象とした労働契約法に基づく個別契約など、新しい雇用契約を検討すべきである。加えて、外国人材の人口1割時代を見据えて、外国人材との共生社会の在り方を速やかに議論することを求める。
- 現下の地政学・地経学的な動向の根底にあるのは、AIに係る米中の覇権争いである。日本経済のレジリエンスを向上させるため、米国と連携して半導体を中心としたAIに係るサプライチェーンを確立した上で、低廉かつ安定的なエネルギー供給のもと、当該エネルギーの地産地消によって国内におけるAIのさらなる活用を進め、経済安全保障を確保する枠組みもしっかりと打ち立てていただきたい。
- 地方創生に向けては、「地方イノベーション創生構想」や関係人口の量的拡大・質的向上などが掲げられているものの、踏み込み不足は否めない。各地域が自律し、創意工夫により自治体経営を行い、健全な自治体間競争により活性化するために、国と地方の役割分担、適切かつ効果的な行政経営のための行政区分、地方財政の在り方を抜本的に見直す必要がある。
- 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」に掲げられた、公的保険外のヘルスケア産業を現在の約30兆円から2050年に約80兆円規模に拡大する政府目標の実現に向け、民間投資による予防・健康づくり政策を強化・促進すべきである。他方、現役世代の過度な負担が解消されなければ、いくら生産性向上や賃上げを行っても経済のダイナミズムは高まらない。社会保障における応能負担の徹底を図ることが不可欠であり、本年度末までに行う2024年度診療報酬改定の実態把握・検証などを踏まえ、OTC類似薬を含めた保険給付範囲の見直しや金融所得等を勘案した負担率の設定など、公的保険制度改革に速やかに着手していただきたい。加えて、NISAを含めた貯蓄から投資への流れを阻害しないよう配慮しつつ、税収をより高めるための金融所得に対する課税の在り方を検討していただきたい。
- 金利上昇に伴う民間の資金調達コストへの影響にも鑑み、国債の信認を守らなければならない。社会保障や防衛等に対する財政需要が高まる中、財源論を置き去りにした消費税減税が声高に主張されている現状を憂慮する。財政健全化については、今回掲げられた制度全体のインフレ調整(物価上昇に応じた公的制度の基準値・閾値の点検・見直し)は適切に進めつつ、プライマリーバランスの黒字化や債務残高対GDP比の引き下げを確実に進めるために、国・地方の財政資金の流れをデジタル化するなど、EBPMを活用したワイズスペンディングの徹底を求める。
以上