保育士の「量」と「質」確保に向けた課題と対策

2015年01月28日掲載

ゲスト:山口 洋(株式会社JPホールディングス代表取締役)
聞き手:八田達夫(経済同友会政策分析センター 所長)

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ポイント

  • 都市部での保育所新設の議論が先行しているが、深刻な保育士不足が、都市部で保育所が増やせない大きな要因となっている。
  • 保育士になるには、(1)年1回の国家試験を受験する方法、(2)保育士養成校で2年間勉強する方法の2つのルートがある。
  • 年1回の国家試験を年2回化すれば、合格者が増え、保育士不足を解消することに役立つと考えられる。国家試験の合格者は、優秀な方が多い。一方、養成校は入学も卒業も容易なところもあるため、卒業生の質のバラツキが大きい。したがって、試験を2回化して国家試験合格者を増やすことは、質を向上させるためにも有効と考えられる。受験料が上がるとの指摘があるが、保育士需要のある自治体が一定額を負担することなどによって、解決は可能と考えられる。
  • 保育士養成校で構成される全国保育士養成協議会が国家試験の問題を作成しているが、試験を難しくすれば、無試験で資格が取得できる養成校に入学する学生が集まることになるため、利益相反があると言えるのではないか。各自治体が問題を作成することは、公平性を担保するのに役立つ。
  • 厚生労働省が認可保育所の設置要件として保育士比率100%にこだわるあまり、保育事業者は質の低い人材でも採用しなければならず、それがかえって保育の質を低下させるという矛盾を生んでいる。保育士要件を緩和して、小学校教員免許取得者や児童心理学等の修士号取得者などの他資格取得者を採用すれば、保育の質の向上にも資するのではないか。
  • さらに、2年間も養成校に通わなくても、他資格取得者は一部試験科目を免除するなど、門戸を広げる取り組みも有効ではないか。また、「ジュニア保育士」、「シニア保育士」など資格に段階を設け、働きながらステップアップを目指せる制度を導入すれば、質の高い保育士には良い待遇をすることも可能になる。
  • 子ども・子育て関連3法によって、運営主体にかかわりなく保育所の減価償却費の一定割合相当分が給付されることになった。これによって、株式会社立の保育所も同等の条件で補助されることになり、参入がしやすくなることから、利用者の選択肢は広がっていくといえる。
  • アメリカではベビーシッターが主流であり、安全に預かることが主目的になっている。しかし、日本の場合、保育はアメリカに比較して「教育」との考え方が強いため、保育従事者は教育者であり、資格が必要であると考えられている。

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1. 深刻化する保育士不足問題

2014年11月28日、政府は、2017年時点で保育が必要な0~2歳児の数に対して、保育の定員数が約5万人不足するとの見通しを明らかにした。定員数が不足する原因にはさまざまな理由があるが、その中でも「保育士不足」は特に深刻な問題として認識されている。今回は、子育て支援を中心に幅広く事業を展開する株式会社JPホールディングスの山口 洋代表取締役をお招きし、保育士の「量」と「質」の確保に向けた課題と対策について話を伺った。

【八田】保育士不足が深刻な問題となっていますが、まずは、現状でどれだけ保育士不足を実感されているかについてお聞かせ下さい。

【山口】関東地区、特に東京23区、横浜市、川崎市では、全く足りていない状態です。どの自治体も待機児童の解消を政策目標に掲げており、認可保育所を増やそうとしています。しかし、もう応募する事業者がいなくなってきているのです。その最大の理由は保育士が採用できないことにあります。当社のような大手で、以前からこの地区で展開している事業者は、本当に人が採れないことが分かっているので、自治体から認可保育所の設置を頼まれてもできないのです。
例えば、首都圏のある自治体からは、局長、部長、課長、係長と4人揃ってご訪問いただいたこともあったのですが、人が採れないのでお断りせざるを得ませんでした。
それから、待機児童が日本で一番多い世田谷区でも、株式会社の参入が認められたので、保育所用の不動産物件をご紹介したいとのお話をいただくのですが、保育士が採れなければどこであろうと開業はできないのです。

【八田】保育士も一緒に連れてきてほしいところですね。

【山口】各自治体は、これが深刻な問題だとよく分かっておられます。事業者がいないというより、事業者がもう応募できない状態なのです。それでも、以前から東京に進出したいと考えていた地方の事業者の方々が、この地区の人手不足を分からずに手を挙げて、今、随分苦労されているのではないかと思います。
そのような事業者が殺到しているのも、また一つの問題です。当社について言えば、今年と来年は、この地区での開園は当初計画の半分にすることを決めました。既に開園が決まっていたところだけにして、それ以上はもう計画に載せません。これが都市部の状況です。
それから、地方都市もそれに近い状況になってきています。例えば名古屋や仙台、大阪などの地方都市部でも、地元の保育園はかなり困っています。当社は知名度もあるため、地方都市でもしっかりと人を選んで採用できる状態ですが、東京、横浜あたりではそれができない状態になっています。

【八田】基本的には保育サービスへの需要が増えているということですか。

【山口】そうです。政府も40万人分の保育所を整備する目標を立てています。それに地方自治体も呼応しており、どの自治体も一気に保育所の設置を始めています。ここが一番の問題です。

【八田】経済学的に言えば、需要が高いのに保育料が安すぎるのですね。そのような場合には保育料を高くすれば、選別が起きるはずだと思いますが。

【山口】人手不足は保育所だけではなく、サービス業を中心に産業界全体で深刻な問題になってきています。それを解消するためにも、女性の活躍推進に向けたインフラである保育所を先に充実させなければいけません。

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2. 保育士の量と質の向上

認可保育所の設置要件の緩和

【八田】保育士不足の解消には、どのような対策が必要だとお考えですか。

【山口】以前から、私が申し上げていることが2つあります。1つは、待機児童がいる間だけでも規制緩和をする。具体的には、都市部だけでも認可保育所の認可要件の1つである保育士比率100%という基準を、60~70%に下げることです。この認可要件にこだわるあまり、質の低い人であっても採用せざるを得ない状況になっています。われわれにとっては、資格がなくても質の高い人を採用した方が、安全性などのいろいろな面で良いわけです。資格要件を緩めた方が人材の質は絶対に上がります。

山口 洋 氏
株式会社JPホールディングス 代表取締役

保育士試験の2回化

【山口】もう一つの対策は、年に一度の保育士試験を2回実施することです。

【八田】合格者を増やすためですね。そもそも、試験合格者と養成校卒業生を比較した場合、山口さんはどう評価されますか。

【山口】難しい試験を通ってくるのですから、試験合格者は優秀です。その中には保育士養成コースを持っていない大学の新卒者も結構います。彼らは人物的にも良く、能力も高いです。もちろん、養成校卒業者も悪いわけではありません。優秀で一生懸命勉強してくる人も多いです。
 しかし、ほとんど無試験で入学できる養成校も多くて、2年経てば卒業して、そのまま全員が有資格者になるので、質にはばらつきがあります。資格がなければ働かせることはできないし、人数も確保しなければいけませんので、たとえ質が低い養成校の修了者であっても採らざるを得ない事業者が出てくるのです。
 当社では今、独自の試験を実施して、求める条件に合わない人は不合格にしています。質の低い保育士を採用するくらいなら、無資格でもレベルが高い人を採用します。国は今の保育のレベルを下げないために、有資格者10割を義務づけていると言いますが、実際に世の中では逆のことが起こりつつあることを、認識していただきたいと思います。

【八田】試験の2回化によって合格者数を増やすことは、数だけでなく実際に保育に従事する保育士の質を担保するためにも重要だということですね。

【山口】そのとおりです。厚生労働省は、試験を2回やると、確かに合格者数が最初は増えるけれども、4~5年経つと変わらなくなるとの試算を作成しました。しかし、必要なのは今です。今から3年くらいが保育士の一番必要な時期です。そういう意味では、厚生労働省が作った試算通りであれば、十分とは言えませんが、合格者数は確実に増えるし、そのことを彼らも分かっているのです。したがって、この対策は有効なのです。

試験2回化のコスト問題は解決可能

【山口】試験2回化のデメリットとして、1回あたりの受験者が減ると、試験の受験料が上がると厚生労働省は言いますが、それほど影響が大きいとは思えません。例えば、東京で2回目の試験を実施すれば、全国から受験者が集まります。人が集まれば当然一人あたりのコストは下がるわけですから、それほど受験料が上がるとは思えません。

【八田】仮に、冬に追加試験をするコストが高いとすれば、冬だけは受験料を高くすればいいと思います。

【山口】高くなった差額は自治体が負担すればいいのです。

【八田】自治体が負担するのも1つの手法ですが、受験者にとって、この資格が取れるかどうかはとても大事なことです。受験料がたとえ1~2万円高くなっても、たいしたことはないと思います。

【山口】しかし、経済的に難しい人もいます。

【八田】そのような人は1年待てばいいので、今の状況と同じです。他の人にとっては、受けられないよりはいいのではないでしょうか。

【山口】そうですね。ただ、彼らは論法として、受験料を高くすると受験者が減ると言っているのです。

【八田】一番収益が上がりそうな最適な料金に設定すればいいのではないでしょうか。これは試行錯誤でやるより仕方がないですが、2回目をやらない理由にはならない気がします。場合によっては、受験のために奨学金や、ローンを利用することも考えられます。

試験2回化の真の障害は何か

【八田】試験2回化における障害は他に何かありますか。

【山口】試験会場を見つけるのが大変です。

【八田】確かに、2回目の試験を実施する地域(注1)に全国から受験者が集まると、場所の確保に困ることになりますね。厚生労働省によれば、夏は、試験場になる大学の教室は空いているけれども、冬は入試などでそれなりに使うとのことです。しかし、他の都道府県から来ることを禁じることによって、試験場のコストは下がると思います。

【山口】試験会場不足の問題は、厚生労働省が指摘しているだけで、自治体はそのようなことは気にしていません。試験問題を作成することが一番のハードルだと言っています。問題は、試験問題を作成する機関が今のところ全国保育士養成協議会しかないことです。

【八田】保育事業をしている企業が協力して、問題を作成するというわけにはいかないのでしょうか。

【山口】われわれ事業者が作成するというのは、公平性の担保の面から難しいかもしれないですね。

【八田】しかし、保育士養成校が会員である協議会が作成することこそ、公平性の観点から問題があるでしょう。試験を難しくすれば、養成校に通う学生が増えるという意味で、完全な利益相反です。それを止めさせなければおかしいですよね。

【山口】おっしゃるとおりです。一番良いのは、自治体が独自に作成することです。各自治体が試験委員会を設置して、専門家を集めて問題を作成するのが、最も公平性を担保しやすいのではないかと思います。

【八田】以前は、各自治体で試験問題を作成していたので、協議会がやらないのであれば自治体が行えばいいのではないでしょうか。試験委員会に参加する先生がいないということはないでしょう。

【山口】そうです。しかし、自治体は今実施されている全国試験と同程度のものを作成できる専門家を集めるのが大変だということで、作成を止めています。技術的にはおそらく可能であり、本気で専門家を集めようとしていないだけです。

【八田】それならば、どこかの自治体が先駆ければ解決するということですね。

【山口】はい、これは行政の決断で解決できる話だと思います。

八田 達夫
経済同友会政策分析センター所長

注1 2014年10月10日、政府は国家戦略特別区域諮問会議(議長:安倍晋三)の中で、「地域限定保育士」(仮称)の創設を決定した。これは保育士不足解消等に向けて、都道府県が保育士試験を年間2回行うことを促すため、2回目の試験の合格者には、3年程度当該都道府県内のみで保育士として通用する「地域限定保育士」(仮称)の資格を与える制度である。この措置が盛り込まれた改正国家戦略特区法案は閣議決定後、第187回臨時国会に提出されたが、11月21日の衆院解散を受けて廃案となった。

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3. 試験問題の適正化

試験問題が適切でない

【八田】試験問題の内容について、そこで要求されている知識は、保育士にとってすべて必要なものなのでしょうか。

【山口】その意味では、いくつかの科目はやりすぎです。試験が難しすぎます。例えば、栄養学ではタンパク質のエネルギー量を問われますが、普通の人にはほとんど分からないでしょう。現場で調理をしているのは栄養士ですから、保育士にとってはあまり重要でない数字です。

【八田】試験内容で問うべき内容や養成校で教えるカリキュラムは、誰がコントロールしているのですか。

【山口】厚生労働省です。そのための専門委員会を設置して、内容を毎年見直しているようですが、国家試験にこのような内容まで出すのは問題だと思います。

【八田】保育士にとって何が最低限の知識として必要か、という議論がほとんどなされていないことの証拠ですね。

【山口】このような問題を出すのは、先ほどの協議会が受験者を落とすためです。

【八田】彼らが受験者を落としたい理由は、養成校の学生を集めたいということだとよく分かりますが、実際に問題を作成する大学の先生にとってのインセンティブは何でしょうか。

【山口】やはり、大学の先生も自分の大学の保育士養成コースに学生が来てほしいと思っています。学生が減ったら困るからです。この試験問題を作成しているのは保育士養成コースの先生たちなのです。

【八田】こうした問題をもっと批判すべきではないですか。保育業界の団体として、批判したらどうでしょうか。

【山口】相手にされないでしょうね。

【八田】それでは、メディアに保育士不足の実態を訴えて、問題提起してみるのが有効ではないでしょうか。

【山口】ただ、試験内容の難易度について批判することは、保育士の質を下げることだとされてしまいます。

【八田】無意味な問題で試験の難易度を上げても仕方がない。試験回数を増やし、もっと多様な経験を積んだ人材を惹きつけ、育成した方がよほどいいと思います。

【山口】本当はそうです。しかし、試験改革以前に、優秀な人材を確保するため、やらなければならないことがたくさんあると思います。

他資格取得者にも無試験の道を

【八田】もし、養成校卒業生は頼りなく、保育士試験は過剰なことをやっているから質の高い人材が不足しているのであれば、例えば四年制大学を卒業して小学校教員免許を取得した人や、児童心理学専攻で修士号を取得した人などをそのまま採用すればそれで十分で、むしろより良くなるような気がします。

【山口】ただ、学力が高いからといって何でもできるわけではありません。やはり子どもに対する愛情も必要です。

【八田】それはそうですが、門戸を広くして、愛情を持っているかどうか実際の現場で試せるようにした方がいいと思います。

【山口】その仕組みはいいですね。そのようにして合わない人はふるいにかけていく。そちらの方が重要です。

【八田】そうすれば、優秀でやる気のある人をどんどん採れますから、職場が活性化します。

【山口】でも、質の低い人は絶対に辞めないという問題が残ります。他に行くところがないからです。

【八田】それが意味するところは、入学試験や卒業試験を導入するなどして今の養成校卒業生の水準を上げる必要もあるということですよね。質と量のバランスの問題です。

【山口】本来はそうすべきです。ただし、今それをやると保育士の全体数が減って大変なことになります。

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4. 保育士が持つべき力とは

【八田】ところで、2年も養成校で学ぶ必要があるでしょうか。試験科目も大幅に減らしていい気がします。それから、いくつかのレベルを設けた方がいいと思います。最初は、半年ほど必要な科目を受講してもらう。その後、現場に出て、向いているかどうかを判別する。向いている人にはまた養成校に行ってもらうというような制度にするのはいかがでしょう。

【山口】私は以前から、保育士の上に「シニア保育士」をつくるべきと考えています。多くの保育士は試験を受けずに資格を得ているわけですから、試験を通ったレベルの高い人には、その上の待遇をする。業界もそれを望んでいます。

【八田】「ジュニア保育士」も「シニア保育士」もつくれば、ジュニア保育士は一定期間働いた後で、上の資格を目指せますね。また、シニア保育士の対象としては、栄養学を含めたあらゆる科目を学んだ人ではなくても、科目は限定されていますが、専門的な能力が高い人も対象に含めてはどうでしょう。

【山口】ええ、ただし保育力がしっかり付いていることが前提です。

【八田】養成校で学ぶべき最低限の科目は何でしょうか。貴社のような企業で働く上で、これだけは養成校で学んでくると役に立つというものです。

【山口】衛生・保健関係です。栄養学もある程度は必要な部分があります。例えば、アレルゲンの摂取などは学ぶ必要があります。それから、当然ですが発達心理学です。心理学は必須と言えますね。

【八田】それだけの科目を学ぶためには、養成校なら何カ月ぐらいかかりますか。

【山口】1年くらいはかかるでしょうね。

【八田】発達心理学を専攻して修士号を取った専門家が入ってくる場合には、どうしたらいいのでしょう。

【山口】専門家の場合は、当然免除すればいいわけです。

【八田】自分の専門科目は免除するけれども、衛生・保健関係や栄養学についてはどうしますか。

【山口】必要な科目だけ取得すればいいと思います。例えば、まもなく新設される「保育教諭(注2)」ですが、この制度では、幼稚園の教諭免許しか持っていない人は、2~3科目を修得するか、研修するかで保育士資格を取得できます。それと同じで、履修していない科目を別途取ればいいようにすればいいのです。

【八田】なるほど。意外と良い道かもしれませんね。

注2 2015年4月から施行される「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」(平成24年法律第66号)によって、新たに創設される「幼保連携型認定こども園」は、学校教育と保育を一体的に提供する施設であるため、中心職員である「保育教諭」は「幼稚園教諭免許状」と「保育士資格」の両方の免許と資格を有していることを原則としている。また、新制度への円滑な移行のため、施行後5年間、いずれかの資格を有していれば、所定の方法により「保育教諭」となることができる特例措置等が設けられている。

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5. 子ども・子育て関連3法

【八田】現在の補助金制度一般の在り方について、どのような改善策があるとお考えでしょうか。特に、株式会社等の施設に対して施設補助がないのは、これまで大きな問題でした。

【山口】子ども・子育て関連3法で、2015年4月から認定こども園、保育園、幼稚園を通じた共通の給付制度が創設されます。その中で、運営主体にかかわりなく、減価償却費の一定割合相当分が給付費に組み込まれることになり、株式会社立の保育園も補助されることになりました。

【八田】それは大きく改善されましたね。これで、認可保育所における社会福祉法人立と株式会社立とのイコール・フッティングの問題は、基本的に解決したのですね。

【山口】そうですね。

【八田】それでは、認可保育所以外の施設に対する補助に関しては、どうあるべきだとお考えでしょうか。例えば、夜間に働く女性が乳児を預けようと思うと、認可外保育所に頼らざるを得ず、かかる負担は大変なものになります。施設に対する補助というよりは、利用者に補助し、サービスの選択は利用者に委ねるような補助のあり方が必要ではないかと思いますが。

【山口】今回の子ども・子育て関連3法は、利用者の選択肢を広げるため、小規模保育施設も「小規模認可保育所」として国の認可事業に位置付けられ、財政支援を受けられるようになりました。政治的な決断もあって、今回の法律では2つの改革がなされました。1つは株式会社を自治体レベルで差別できないようにすること、もう1つが、一番弱い立場の人たちが利用している夜間保育などの小規模施設には公費が1円も入っていないので、ここにも同様に公費を入れることです。

【八田】画期的な改革ですね。

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6. 保育に対する認識

【八田】山口さんはもともと証券業界にいらっしゃったと聞きました。この業界に入られたきっかけはどのようなことだったのですか。

【山口】最初は企業の福利厚生サービスを請け負う会社として創業したのですが、そこで自社社員向けの託児所を開設したことがきっかけです。保育事業は1999年にスタートしました。2000年から2001年にかけてこの業界の矛盾が分かってきて、絶対にこの業界を変えたいと思い始めたのです。ちょうどその頃に規制緩和があって、株式会社も認可保育所として参入できることになりました。

【八田】この事業を始めるときに、参考となった外国のモデルなどはあったのでしょうか。

【山口】役に立ちませんでしたね。

【八田】では、自力でいろいろ開発されたのですね。

【山口】はい、外国を見て回ると、イタリアや北欧の方には結構レベルが高いところもあるのですが、アメリカあたりと比べると、日本の保育所の方がずっとレベルが高いので、あまり参考にはなりませんでした。

【八田】私の子どもはニューヨークの保育所とボルティモアの幼稚園で育ちましたが、アメリカは日本に比べて安い費用で運営されていました。

【山口】日本は規制が厳しいですからね。日本には有資格者の比率等の規制が数多くありますが、向こうにはありません。

【八田】アメリカの保育所にはそれなりにいろいろ問題もありましたが、保護者から成る委員会が保育所の運営を監視する仕組みでした。親は忙しいのですが、そのために時間を使います。

【山口】それは、企業内保育所ですか。

【八田】いいえ。協同組合です。2人の女性が保育士として働いていて、子どもは15~16人いました。施設に庭はなくて、みんなで手をつないで公園に行くのですが、知らないうちに手を離してどこかに行ってしまったといった問題もありました。でも、保育料はそんなに高いものではなかったと思います。

【山口】アメリカでも、質の良いところはすごく料金が高いですよね。

【八田】そうです。そのようなところは順番待ちで入れませんでした。

【山口】日本では、保育は教育という考え方なので、そこがアメリカと違います。アメリカではベビーシッターが主流であり、安全に預かることが主目的になっています。しかし、日本の場合、教育は0歳から行うもので、保育は教育との考え方ですから、教育者、つまり保育従事者にも資格が必要との認識があるのです。

【八田】なるほど。大変勉強になりました。本日はお忙しいところありがとうございました。

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