HOME [プリントする]
上の項目をクリックして
ブラウザのプリント機能を
お使い下さい
提言一覧


少子・高齢化社会への提言

――「踏み出そう、少子化対策の第一歩」――

1998年5月29日






――― 目 次 ―――

はじめに:少子化に対する問題意識

 T.少子化の現状認識

  1. 出生率の低下と晩婚化の進展

  2. 少子化をもたらした社会的背景

   (1) 家庭における独立・巣立ちの教育の不足
   (2) 機会費用の増大
   (3) 困難な仕事と子育ての両立
   (4) 専業主婦の子育て負担

  3. 今後の少子・高齢化の進展とその影響

 U.子育てしやすい社会の実現に向けて

  1. 目指すべき理想の社会像

  2. 少子化対策についての考え方

 V.具体的な少子化対策

  1. 施策の優先順位の検討

  2. 実現に向けての方策

   (1) 仕事と子育てが両立しうる雇用環境の実現

     @雇用システムの弾力化を進める
     A個人の能力活用と生産性向上への意識改革
     Bトップが率先して企業風土の改革を推し進める
     C国が企業に支援すべきこと

   (2) 民活推進による多様な子育て支援システムの整備

     @画一的な現行保育システムと改善の方向性
     A子育て支援システムを拡充するための国の役割
     B多様な子育て支援サービスの検討

   (3) 家族観再考とネットワークの活用

     @「男女が共に生きる」ことの尊重
     A家族と様々なネットワークによる理想的な子育て環境

おわりに





はじめに:少子化に対する問題意識

 近年、わが国においても、少子化と高齢化が同時に、かつ急速に進行しつつある。「出生率の低下」と「平均寿命の伸長」が原因となり、「高齢者比率の上昇」が加速するなかで、遠からず「人口の減少」という事態に確実に直面する。少子・高齢化は、先進諸国でも軒並み進展しているが、日本ではその進展スピードが際立っている(資料編参考図表1〜2、以下同じ)。急速な人口減少や高齢化は、社会全体に大きな影響を与えることから、極端な出生率の低下に歯止めをかけ、将来予想される急激な変化を和らげるための方策が必要となる。

 子を産み・育てるという本来、人間にとって自然な営みにこれほど軋みが生じている背景には、大きな社会的要因がある。即ち、戦後、日本は勤勉な国民の努力によりめざましい成長と発展を遂げたが、経済成長を最優先にした画一的な社会システム・規範のなかで、人々の意識やライフスタイルに大きな変化が生じてきたことが、近年の少子化に拍車をかけている。

 こうした極端な少子化傾向を現在の社会システムへの警鐘として受け止め、少子化問題解決の糸口を探るなかで、社会改革の必要性をあらためて確認するとともに、改革実現の方向性を見出したい。


本提言の位置づけ

 本来、少子化と高齢化は密接な関係にあり切り離せない。いずれの問題も、現在の社会システムが時代の変化・構造変化にうまく適応しないことに起因するとともに、根本的な個人の生き方や家族のあり方を問うている。

 こうした認識に立脚しながらも、複雑かつ深層にある問題を浮き彫りにして、取るべき施策を明確化するために、本提言では特に少子化固有の問題を中心に取り上げ、子供を産みやすい、育てやすい社会を作るための方策を提言する。最終提言では、高齢化と家族の問題を中心に、男女が共に生きていく社会・さまざまなライフスタイル・価値観を受け入れられる包容力ある社会について、ビジョンを描きたい。

提言発信のスタンス

 結婚や出産は個人の問題であるため、まず個人が各々の生き方を見つめ直し、家族のあり方を再考することを呼びかけたい。その上で、個人が希望する生き方をもっと実現しやすくするために、社会システムを構築・維持していくべき国と、経済主体である企業とが、それぞれ今、何をなすべきかを提言する。特に、企業経営者が自らイニシアティブを発揮し実施していくべきことを第一に考える。 こうした視点から提言を行い、21世紀を迎えるにあたり次代を担う者へのメッセージともしたい。



T.少子化の現状認識

1. 出生率の低下と晩婚化の進展

 出生率・出生数の低下により、日本の人口総数及び構成が大きく変わりつつある。合計特殊出生率(女性1人が一生の間に産む平均子供数、以下「出生率」)は、戦後、急速に低下した後、1970年代前半までは2.0前後で安定していたが、その後、再び低下を始め、96年の1.43まで落ち込むに至った(図表3)。

 戦後の急速な出生率低下は、結婚した女性の産む子供数が減少したことが主因であり、一家の子供数が平均4〜5人から2〜3人に減少した(図表4)。これに加えて、近年は20歳代後半〜30歳代における未婚率が上昇し、この晩婚化の進展が少子化を更に進めている(図表5)。今後、晩婚化が非婚化に繋がったり、結婚年齢の上昇により結婚した後に産む子供の数が減る可能性もある。


2.少子化をもたらした社会的背景

 国民の生活水準の向上に伴い、人々の意識やライフスタイルが大きく変わり、結婚・出産の目的や必然性が変化してきた。経済的には女性の自立が進み、必ずしも結婚を人生の目標とは考えない若者が増えるとともに、個々の価値観に基づいて生きていこうとする人々が少なくない。こうした傾向を反映して、独身でいることに対する社会的なプレッシャーが低下し、結婚しないことが周囲にも受け入れられやすくなった。その一方で、社会の実情とマッチしなくなった現在のシステムの下では、結婚や出産に対するコストや負担がこれまで以上に大きく感じられるようになり、これを先延ばしにする人が増えてきている(次頁図参照)。
 少子化問題を検討する際には、こうした背景を認識した上で、特に以下の点を掘り下げる必要がある。

(1)家庭における独立・巣立ちの教育の不足

 高度成長期においては、サラリーマン家庭では夫が仕事に集中し、妻は家事に専念するという分業が一般化した。この間、経済成長と年功序列制度の恩恵を受けて家計収入が安定的に増加したため、家族は生活水準の向上という価値観を共有できた。
 一方、家庭内での子育てにおいて、人間としての独立・巣立ちの教育が十分ではなく、子供は就職した後も裕福な親の元で同居を続けるケースが多い。その場合、子供は家事負担もほとんどなく、収入の大半を自分のために使えるため、優雅な独身生活を謳歌できることから、特に女性にとって明らかに負担の増える結婚や出産には踏み切りにくくなっている。


(2)機会費用の増大

 女性の高学歴化と社会進出の増大により、若い女性を中心に所得水準が上がってきていることから、女性が仕事を辞めることにより失うコスト(機会費用)が増大している(図表6)。
その結果、女性が結婚や出産・子育てのために仕事を辞めようと考えた時に、従前の生活水準を維持できるような条件を満たす相手を探すのが困難になっている。

(3)困難な仕事と子育ての両立

 一方、子育て中でも働きたいと考える女性は多いが(図表7)、仕事と子育てを両立させようとしても、保育サービスが不足している現状では負担が大きくなり過ぎる。さらに、現在の雇用環境からすればその何れかを諦めざるを得ないことが多い。
 また、一度仕事を辞めると退職前のキャリアや経験もほとんど考慮されないため、妥当な再就職の機会は少ない。

(4)専業主婦の子育て負担

 核家族化の進展や子育ての負担感増大により、専業主婦の育児不安・ストレス等の問題が顕在化しつつある。このため、子育てをサポートするシステムの必要性が一層高まっている。


3.今後の少子・高齢化の進展とその影響

 こうした現状を放置した場合、日本の社会が将来どのような姿になるのかを検証し、それを見定めた上で、明確な少子化対策を着実に施すことが極めて重要である。
 人口減少については肯定的に捉える意見もあるが、急速な少子・高齢化の進展は、総じてみると以下のように社会全体にマイナスの影響を及ぼすことになると考えられる。


急激な人口減少と高齢者比率の上昇

 出生率・出生数の低下を受け、2000年初頭以降、人口が減少に転じることはほぼ確実であり、避けることはできない。特に問題となるのは人口減少のスピードであるが、最も楽観的な見通しである高位推計(出生率が2030年にかけて1.85まで回復する前提)においても、現在の1億2,600万人から2100年には9千万人まで減少する(注)。さらに、死亡率と出生率が95年から変化しないと仮定した場合、人口は2100年に約4,700万人まで急減する。いずれにしても、出生率が人口置換水準である2.1程度まで回復しない限り、人口は減り続ける(図表8)。
 一方、年齢構成については、平均寿命が延び続けていることから、高齢化が急速に進展し、2050年頃には3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる(図表9)。

注:人口見通しは国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成9年1月推計)」による。


労働力の減少による経済成長率の低下

 人口が減少すると同時に高齢化する結果、基本的な就業構造(失業率や労働力率)が変わらなければ、労働力の減少を通じて経済成長率が低下する懸念がある。2000年から2025年にかけて、労働投入量は年率約0.5%で減少していくとみられ(注)、経済成長の制約要因となる。

注:人口中位推計をもとに、失業率3.5%、年齢別労働力率は96年の数字、労働時間は95年の数字でそれぞれ固定して計算(図表11)。


社会保障負担の増大

 現行の社会保障制度は世代間扶養の仕組みであるため、高齢者比率の上昇により、現役世代の社会保障負担が増大する(図表12、厚生省見通し参照)。

家族の相互扶助機能の一層の低下等

 家族形態・役割が変化し、子育てや介護機能が低下する。また、兄弟や近隣の子供が減り、社会性を培う機会が減少する可能性もある。

人材の海外への流出

 極端な少子化傾向が続いた結果、社会・経済の活力が落ちて、将来に対する明るい展望を持てないような魅力のない国となれば、有能な人材が海外へ流出してしまう恐れもある。


U.子育てしやすい社会の実現に向けて


1.目指すべき理想の社会像

 社会の優先目標を、これまでの経済規模の拡大一辺倒から、個人が真の豊かさを実感できるようなシステム作りに重点を移すことが大切である。それにより、日本の将来を担うべき子供を産み・育てやすい魅力ある社会を実現することができる。 その際、以下の点が肝要である。

@多様性の尊重
 ・ 個人の自由な生き方が尊重される。
 ・ 多くの選択肢があり、自己の責任において、その中から自由に選択ができる。
A機会均等
 ・ 「結果の平等」よりも「機会均等」を重視する。個人が性別・年齢・国籍に関らず等しく機会を得ることができ、成果が正当に報われる。
B自立支援
 ・ 真の弱者は保護され敗者も復活できる仕組みがある。途中下車ややり直しができる。
C男女共同参画型社会
 ・ 職場、家庭、地域において、男女が連携し、共同して参画する社会。


2.少子化対策についての考え方

 経済が豊かになり個人の選択肢が拡大するにつれて、少子化が進むことは避けられないが、極端な少子化傾向に歯止めをかけることは可能である(注)。

注:例えば、スウェーデンでは児童手当の拡充等により出生率が回復した経験がある。また、女性の労働力率が高い国ほど出生率が高い傾向にあり、仕事と子育ての両立支援策は少子化対策として有効とみられる(図表13)。

 一生結婚したくない人や子供を欲しくない人は、それほど多くない。だが、独身の魅力が高まった現在の日本では、特に女性の場合、結婚・出産により失うものが多いため、希望しても諦めざるを得ない面が少なくない。日本の「極端な少子化」は、結婚・出産をためらわせている現行の社会システムに対する警鐘でもある。

 現状を放置すると、前述のように全般にマイナスの影響が予想され、また先般当委員会で行ったアンケート調査でも、経営者の約75%が「出生率低下は深刻な問題であり早急な対策が必要」と回答している。従って、
@ 極端な出生率の低下に歯止めをかけ、今後予想される急激な少子化の程度を和らげること
A 少子・高齢化社会の到来を前提として、それに相応しい社会システムを作ること
――の両面からの対策が必要である。(このうち、本提言では@を中心に検討し、Aについては最終提言の課題とする。)



V.具体的な少子化対策

1.施策の優先順位の検討

具体的な少子化対策のメニューとして、以下のものが挙げられる(下表参照)。

 社会システムを改革するためには、これらの対策について、費用対効果、重要性や緊急度等を勘案し、優先順位をつけて実行していくことが肝要である。また、国や企業が役割を分担して実行するとともに、社会風土を変えていくことも必要となる。
 負担増を抑える工夫をしながら、できることから着実に実施していくという視点で、ここでは、(1)仕事と子育てが両立しうる雇用環境の実現、(2)民活推進による多様な子育て支援システムの整備、(3)家族観再考とネットワークの活用、――の3点に絞って具体策として取り上げる。


2.実現に向けての方策

(1)仕事と子育てが両立しうる雇用環境の実現

 少子化の要因として、仕事と子育ての両立が難しいことを挙げる女性が多いが(アンケート調査参照)、こうした状況を改善するために企業の果たすべき役割は大きい。働く男女が、仕事と子育ての両立を図るためには、以下のような施策や工夫、及び意識や企業風土の改革が必要である。

@ 雇用システムの弾力化を進める

a) フレックスタイム制度の拡大、在宅勤務制度や長期休暇制度の導入等
 働く者が勤務時間を主体的に管理できれば、子育てしやすくなるだけでなく、モチベーションも高まる。

b) 中途採用の拡大、契約社員・短時間雇用者の積極的活用
 多様な就業形態で人材の能力活用を図る際に、企業はコスト削減の観点のみでなく、能力・経験を正当に評価し、処遇についても同一価値労働同一賃金の原則で対応していくべきである。

c) 転勤への配慮、その他
 家庭生活に大きな影響を与える転勤については、個人の適性はもちろん、個別事情への配慮も欠かせない。
 その他、福利厚生制度におけるカフェテリアプランの導入も有効と思われるため、今後の検討課題である。また退職金や諸手当てのあり方も見直していく必要がある。
A 個人の能力活用と生産性向上への意識改革
a) プロを育成する
 グローバルな競争が激化するなか、優秀な人材の育成・確保が喫緊の課題である。性別に関係なく個人の能力に注目してプロを育てることは、企業にとって有益な施策であると同時に、社会・経済全体の利益と活性化を促進するという意味において、企業経営者の責任でもある。女性の能力活用・育成を積極的に進めて、これまで半分は放棄し続けてきた優秀な人材確保のチャンスを着実に広げていくべきである。プロ意識と能力を持つ女性が増えれば、子育てを理由に退職した場合、企業の損失になることから、子育て支援策の必要性も自ずと高まる。
 また、企業が準備する子育て支援策が有効に機能していくためには、働く側も自己の職業能力向上に向けて切磋琢磨していく必要がある。

b) 無駄な勤務時間を減らす
会社に長時間いることが仕事熱心だと評価される風潮を変えるべきである。業務の効率化を進め、公私の時間のけじめをつけることにより、無駄な勤務時間を減らせば、家族と過ごす時間を増やすことができる。


B トップが率先して企業風土の改革を推し進める

 育児休業については、すでに制度化されているものの、それが実態として定着し、企業風土が変わるまでには相応の時間がかかる。従って、何よりもまず、意識改革により「男性も子育ての時間を持てる」という風土を醸成することが重要であり(注)、そのためには次の2点がポイントとなる。
○トップが率先して行動する
○突破口として、できることから、可能な企業・部門・職種から、まず着手する
注:例えば、育児休業期間中に「パパの週」を設定する等のキャンペーンも有効と考える。最低1週間でも休暇を取り、実際に子育てに専念することにより、男性の意識も変わるのではないか。

 なお、女性活用や子育て支援を進めるにあたっては、先行している企業の例が参考になる(資料:先行企業ヒアリング参照)。

C 国が企業に支援すべきこと

 子育て支援のための雇用環境の整備を企業の負担のみに頼るのではなく、国としても法制の整備や各種支援策の充実等により、特に中小企業に対してバックアップしていくべきである(注)。

注:例えば、育児休業期間中の事業主の社会保険料の免除等。

(2)民活推進による多様な子育て支援システムの整備

 少子化対策を考える際に、児童手当拡充等の経済的支援策の効果も大きいが、単なる給付の拡大よりも、トータルな子育て支援システムの整備が急がれる。その際、現在一部の共働き家庭だけを対象にしている保育制度を発展させ、専業主婦家庭も含めた全ての子育て家庭が、それぞれのニーズに応じて容易に利用できることを指向すべきである。これにより、充実した子育てをしながら豊かな個人生活を実現することが可能になれば、子供を育てることの負担感が軽減される。

@ 画一的な現行保育システムと改善の方向性

 現行の保育制度では、運営主体の効率化・創意工夫のインセンティブに欠けるため、コストが高くサービスが画一的等の問題がある(注)。また、乳児保育・延長保育・一時保育等を中心に保育サービスの供給が不足し、地域的にも需給のミスマッチが存在する(図表17)。

注:児童福祉法改正により、98年4月から制度が一部変わる。ポイントは、@保育所と保護者の直接契約に変わり、保護者が保育所を選べるようになる、A保育料は保護者の年収に応じて10段階から7段階へ、将来的には均一料金になる。

 子育て支援サービスの対象を全ての子育て家庭に拡大しようとすれば、量と質の拡充が必要である。ニーズに適合した多くのメニューを用意し、それを効率的に運営する視点からは、市場原理の導入が不可欠であり、積極的に民活を推進すべきである(注)。それによって利用者がサービスの価格と内容を勘案しながら自由に選べるようになれば、サービスの効率化や質の向上が一層期待できる。

注:子育て支援サービスへの民活導入により、民需拡大・雇用創出にも大きな効果が見込める。

A 子育て支援システムを拡充するための国の役割

a) 民活推進によるサービス拡充に向けた競争環境の整備
 子育て支援サービスに民活を導入するためには、競争環境の整備が必要である。
まず、保育所運営について民間企業への業務委託を解禁し、公立保育所の民営化(公設民営)を推進する。次に、公立・認可保育所のみに多額の補助を与える運営費負担金制度を見直し、多様な子育て支援サービスについて幅広く補助を拡大する。最終的にはバウチャー方式(保育サービスの購入券)の導入により、施設への補助から利用者に対する補助へと転換を図る(注)。
 一方、こうした子育て支援サービスへの民活導入に際し、行政は消費者保護の立場から、モニタリング体制の充実を図る等の役割を担うべきである。
注:バウチャー方式については、子育て支援サービスを利用する人としない人との間の公平性、児童手当との整合性確保、換金性の有無等の検討課題がある。

b) 子育て支援策について重点的な財政配分
 少子化対策の重要性を認識し、財政構造改革を進めるなかで、不要不急の歳出を見直すとともに、真に必要な子育て支援等の施策に対して、重点的な財政配分をすべきである。

c) 縦割り行政の弊害をなくす
 子育て支援サービスを充実させるためには、保育所と幼稚園の連携を強めたり小学校の空教室を子育てのための施設として活用する等の有効な施策が求められる。その際、行政間における役割分担を明確にして縦割り行政の弊害を排除する等、実効ある仕組みを構築することが肝要である。


B 多様な子育て支援サービスの検討

 トータルな子育て支援サービスを整備するためには、更に様々な工夫が必要である。

a) 保育所の機能を拡大して、地域における子育て支援センターとする。

b) 保育所よりも柔軟でありベビーシッターよりも低料金のシステムとして、「家庭的保育制度」(注1)を検討する。
c) より身近なサービスとして、ベビーシッターを普及させる(注2)。

注1:欧米では比較的一般的な別名「保育ママ制度」。保育ママの資格認定や教育訓練等が必要。
注2:例えば、ベビーシッターの経験を学生の単位として認定する等。ただし、責任体制・適性・料金体系などについては更なる検討を要する。


(3)家族観再考とネットワークの活用

少子化対策として環境整備を進めることも有効であるが、それに先立ち根本的な家族のあり方をもう一度考え直すことは意義深い。結婚や子育ての負担ばかりに目を向けずに、自然な感情として喜びを感じ取れることが何より大切である。

@ 「男女が共に生きる」ことの尊重
単身世帯や共働き世帯が増加し、事実婚や別居結婚がみられるようになる等、家族形態が多様化している。これは、従来の家族観・制度の揺らぎを反映しており、こうした流れを食い止めることは難しい。
 結婚の形態にこだわるよりも、「男女が共に生きる」ことを尊重し、自然な男女・人間関係の構築を優先すべきではないか。晩婚化の進展により、特に20〜30歳代の男女が共に生活し、喜びや悲しみを分かち合う機会が減少しているのは憂うべきことである(注)。
 同棲・事実婚等が社会的に認知される風土が一層醸成されれば、それが共同生活への契機となり結婚・出産に繋がることも想定される。また、多様な家族形態を尊重するためには、夫婦別姓選択制度の導入や、婚外子差別の撤廃等も必要である。

注:他の先進国においても晩婚化が進展しているが、婚外出生の比率が上昇している(図表14)ことから、同棲等の共同生活をする男女はそれほど減少していないと考えられる。

A 家族と様々なネットワークによる理想的な子育て環境

 子育てについては、家族で行うのが基本である。子供には、優しさ(愛情)と厳しさ(しつけ)とが不可欠であり、両親が子育てにおいて積極的に役割を果たして協力し合うことが子供の幸せにも繋がる。また、親はいざという時のための助けとなる存在であると同時に、子供が巣立つ準備をさせることが大きな役割であることを強調したい。
 しかし、核家族化や共働き家庭の増加により、家族の扶養・互助等の機能が低下しているなかで、家族だけで子育てや教育を行うには限界もある。家族の機能・役割を補完するものとして子育て支援サービスを利用するとともに、近隣・親族等による様々なネットワークを構築し、積極的に活用していくことが重要である。


 以上、みてきた(1)〜(3)の少子化対策について、個人の多様な生き方を支えるための企業や国・地域の役割分担をまとめると、以下の図のようになる。

おわりに

 少子化の進展は、大きく変化している個人、特に女性の意識やライフスタイルに、現在の社会規範・システムが追いついていないことに起因している。従って、小手先の対策だけでなく、真の男女共同参画型社会の実現に向けて、社会システム全体を見直すとともに、根本的な個人の意識や生き方、男女の連携、家族のあり方を問い直すことが必要である。
 夫婦・親子は、心を絆にした結びつきが大切である。夫婦がお互いを尊重し労り合うとともに、親として、子供の将来を考え、社会の一員として幸せな人生を過ごせるように、責任を持って養育することが自然な姿であろう。子供が自己の体験を通じて家族とは良いものであると実感できれば、自身も家族を持ちたいとの意識が高まるだろう。
 これまで日本は、経済成長を至上命題に走り続けてきたが、その成果が個人に十分には実感できない。21世紀を前に今一度、将来の生き方、社会のあり方について考え、この素晴らしい日本の美質を更に活かし、魅力を高めていきたい。


以 上

HOME 提言一覧